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CBAほぼ完全ガイド

NBAとNBPAが新CBAにサインしたのがフリーエージェンシーの3日前の6/28でした。内容が676ページと膨大なので、各チームともフリーエージェンシーに向けて時間のない中でリーグオフィスに確認したりと大変だっと思います。

今回はその新CBAの重要な変更ポイントをNBAがメディア用にリリースした9ページの簡易バージョン(NBA Collective Bargaining Agreement – Key Deal Points)をベースにしてまとめました。「キャップの父」と呼ばれるラリー・クーンが重要視している変更点も取り上げます。これで今後のトレードやフリーエージェンシーのニュースにもついて行けると思います。

NEW CBAブレークダウン

新CBAは2023-24シーズンから2029-30の7シーズンまで有効です。何か問題があれば、NBAとNBPAは6年後の2028-29シーズンの後の2028年10/15ににオプトアウトする事ができます。

また、CBAでいちばん重要なのはBRIのシェア率ですが、これは変わらずに選手の取り分はこれまで通り51%のままになっています。

同じくサラリーキャップで重要なソフト・サラリーキャップも変わらずそのままで、ベーシックなミニマム、マックス、ルーキールケール契約延長の変更はありません。もっとも大きな変更は、ほぼハードキャップになると言われているセカンド・エプロンの導入です。このような変更がどのようなものなのか、NBAがメディア用に公開した「CBA Media Summary 2023 NBA Collective Bargaining Agreement – Key Deal Points」を順番に解説していきます。

ちなみに資料がCBAを反映した契約書フォーマットなので、これから紹介する内容もアメリカの契約書フォーマットを反映しています。


I. システム

A. エプロン・レベルとエプロンの上昇

1. ファーストエプロン・レベル

 キャップがタックス・レベルからおよそ$7M上。

*2023-24シーズンのキャップは$136,021,000なので、ファーストエプロンは$172,346,000になります。

2. セカンドエプロン・レベル

 キャップがタックス・レベルから$17.5Mに設定。

*2023-24シーズンのキャップは$136,021,000なので、セカンドエプロンは$182,794,000になります。現時点でセカンドエプロン超えのチームは、ウォリアーズ、クリッパーズ、サンズだけです。

3. エプロンの上昇

 それぞれのエプロンはサラリーキャップの上昇率に応じて増加する。

B. トランザクション・ルールについて

1. ファーストエプロン・レベル

a. バイアウト契約:ノンタックスペイヤーMLE以上のサラリー以上の選手とのバイアウトができない。

*昨シーズン、ラッセル・ウェストブルックがジャズにトレードされてからバイアウトでクリッパーズに行きましたが、これが今シーズンからできなくなります。これまで選手はデッドラインまでチームに残ろうとしていましたが、この改定により、今後はシーズン前にバイアウトを要求することが増えるかもしれません。

b. トレード:

i. TPE:トレードされた選手のサラリーの110%以上を超えた金額のTPEを使う事はできない。2023-24レギューラーシーズン最後の日の翌日から、チームはトレードされた選手のサラリーの100%を超える金額のTPEを使う事ができない。

*レギュラーシーズンの最終日までエプロン(ファースト)を超えたチームのトレードルールは、トレードする契約の125%の受け取りから110%の受け取りに減ります。例えば、今までは$33Mの選手をトレードして$40Mの選手を獲得する事ができていましたが、それが$36.6Mまでに制限されます。

**2023-24シーズンが終わると、トレードに出す選手の契約以上の契約を受け取れなくなります。これでエプロン超えのチームはサラリーを増やす事がむずかしくなります。

ii. 前からあるTPE:2023-24レギューラーシーズンの最後の日の翌日から、チームは前年度につくったTPEを使う事はできない。

*2023-24シーズンが終わると、チームは前のシーズンでつくったTPEの有効期限はそのシーズン終了とともに終わる事になります。これまでは1年の有効期限でしたが、シーズン終了でバッサリと切ってしまう事になります。トレード・デッドラインでつくったTPEでオフシーズンに補強をするという事ができなくなります。

2. セカンドエプロン・レベル

a. タックスペイヤーMLE契約:チームはタックスペイヤーMLEを使う事ができない。

*2023-24シーズンのタックスペイヤーMLEは$5Mですが、セカンドエプロンを超えているチームはこれが使えなくなりました。

b. トレード:2023-24レギューラーシーズン最終日の翌日から、チームは次のことができなくなる。

i. アグリゲーション:複数のトレードされた選手のサラリーをまとめてつくった時にできたTPEの使用。

*トレードで複数の選手をまとめて出して、ひとりのスター選手を獲得するような事ができなくなります。ひとりのスター選手を出して、複数の選手を獲得するのは可能です。

**これでチームが金にものを言わせてスター選手を獲得する事がかなり難しくなりました。セカンドエプロン導入はクリッパーズやウォリアーズのような金を使うチームを狙い撃ちにするためだと言われています。もし2022年にサラリー&タックスがリーグ1だったウォリアーズが優勝していなければ、これはなかったかもしれないと言う人たちもいます。

ii. キャッシュ:トレードで他チームにキャッシュを渡す。

iii. サイン&トレード:サイン&トレードによってトレードされた選手の契約をTPEで獲得する事。

*セカンドエプロンを超えるような金のあるチームは選手と契約するキャップがないので、戦力補強をするためにサイン&トレードを利用してきましたが、それができなくなりました。

3. トランザクション・ルールの管理

a. トランザクション・ルールは現行のCBAで規定されているタックスエプロン(タックス上限)ルールと同様に適用される。つまり、チームのサラリーが該当するエプロンレベルを超える場合、該当するトランザクションを行うことができなくなる。また、1つ以上のトランザクションを行ったチームは、その後のサラリーキャップ年度に該当するエプロンレベルを超えるサラリーを持つことができなくなる。

b. サラリーキャップ対象年度のレギュラーシーズン最終日以降に、上記のファーストエプロン・レベルおよびセカンドエプロン・レベルのルールに記載されたトレードを行ったチームは、その後、その年のサラリーキャップ対象年度の残り期間および直後のサラリーキャップ対象年度において、該当するエプロンレベルを超えるチームサラリーを持つことができなくなる。(ただし、2023-24シーズンのレギュラーシーズン最終日の翌日から2024年6月30日までの期間に行われるトレード・トランザクションには特定の移行ルールが適用される。)

*シーズン中にそれぞれのエプロンに達した場合、そのエプロンに対してハードキャップになります。また、レギュラーシーズン終了後から7/1までの間に達したエプロンが、そのシーズンと翌シーズンではハードキャップになります。


C. ドラフト指名権ルール

2024-25のサラリーキャップ年度の始まりから、もしサラリーキャップ年度でサラリーがセカンドエプロンを超えた場合、そのサラリーキャップ年度の翌年から7つ目の1巡目指名権は凍結される。それはその指名権はトレードできないという意味だ。

*2024-25シーズンでセカンドエプロンを超えた場合、2032年の1巡目はトレードできなくなります。早ければ2027-28シーズンが終わった翌日(2028年の夏)に2032年の1巡目がトレードできるようになります。もし次に4年の内2シーズンでセカンドエプロンを超えた場合は、2031-32シーズンの成績がどうなろうが、2032年の指名権は最下位30位になります。

5年先ではなく7年先の指名権のフリーズにしたのは、現在どのチームも2031年の1巡目指名権はまだ所有している状態なので、完全に7年先の指名権がフリーズできるように「7年先の指名権」にしたと思われます。

1. 指名権凍結

続く4つのサラリーキャップ年度の内、少なくとも2年セカンドエプロンを超える場合、凍結されたドラフト指名権は該当するドラフトの1巡目の最後に移動になり、引き続きそれをトレードする事はできない。

もし、当該ドラフトで凍結された指名権が最後になるチームが複数あった場合、その前年度のシーズンの総合順位から逆の順番で最後のチームが決まって行く。

*次の4年で2回セカンドエプロンを超えたチームの指名権は、たとえスター選手がケガしてロッタリー圏内に入ろうとも1巡目の最後まで順位が落ちてしまいます。

2. 指名権解凍

もし4つのサラリーキャップ年度の内、少なくても3つの年でセカンドエプロンと同額かそれ以下の場合、凍結された指名権が解凍され、トレードできるようになる。また、指名権の順位制限がなくなる。

*次の4年で3回セカンドエプロン以下になれば、また指名権をトレードで使えるようになります。


D. タックスシステム

(i)2025-26シーズンから、最初の2つのタックス・ブラケットの税率を減少させ、より高いタックス・ブラケットの税率を増加させ、また、リピーター・タックス率を増加させる。(ii)2024-25シーズンから、サラリーキャップの成長率に応じてタックス・ブラケットを増加させる。

1. スタンダードタックスレート

タックス・ブラケットブラケットのタックスレート
(2023-24と2024-25のサラリーキャップ年度)ブラケットのタックスレート
(2025-26のサラリーキャップ年度の開始)$0~$4.99M$1につき$1.50$1につき$1.00$5M~$9.99M$1につき$1.75$1につき$1.25$10M~$14.99M$1につき$2.50$1につき$3.50$15M~$19.99M$1につき$3.25$1につき$4.75$20M以上$5Mにつき$0.50(タックスライン超えが$20M~$24.99Mになった場合、 $1につき$3.75かかる)$5Mにつき$0.50(タックスライン超えが$20M~ $24.99Mになった場合、 $1につき$5.25かかる)

*2025-26シーズンになれば、タックスを$10M出たくらいでは問題はりませんが、$10Mを超えると1ドル払うにつき$3.5ドルを払わなくてはいけなくなり、現在のリピータータックス級のタックスがかかってきます。

2. リピータータックスレート

タックス・ブラケットブラケットのタックスレート
(2023-24と2024-25のサラリーキャップ年度)ブラケットのタックスレート
(2025-26のサラリーキャップ年度の開始)$0~$4.99M$1につき$2.50$1につき$3.00$5M~$9.99M$1につき$2.75$1につき$3.25$10M~$14.99M$1につき$3.50$1につき$5.50$15M~$19.99M$1につき$4.25$1につき$6.75$20M以上$5Mにつき$0.50(タックスライン超えが$20M~$24.99Mになった場合、 $1につき$4.75かかる)$5Mにつき$0.50(タックスライン超えが$20M~ $24.99Mになった場合、 $1につき$7.25かかる)

*2025-26シーズンになれば、$20M超えのスーパータックス・チームはミニマム($2.3)の選手と契約すると、$16M以上払わなくてはいけなくなります。ちなみに、この年のノン・タックスペイヤーMLEが$14.2Mになるので、タックスチームの負担はより大きなものになります。


E. ミニマムチームサラリー(MTS)

1. MTS以下

もしレギュラーシーズン開幕時に、チームサラリーがMTS(ミニマムチームサラリー)以下の場合:

a. チームはその差額をNBAに支払う:以前のCBAでは、その差額をチームに所属している選手に分配する事になっていたが、それをNBAの全ての選手に分配する。

b. チームはタックス分配金を受け取れなくなる:2023-24シーズンではタックス分配金50%のみが受け取れる。その後はチームはタックス分配金を受け取れなくなる。

*昨シーズンでいえば、スパーズはタックス分配金の$15.2Mを受け取れなくなります。

c. 差額分はチームのサラリーに追加される。

*今シーズンのサラリー・フロアは$122.4Mです。チームはレギュラーシーズン開始までに最低ここまで使わないといけなくなります。確実に選手たちに契約がまわってくる仕組みに改善されました。

2. MTS制限

レギュラーシーズン開幕から、チームはサラリーをMTS以下にする事はできない

*キャップがサラリー・フロアーから下がるようなトレードができなくなりました。


F. サラリーキャップ・エクセプション

1. ノン・タックスペイヤーMLEの増加

ノン・タックスペイヤーMLEが7.5%増え、サラリーキャップの9.12%と等しくなる。

*今年のサラリーキャップは$136Mでノン・タックスペイヤーMLEは$12.4Mになっています。

2. ルームMLEの増加

a. ルームチームのMLEが30%増加:サラリーキャップの5.678%と等しくなる。

b. ルームMLEの契約年数が2年から3年になる

*ルーム・エクセプションに3年目がついたのと金額が増加したのは重要で、どちらかと言うとオーバー・ザ・キャップでチームづくりをするインセンティブが減ってきます。そうなると、ミドルクラスの選手は追加の3年目と金額増加で助かるだけではなく、FAでの全体的な選手の動きが生まれてくると言われています。

3. タックスペイヤーMLE

a. タックスペイヤーMLE:2023-24は$5Mになり、サラリーキャップの成長率により増加する。

b. タックスペイヤーMLEの契約年数:3年から2年に減る。

*昨シーズンのタックスペイヤーMLEが$6.47Mとキャップの5%くらいだったのに対して3.6%くらいまでに減っています。タックスチームの戦力強化に影響が出てくるでしょう。

4. TPE

a. トレード許容額:175%から200%に増える。タックスラインとファーストエプロンの間のチームはそれを使える。

b. トレード許容額:$5Mから$7.5Mに増え、以後サラリーキャップの成長率に応じて増加する。タックスラインとファーストエプロンの間のチームはこれを使う事ができる。

エプロン以下のチームのトレードルールを詳しく説明すると以下のような内容になります。

  • 出て行くサラリーが$7.5Mまで:200%+$250,000のサラリーを受け取れる

  • $7,500,001~$29M:フラットに$7.5M

  • $29M以上:125%+$250,000に限られる

ちなみに以前は以下のような内容でした。

  • 出て行くサラリーが$6,533,333まで:175%+$100,000のサラリーを受け取れる

  • $6,533,334~$19.6M:フラットに$5M

  • $19.6M以上:125%+$100,000に限られる

*タックスを払っていないチームは$6.5Mまでのトレードで200%多い契約を得る事ができるようになります。同じように、$6.5M〜$19.6Mまでのサラリーの選手のトレードでは、それに$7.5Mを足した契約を得る事ができるようになります。$19.6M以上の契約には触れていないなかったのは、以前のままの125%だったからだと思われます。

5. MLEとBAE

チームはノン・タックスペイヤーMLE、ルームMLE、またはBAEを使って、トレードやウェイバークレームでひとり以上の選手を獲得できる。

6. セカンドラウンドピック・エクセプション

新しいエクセプション。指定されたサラリーまでの3年、または4年の契約で2巡目指名選手と契約する事ができる。チーム・オプションを含む3年契約が可能。1年目のサラリーは1年経験選手のミニマムまで払える。チーム・オプションを含む4年契約が可能。1年目と2年目のサラリーは2年経験選手のミニマムまで払える。

*これでMLEを削って2巡目指名選手(30~40位指名くらい)と契約しなくてもよくなります。

**また、セカンドラウンド・エクセプションで早めに契約しても、そのサラリーは7/31までカウントされません。選手にとってはサマーリーグ前に契約が保証され、チームにとってはMLEがそのまま使えるので、キャップの自由度があがるようになります。

***ラリー・クーンもこの規定導入でこれからチームがどのようにしてMLEを使うようになるのか注目しているそうです。前述したように、チームはMLEをトレードでもバイアウトでも使えるようになります。


G. 契約延長の自由度

1. 最高契約延長サラリー額

ベテラン契約延長の最初のシーズンのサラリー増加率は120%から140%に増える。

*サラリーの$120%増加率よりもキャップの30%の金額の方が多くなるので、チームは選手をキープできずにフリーエージェンシーになられてしまっていました。フリーエージェンシーになればバードライツの5年目があるとはいえ、その選手に出て行かれるリスクも高くなります。その問題を解消するために契約延長は前年度のサラリーの$140%まで増やす事ができるようになりました。例えば、ジェイレン・ブラウンがセルティクスと契約延長する場合は4年$161Mしかもらえず、フリーエージェントになって他チームと契約できる4年$189Mとは大きな差があり、選手にとって契約延長するメリットがありませんでした。このジレンマを解決するためにつくられたこの新しい契約延長ルールは「ブラウンルール」と呼ばれています。結局ジェイレン・ブラウンはオールNBAに入れたため、5年$288M(現時点で予想されているキャップの$142Mで計算)のスーパーマックスで再契約しました。ホークスやキングスがブラウンルールの恩恵を受け、この夏デジョンテ・マリーやドマントス・サボニスと契約延長をしています。

2. ルーキースケール契約延長

以前はルーキースケール・マックス契約延長した選手のみが5年契約できたが、ルーキースケール契約延長した選手でも5年までの契約ができるようになる。

3. ロースター制限

スーパーマックス(デシグネイテッド・ベテラン)とルーキースーパーマックス(デシグネイテッド・ルーキースケール)契約の選手の人数制限が撤廃される。

*例えば、これでマックスのダリアス・ガーランドとドノヴァン・ミッチェルがいるキャブスはエヴァン・モブリーにマックス契約延長を与えることができるようになります。

4. エクステンド&トレード

2024-25シーズンから、契約延長した選手のトレードについて、(a) 契約年数が3年から4年に増加し、(b) 契約延長の最初の年の最大サラリーが、その選手の前のサラリーの105%から、選手の前のサラリーか推定平均選手サラリーの大きい方の120%に増える。

*これまでのルールでは、そのような契約延長は最低でもオプション金額からはじまる必要がありました。これからは、選手たちはプレーヤー・オプションを取り下げてもオプションのサラリー以下のサラリーから長期契約延長できるようになり、チームもベテラン選手を適正価格でキープしやすくなります。


H. レギュラーシーズン・パフォーマンス インセンティブと賞について

1. 出場試合数

a. 資格要件:MVP、オールNBA、DPOY、オール・シフェンシブチーム、MIPを受賞するためには次にふたつの要件の内少なくともひとつを満たさないといけない。

i. レギュラーシーズン65試合出場。または、

ii. 選手は(A)少なくても62試合出場し、(B)5/31までプレーできない保程のケガをした場合、(C)ケガの前に最低でもチームのレギュラーシーズン85%以上に出場。

選手がレギュラーシーズンの試合に参加したとみなされる条件は、その試合で選手が少なくとも20分間プレーした場合(ただし、シーズンごとに最大2試合については、選手が15分から20分の間プレーした場合も出場試合としてカウントされる)。

*バックスのジュルー・ホリデーがやったように、ボーナス獲得のために1分だけ出場して試合数をかせぐような事ができなくなります。63試合は最低20分の出場+2試合は最低15分の出場でなければいけません。

**選手はチームが賞を取らせないために(ボーナスを払いたくないために)意図的にプレー時間を制限されたと苦情を申請できるようになりますが、それはルーキー契約延長でキャップの25%以上の契約やベテランマックス契約がかかっている場合に限られるます。

b. 例外:CBAには、試合出場の基準を満たさない選手でも、適用される賞に対して一定の例外が設けられる。例えば、選手が65試合出場基準を満たすのは確実だと思われたが、特別な諸事情で受賞資格を剥奪されるのが不当だと証明できる場合などだ。

*このCBAルールでは、昨シーズンにDPOYを受賞したJJJは64試合しか出場していないので受賞資格が得られないことになります。シーズン最後の試合では順位もすでに決まっていたので欠場していましたが、仮に彼がその試合に出場したとしても、12月に12分だけしかプレーしなかった試合があったため、結局64試合になってしまいます。オールNBAチーム入りした選手で言うと、ヤニス・アデトクンボ(63試合)、ステフ・カリー(56試合)、ジミー・バトラー(64試合)、レブロン・ジェームズ(55試合)、デミアン・リラード(58試合)がオールNBA入りができない事になります。

2. レギュラーシーズンのパフォーマンス

MVP、オールNBA、DPOY、オール・シフェンシブチーム、MIPの投票者は、選手のシーズン全体の総合的なパフォーマンスを考慮するよう指示される(選手の総試合数と出場時間を考慮に入れる)。

3. ポジションレスの投票

オールNBAとオール・ディフェンシブチームの投票者は、ポジションに関わらず、その当該賞に最も相応しい選手に投票するように支持される。

*これでトップ5プレーヤー確実だったニコラ・ヨキッチがポジションの縛り(センターは各チームにつきひとりのみ)のためにセカンドチームに入らなくてはいけないようなケースがなくなります。


I. サラリーキャップ・スムーシング

どのサラリーキャップ年度に於いても、サラリーキャップとタックスは減らないし、10%以上あがる事はない。

*キャップが急激にあがる事がない代わりに、キャップが下がる事もありません。2016年にキャップが$70Mから$94Mになったキャップスパイクがありましたが、その時にリーグのトップ選手のひとりだったケヴィン・デュラントが73勝したウォリアーズにFAで入ったり、2016年の夏にタイミングよくFAになったルオル・デン(4年$72M)やニコラス・バトゥーム(5年$120M)らの一部の選手たちしかスパイクの恩恵を受けれなかった事がありましたが、これはこのような事が二度と起きなくなる代わりに、パンデミックなど売上がさがるような事があってもキャップがさがらないようにするためにのものです。


J. 他の変更

1. オファーシートのマッチング期間

12:00pm(ET)前にRFAのオファーシートを受け取ったチームは次の日の11:59pm(ET)までにマッチしないといけない。モラトリアム期間中に受け取ったオファーシートに関しては、7/7の11:59pm(ET)までにマッチする必要がある。

2. ストレッチのルールの自由度があがった

チームは8/31までに1度だけ終わらせた契約をその選手の残りの契約年数の2倍+1年に渡り分割する事が許される(この変更点は、2023-24シーズン開始前に契約が解除された場合には適用されない)。

*ストレッチ&ウェイブのルールが緩くなりました。これまでチームは選手をウェイブした選手のサラリーをどうするか決めるのに3日間しかありませんでしたが、それを8/31までに決めればよくなりました。これは7/1以降にウェイブした契約に限られます。また、これまで7/1時点で結ばれている契約のストレチ&ウェイブの下限は$250,000でしたが、それが$500,000までに引き上げられました。

3. ロスターの自由度

アクティブリスト:チームはどの試合でもアクティブリストを15人にできる。

*これまでは14人でした。

4. チームに所属している選手との交渉

NBAファイナルズが終わった翌日から、チームはその時点で所属している選手と契約交渉を始める事が許可される。他の選手との契約交渉開始に関する変更はなし。

*モラトリアム期間の交渉はOKですが、それをチームやエージェントから発表することやリークするのはNGだそうです。今後FAの醍醐味は、チームがどの選手がいくらで契約したので、残りのキャップはいくらになって、どのような選択肢が残されていて、はたしてどうするのか?というシュミレーションも盛り上がれる事です。FAの契約ニュースは大事なエコシステムを担っていますが、今後Wojやシャムズがどうしていくのか気になるところです。


II. ビジネス機会

A. 選手協会がNBAチームに投資をするプライベート・エクイティー・ファンドに参加できる

NBAチームに投資をするプライベート・インベストメント・ファンドに全ての選手に代わりパッシブ投資が許可される。ただし、(他の条件もあるが)その投資はファンドの投資額の5%を超えてはならない。

*また選手はNBAオーナーが投資する会社に12.5%まで投資ができるようになります。こへはセーフハーバー・ルールと言われ、前回のCBAから5%アップ。

B. インディペンデントのWNBAチームへの投資

NBA選手はインディペンデントのWNBAチーム(例:NBAオーナーが所有していないチーム)への投資が許可される。ただし、1人の選手は1つの独立したWNBAチームにしか投資できず、投資額はチームの4%を超えてはいけない。また、1つの独立したWNBAチームのNBA選手たちの所有率は8%を超えてはいけない。

*もしNBAオーナーがそのWNBAチームを買収したら、NBA選手はその株式を売却しなければいけないそうです。

**NBA選手のエージェントやレップはWNBAチームに投資できません。

C. 新興市場

1. スポーツ賭博とファンタシー・スポーツ

a. 投資:選手はスポーツ賭博またはファンタシー企業にパッシブ投資で非支配株主持分を持つことができる(NBA関連の賭けやコンテストを提供または仲介する企業に関しては、保有できる株式は1%未満に制限される)。

b. エンドースメント:選手はスポーツ賭博とファンタシー・スポーツのエンドースメントに参加できる。これは(i)一般的なブランドのエンドースメント、または(ii)NBA以外のスポーツへのベッティングのエンドースメントになる。

2. カンナビス

a. 投資:選手はCBDを含む製品を製造している企業に投資することができる。また、選手は大麻を含む製品を作っている企業に対してパッシブ投資による非支配株主持分を持つこともできる。

b. プロモーション:選手は引き続き大麻企業のプロモーションを禁止されるが、CBDを含む製品を製造している企業のプロモーションは許可される。

*大麻商品を販売する会社のCBD商品のプロモーションはNBAとNBPAの許可が必要になります。

**ケヴィン・デュラントはすでに自身の投資会社を通して大麻販売とデリバリーのスタートアップに投資していますし、クレイ・トンプソンもすでに「Just Live」というCBDブランドに出資をしてプロモーションも行なっています。他にはカーメロ・アンソニーやジョン・ウォールも大麻企業に投資をしていました。


III. NBAドラフト・コンバイン

2024年のNBAドラフトコンバインからは、招待されたすべての選手は出席してコンバインに参加することが義務付けられる(5-on-5のみは任意参加)。ただし、NBAが医療上またはその他の正当な理由で参加を免除した場合は除く。

A. コンバイン参加の拒否

参加免除されずにコンバインに参加しない招待選手は、その後のコンバインに参加出席しない限り、NBAのドラフトに参加できる権利を失う。

*コンバインでは、メディカル検査、医療歴の共有、バイオメカニカルと昨日運動のテスト、強さとアジリティーのテスト、シューティング・ドリル、パフォーマンス・テスト、身体測定値、チームインタビュー、メディア会見、プレーヤー・デベロップ・セッションなどへ参加しなければいけません。

**国際大会やケガなどで止むを得ず参加できなかった場合は別日にリスケされます。それができなければドラフト資格を失います。

B. チームがアクセスできる制限

1. チームのアクセス

トップ10プロスペクトと評価される選手に関するコンバインの医療/検査情報は、その選手の潜在的なドラフト指名レンジ(以下に示す)の指名権を持つチームのみに提供される。

  • ランク1位:ドラフトレンジ 1~10位

  • ランク2~6位:ドラフトレンジ1~15位

  • ランク7~10位:ドラフトレンジ1~25位

コンバイン後に指名権をトレードしたチームは、そのトレードに関連付けられたドラフトレンジに入る選手の医療/検査情報にアクセスできるようになる(例:16位の指名権を持つチームがトレードで15位の指名権を獲得した場合、そのチームはその後、2位から6位にランクされる選手たちの医療/検査情報にアクセスできるようになる)。

*過去にエージェントは自分のクライアントの医療情報を魅力的ではない球団に渡さない事でドラフト先を誘導していましたが、もうその手を使うことができなくなります。これまでドラフト指名が確実なトップ・プロスペクトたちはコンバインに参加しないことが多かったですが、それも回避できなくなります。

**また、エージェントが主催するコンバインのようなプロデーに参加するチームは制限されるようになります。チームのスカウトは無駄な作業がなくなってよろこんでいるようです。

2. ランキング

NBAとNBPAは、毎年のドラフト・ロッタリー前に、トップ10のプロスペクトをランクする方法に合意する。


IV. 反ドラッグ・プログラム

A. 禁止薬物リスト - 大麻

1. 大麻は禁止薬物リスト(PSL)から除外される

NBAまたはチーム関連の活動中に選手が大麻の影響下にあると疑われる場合、または大麻に関連する依存問題がある場合、チームはその選手を治療プログラムに参加させることができる。

*NBAはバブルから大麻は検査しない方針で、この数年は実質解禁になっていました。ケヴィン・デュラントもコミッショナーのアダム・シルヴァーに大麻解禁を直訴したと話していました。

2. 処分

NBAおよびチームは、選手がチームの活動中に薬物の影響を受けているか、法律に違反している場合に、合理的な処分を科すことができる。[/su_box]

B. 手順/プロトコル

1. 検査数

シーズン中、NBAはランダムな尿検査をトータルで1925回までする権利を有する。

2. 解雇/資格喪失

反ドラッグ・プログラムにより解雇と資格喪失処分を受けた選手は、解雇と資格喪失から12か月後に再審査の申請が可能になる(以前は24か月だった)。


V. 選手資格とGリーグ

A. 自動的資格

選手はGリーグ・イグナイトなどのNBAではないプロフェッショナルのバスケットボールチームに奉仕した事で、自動的にNBAドラフトの資格を得ることはない。その代わりに、そのような選手はドラフトカレンダー年に22歳か、22歳になるのであればNBAドラフトの資格が自動的に得られるようになる。

*これまでは19歳になれば自動的にドラフト資格を得られていましたが、Gリーグ・イグナイトやオーバータイム・エリートやオーストラリアのNBLなどとプロ契約した選手は22歳になるまでドラフト資格が与えられなくなります。しかし、2024年のトップドラフト候補でイグナイトでプレーしているロン・ホランドやマタス・ブゼリスはドラフトに入るようなので、対象はこれからプロリーグに入る選手なのかもしれません。

B. 2Way契約

1. 2Way契約選手の数

チームがロスターに2Way契約の選手を持てる数は2から3に増える。

*2way選手は、レギュラーシーズンの初日にサラリーの半分を保証する交渉ができるようになりました。

2. 契約デッドライン

CBAの第II条11(f)(i)に記載されている2Way契約のデッドラインだった1月15日が、3月3日になる。

C. エキシビット10契約のボーナス

エキシビット10の最大ボーナス金額は、2023-24シーズンに$50,000から$75,000に増え、その後サラリーキャップの上昇率に応じて毎年増加していく。

D. オフシーズン/トレーニング・キャンプのロスター数

オフシーズンとトレーニング・キャンプのロスター制限数は21に増える(これまでは20)。


VI. インシーズン・トーナメント

2023-24シーズンから年に1度インシーズン・トーナメントが開催される。このトーナメントはグループステージとノックアウトステージの2つのステージで構成される。すべての30チームがグループステージに参加する。レギュラーシーズンの試合がトーナメントの試合に指定される。これらの試合の成績に基づいて、8つのチームがシングル・エリミネーションのノックアウトステージに進み、1つのチームがインシーズン・トーナメントのチャンピオンに輝く。

*賞金:優勝チームの選手ひとりにつき$500K、準優勝チームの選手ひとりにつき$200K、準決勝の敗者にはひとりにつき$100K、準々決勝の敗者にはひとりにつき$50K。賞金金額はBRIの上昇率で決まっていくそうです。


VII. ベネフィット(サラリー以外の経済的利益)

A. 選手のベネフィット

新CBAでは、選手のベネフィットが向上しており、授業料の返済金額が増額され、コロナによるシーズン短縮に対するキャリア後の収入プランへの貢献、2Way選手のための医療および退職給付金の充実、NBAレガシーファンドへの資金額が増加する。

B. プレーオフ・プール

2023-24シーズンのプレーオフ・プールは15%増加し、それ以降も毎年サラリーキャップの上昇率に応じて増加する。


その他

ここからはメディア用に配布された「NBA Collective Bargaining Agreement – Key Deal Points」以外で目にした変更点を紹介します。

NTCのウェイブ:選手はバードライツを失うようなトレードを拒否できる権利(NTC:ノートレード条項)を持っていますが、新しいCBAではそれを契約時に取り下げる事が可能になりました。この夏にFAだったディアンジェロ・ラッセルがレイカーズと2年$36Mの再契約をした時にNTCをウィエブしています。

トレードで使えるミニマム契約制限:12/15からトレード・デッドライン以外の期間で、トレードに出す事ができるミニマム契約の数に上限が設けられます。その期間外にチームがトレードで2つ以上のサラリーをまとめて少なくても1人の選手を獲得するようなトレードをする時、そのチームが獲得する選手のサラリーよりもまとめて出す選手たちのサラリーが多くなる場合は、そのチームはひとつ以上のミニマム契約を出す事ができなくなります。エプロンを超えているチームのサラリーマッチは110%に限定されているので、これで更に夏やドラフトでのトレードのサラリーマッチが厳しくなりそうです。ただし、もしそのチームが出す契約がふたつのミニマムだけの場合は問題なくトレードができます。

リネゴシエーション:リネゴシエーションした選手のトレードは最低でも6ヶ月は待たなくてはいけなくなります。また選手がトレードされた場合、その選手は6ヶ月間リネゴシエーションできなくなります。

ルーキースケールのキャップカウント:新CBAでは1巡目指名権のサラリーは契約するまでルーキースケールの120%でカウントされるようになります(今まではサマーリーグ前に100%で契約したい選手とサマーリーグの活躍を見せた後に120%で契約したい選手たちがいたため、キャップの数字がまとめずらかったのですが、それが改善されます。)

インセンティブ:インセンティブのトータル金額は選手のベースサラリーの20%以上にできなくなります。また、ボーナスの評価は契約中ずっと同じままになります。

ライセンスの売上のシェア:選手たちはチームがライセンス契約で得たお金もBPIを通して得る事ができるようになりました。例えば、楽天がウォリアーズのユニフォームにつけるロゴのパッチ契約は年間$20Mだと言われていますが、今まではそのお金はオーナーの懐(球団)に入っていたのがBPIに入る事になります。これも選手側の勝利だと言われています。

エージェントへの罰金:新しいCBAでは、リーグのタンパリング・ルール、トレード要求の公表、フリーエージェンシーの交渉の開始時期に関するルールに違反したエージェントはNBPAから最高$125,000までの罰金を科されるかもしれないと規定されています。

タンパリングへの罰金:NBAは早すぎるフリーエージェンシー交渉に関する規則に違反したチームやチーム関係者に罰金を科すことができるようになります。これらの罰則には、最高$2Mまでの罰金、ドラフト指名権の剥奪、および/またはそのチームで働く人の出場停止処分が含まれます。

ロスターの人数:レギュラーシーズン中に、チームは合計28日以内、連続14日以内に限り、NBAのスタンダード契約をしている選手を14人以下にできるようになります。

ワン&ダン:大学アスリートのワン&ダン廃止はなくなり、高校から直でNBA入りする事はお預けになりました。チームは高校生のスカウトまでやりたくなく、選手たちもワン&ダンがなくなるとベテラン選手のロスタースポットが減るため、ワン&ダン廃止には各方面からの反対があったと思われます。大学選手もNILで稼げるようになったため、NCAAからの搾取から守らなくてもいいという考えもあったようです。

海外選手のバイアウト:チームが海外選手の契約をバイアイトした場合、その支払い後1年間はその選手と2way契約やエキシビション10契約でサインする事ができなくなります。

ウェアブルデバイス:CBAは選手が練習中につけるウェアブルデバイスの9のメーカーを指定。選手はウェアブルデバイス使用を拒否できます。

タイムゾーンを超えての試合:これからは2つのタイムゾーンを超えた同じ日に試合をする事が可能になります。ただ、ヘビーな移動の後の2連戦はおこなわないようです。例えば、テキサスから2時間遅れのフェニックスで2連戦するということがなくなります。懸念があった場合は事前にNBPAに知らされるそうです。

正月とグッドフライデーの試合:正月とグッドフライデー(イースターの前の金曜日)の試合は、ローカル時間の6:00 pm前に始める事ができなくなります。

リーグパス:2Wayと10Day契約以外のすべてのNBA選手は無料でNBAリーグパスにアクセスできます。

今回のCBA改定で、ケヴィン・デュラントやベン・シモンズのように、契約が複数年残っていてもトレード要求をした選手のサラリーを減らすような規定はつくられなかったようです。なんだかんだで、このようなニュースはNBAも注目を浴びるので得をするという意見もありますし、NBPAも選手の要望を阻止するような規定には断固反対のスタンスだったと思われます。

全体的に、今回のCBA改定では、タックスや指名権のフリーズやMLE制限などでビッグスペンダーと言われるクリッパーズやウォリアーズなどのチームに厳しくなっている代わりに、タックス・ブラケットやエクセプションの制限をゆるくしたりと、ファーストエプロンまでのミッドスペンダーには金を使わせるような内容になっています。これでスーパーチームがなくなり、競争が厳しくなってNBAがもっと盛り上がる事が狙いでしょうが、どうなるのでしょうか。ラリー・クーンもセカンド・エプロンやトレードにも使えるようになったエクセプションがこれからどのようにリーグに影響を与えていくのか注目しているようです。今回の改定がリーグ全体にどのような影響をもたらすのか、これからのNBAシーズンがますます興味深くなりそうです。

以上でCBA改定のまとめは終わりになります。元々の契約書が600ページ以上もあるので、新たな情報が出てくるのは確実ですが、とりあえず今後のトレードやフリーエージェンシーにもついていける内容だと思います。新しいCBAがファンにとって魅力的な展開をうみだす事を期待しています。

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