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キャヴァリアーズ特集

年末年始でもっとも話題を集めたのはキングスのヘッドコーチ解雇やジミー・バトラーvsヒート騒動でしたが、新年幕開けは希望あふれる前向きな話題でスタートを切りたいものです。そこで、2025年の一発目は、現在(*1/5時点)30勝4敗とNBAの成績No. 1で、シーズン71勝という驚異的なペースで勝利を重ねているクリーブランド・キャヴァリアーズを取り上げます。

キャヴスは中心選手が昨シーズンと同じにも関わらず、新しいオフェンス・システムの導入により、オフェンスが16位(114.7)から一気に現在リーグでトップ(121.3で2位のサンダーは114.8)になっています。昨シーズンはガーランドやモブリーのケガに悩まされたとは言え、この数字の爆上げには目を見張るものがあります。新ヘッドコーチのケニー・アトキンソンは何をしたのでしょうか?

それを掘り下げるために、今回はキャヴスに関しての2つの記事の紹介します。特に2つ目のキャヴスのオフェンスに迫る記事はオススメです。

  1. 今季のキャヴスのはじまりを描いたThe Athleticのサム・エイミックの11/27の【記事】ドノヴァン・ミッチェルとケニー・アトキンソンの「ローテク」なミーティングがキャヴスを一段と強くした

  2. リーグNo.1オフェンスに迫るThe Athleticのジャレッド・ウェイスの12/4の【記事】キャヴスのオフェンスがNBAを席巻している理由

これで今季のキャヴァリアーズの強さをより理解できると同時に、彼らのプレーを見るのがより楽しめるようになると思います。1/9(米時間)の頂上決戦とも言うべきキャヴス対サンダー戦前にぜひご一読を!

(*訳は重要と思われる部分だけ抜き出しているので、内容すべてに興味がある方はリンクからオリジナル記事に飛んでください。尚、記事が有料の場合がありますので、ご了承ください)


ドノヴァン・ミッチェルとケニー・アトキンソンの「ローテク」なミーティングがキャヴスを一段と強くした

6月下旬、ロサンゼルス郊外のフォーシーズンズ・ウェストレイク・ヴィレッジで、ケニー・アトキンソンがドノヴァン・ミッチェルとランチをした時、彼の使命は明確だった。クリーヴランド・キャヴァリアーズのフランチャイズ・プレーヤーであるミッチェルに、チームと将来的な契約を結ぶように信頼と確信を与え、フリーエージェントの脅威が迫るのを防ぐことだった。

57歳のアトキンソンはキャヴスと契約を交わして数日しか経っていなかった。キャヴスの次なる課題はチームの未来を確実なものにすることだった。iPadがどのコーチのベンチにもあり、パワーポイントがルーティンの一部になっているこのNBA時代において、この重要なX’s&O’sのセッションは驚くほどローテクだった。

「私たちはプレイスマットの上にファッキン塩と胡椒を使って(アトキンソンのビジョンを)確認していたんだ」とミッチェルは言った。「この選手をここに置いて、この選手をそこに置くんだ。普通のランチの場でこんな議論をしていることに正直驚いたんだ。本当にすべてを整理しようとしていて、『よし、この選手をここに入れて、この選手はどこに置く?』みたいな感じだった。エヴァン(モーブリー)はここでライフル・アクションをやる。彼がこの(アクション)をセットして、スリップできる。私たちはすべてを見直していた」

ブルックリン・ネッツの元ヘッドコーチであり、前の4シーズンはゴールデンステートでアシスタントを務めていたアトキンソンは、ミッチェルのことをよく知らなかった。2人がはじめて接点を持ったのは2017年のことで、ミッチェルがドラフト前にブルックリンでワークアウトを行った時、アトキンソンがそこにいたことだけだった。でも、それ以外では完全に赤の他人だった。

とはいえ、それも長くは続かなかった。

「黒板を使ったミーティングみたいな感じにはしたくなかったんだ」とアトキンソンはミーティングでのアプローチについて話した。「もっとカジュアルな感じにしたかった。彼がどうプレーしたいか、チームについてどう思っているかを知りたかった。『ロスターを見ていこう。全員について教えてくれ』と言ったんだ。そして、彼の話は驚くべきものだった。まるでコーチと話しているみたいだったよ。彼は本当に深い知識を持っていた。彼は全ての選手について詳しく話してくれた。それが私にとってのきっかけになった。まるで『これが青写真だ』と思ったよ。そして、どういう戦略でいくのかについて彼と話したんだ。彼のIQは本当にすごい。本当に群を抜いている。私たちはすぐに意気投合した。戦略的にね。それが重要なんだ。会っても意気投合しないことだってある。でも、彼は最初から納得してくれたんだ」

これは簡単な提案ではなかった。アトキンソンはこの仕事を勝ち取るために、ニューオーリンズのアソシエイト・ヘッドコーチであるジェームズ・ボーレゴや、ミネソタのリード・アシスタントであるマイカ・ノーリを打ち負かした。そして、彼はミッチェルに、チームのために自分の責任やプレータイムの一部を犠牲にすることを求めることになった。つまり、これは「レス・イズ・モア(Less is more)」戦略をミッチェルに売り込む最初で最高の機会だった。

彼は、28歳のミッチェルの出場時間を減らすことで、プレーオフに向けて健康を維持することを目指していた。アトキンソンはモブリーにより大きなプレーメイキングの役割を与え、彼をウォリアーズのドレイモンド・グリーンのような存在にしようと考えていた。それによりミッチェルがボールを持つ時間を減らし、同時にガーランドにプレーメイカーとしての役割をさらに任せることができるようになる。また、アトキンソンは、それまでの予測可能なピック&ロールやアイソレーションに依存した戦術を避けるモーション・オフェンスを導入しようとしていた。モーション・オフェンスでは、絶え間ないカットやリバウンドへの積極的なアプローチが重要な原則となる。

そして、リック・アデルマン、マイク・ダントーニ、マイク・ブーデンホルザー、スティーヴ・カーといったNBAの名将たちから影響を受けてきたアトキンソンは、自分のビジョンを語る前に、まずミッチェルの意見を聞くことを選んだ。

このパートナーシップはそこから始まった。

「むずしくはなかったよ」とミッチェルはアトキンソンのメッセージを信じることについて言った。「ただ違うんだ。今年は去年とは違うアプローチだから。出場時間は減っているし、もちろん平均スタッツも下がっている。でも、それは彼を信頼できるかどうかの問題だ。こういう人が『これが私たちを次のレベルに引き上げる』と言っているなら、簡単に信じられるよ」

この重要な関係性を築いたミーティングの数日後、ミッチェルが3年$150Mの契約延長を決断したことで、キャヴスは今のタックスが重くのしかかるNBAで、ほとんどのチームが持ち得ない「優勝争いのための延ばされたチャンス」を手に入れた。今、ミッチェルとアトキンソンの関係が「バタフライ効果」を生み出す中で、このキャヴスが期待に応え、ミッチェルが経験してきたような予想外の失望を避けられるかどうかが問われている。

ミッチェルの契約の後、さらなる基盤固めが進められた。モブリーは7月末に5年$224Mの契約延長を結び、アレンも8月初めに3年$90Mの契約を結んだ。ついにコアが確立された。そして今、リーグ最高の17勝1敗という戦績を誇り、全ての統計がキャヴスが特別なチームであることを示している中で、ミッチェルはこれを認める準備ができたようだ。プレーオフでの痛みを8シーズンにわたって経験した後、彼は再びポストシーズンに期待を抱いている。

「今じゃ冗談みたいに言ってるけど、『私たちは自分自身を追い詰めてしまった』って。だって、これで自分たちが何者かを見せてしまったんだよ。これが私たちだ。これが基準になる。私の目には、これが最低限だと思っているし、まだまだ成長は続いている。エヴァンはまだ可能性の一端に触れただけだし、DGも私ももっと成長している。ジャレットもだ。だからまちがいなく、エキサイトメントがある」

「私は(コーチの)決定を球団に任せたかったんだ」とミッチェルは言った。「もちろん、みんなは私が全部やったんだろうって思うかもしれないけど、結局のところ、私はコービーを信じているし、フロントオフィスを信頼してる。『よし、この決定だ』っていうのを信じて、それから未来がどうなるかを見極めるだけだ」

契約延長が控えていたミッチェルは、最終決断を下す前にコーチ体制についての明確なビジョンを求めていた。

「もちろん、それが要因だったよ。何が起きるのかを把握するためにね」と彼は続けた。「ロサンゼルスで契約する前に会った時、(アトキンソンは)基本的にこう言ったんだ。『これが計画だ。私たちは計画を持って、意図を持って進めるつもりだ』ってね…。そう、彼らは計画を立てたんだ。そして私にとっていちばん大事なのは、その計画を追いかけて、それを信頼して、信じることなんだ」

このキャヴスが夏の不確実性を乗り越えた後に、圧倒的な支配でNBAの頂点に立ち、すべてを勝ち取る方法を見つけることができたなら、その成功のすべてはフォーシーズンズでのミーティングに遡るだろう。そこでアトキンソンとミッチェルが一緒に土台を築きはじめた。そこで信頼が生まれ、ミッチェルがこのチームにもう少し長くチャンスを与えることを選んだ。そしてそれが、リーグで最も意外なサクセス物語のひとつを生み出した。

「(ミッチェルが)私に『次のステップはエヴァンにもっと力を与えてあげることだ』って言ってくれたんだ」とアトキンソンは言った。「『もっとボールが欲しい』とか『私のためにこれをやれ』とかじゃなくて、『このチームを次の段階に進めるにはどうしたらいいか?』という話だった。そして彼はダリアスの名前も挙げた。『私とダリアスは一緒に素晴らしくなれる。私たちが一緒に素晴らしくなれない理由なんてない』と。だから、その多くは彼自身から来たものだったんだ。彼はこのチームがどこに向かうべきかをよく理解していた。それが私にとってこの船を操縦する助けになった。なぜなら、私は彼からその青写真を得たからだ」

そして、それに加えて素晴らしい料理もあった。

「良いランチだったよ」とアトキンソンは笑顔で言った。「本当に良いランチだった」


キャヴスのオフェンスがNBAを席巻している理由(それが理屈に合わなくても)

クリーブランド・キャヴァリアーズは今、NBAで最高のチームかもしれないが、その支配力は疑念の種から生まれた。昨年の夏、ケニー・アトキンソンがヘッドコーチとしてはじめてやって来た時、彼の言っていることは全く理にかなっていないように思えた。

アトキンソンは練習に積極的に参加するのが好きで、コートでは彼を見つけるのさえむずしい。でも、ペイントエリアにひしめく体の海をかき分けると、彼はそこにいる。首にホイッスルをかけながら、モダンNBAのオフェンスを再構築している。

キャヴスが彼を雇ったのは、チームに新しいアプローチをもたらすためだった。プレーオフのセカンド・ラウンドでほぼスイープされかけた時と同じロスターを戻してきた以上、アトキンソンは何かを大きく変える必要があった。それは成功したが、納得させるのには時間がかかった。

「最初は何をやってるのか全然分からなかった」とジャレット・アレンは笑いながら言った。「はじめて見た時、私はそれに反発したんだ。最初は自分にとってベストなポジションじゃないと思った。でも、この成功を見れば反論できないでしょ?」

アトキンソンがやりたかったのは、みんなが知っているが、ほとんど誰も実践しない原則を作り変えることだった。それが「犠牲のカット」だ。そして、彼はこのビジョンを実現するのに完璧なロスターを手にしていた。

アレンはセンターなので、典型的な犠牲のカットを最も多く行う。彼の仕事はスクリーンをセットし、レーンを駆け抜けて、周りの全員のためにスペースを作ることだ。時々ボールをもらえることもあるが、大抵の場合、彼は囮として、チームメイトにチャンスを作る役割を果たしている。

これがモダンNBAの基本的なアクションだ。7フッターたちの犠牲の上に王国が築かれてきた。ロールマン万歳!

アレンがダンカースポットで待機している時、彼は誰かがボールを渡してくれるのを待って、そのスポットの名にふさわしいダンクを決めようとしている。しかし、アトキンソンは彼に「そこから離れろ」と伝えた。ダンカースポットは、ただそこに残ってオープンになる場所ではなくなった。

問題は、アレンがその場所に張り付いていると、リムプロテクターに彼の位置を把握されてしまうことだ。だから、彼の仕事は動き続けることになる。ローポストのディフェンダーに迷いを植え付けるために動く。ドノヴァン・ミッチェルやダリアス・ガーランドがボールを持っている時に、インサイドのディフェンダーが迷いを見せたら、それは命取りになる。

こうしてアトキンソンはロスターに合わせたオフェンスを最適化していった。ガーランドとミッチェルはフローターを撃つのが得意だし、アレンとエヴァン・モブリーはリム付近でスペースを操るのが上手い。このアクションはリーグ全体で一般的になりつつあるが、アトキンソンはそれをさらに一歩先に進めたかった。

アトキンソンは2人のビッグマンを広げてスペースを作るのではなく、すべてを中央に集約させたかった。1人のビッグマンがロールする時、もう1人も同じスペースに入って、ローポストのディフェンダーにどこに行けばいいか分からなくさせる。

時には1人のビッグマンがゴール下をループするし、時には2人ともペイントエリアにロールインする。リムに到達するチャンスを最大化するためにリムでのアクションを絡ませる。

「全てのディフェンダーを混乱させるんだ」とモブリーは言った。「私たちはオープンスペースにカットして、もしそこでボールをもらえなかったら反対側に行く。もう一度カットするチャンスがあればカットするし、なければスペースを取る。とてもシンプルだ」

ほとんどのチームはプレーの序盤でボール付近に混乱を生み出そうとするが、クリーブランドのロスターはこのトリッキーなアプローチに適していて、多くのチャンスを作り出している。

これがこのシステムのポイントだ。常に動き続けることで、最終的にはボールが自分のところに来る。

今のキャヴズのプレーを見ていると、そのオフェンスは驚異ま正確さと連動性を見せている。シナジー・スポーツによると、キャヴズはNBAでカットの得点効率がトップで、ピック&ロールのボールハンドラーの得点効率では2位だ。

しかし、アトキンソンがトレーニングキャンプでこのオフェンスを導入した時、選手たちがそれが機能すると信じるのはむずかしかった。

「混乱の塊とは言わないけど、まあごちゃごちゃだった」とミッチェルは言った。「私たちはそれまでこんなことをやったことがなかった。だから、こういうのを学ぶ時って、やっぱり全然違う感じがするんだ」

アトキンソンが乗り越えなければならなかったのは、NBAに根強く存在する「カットすると邪魔になる」という考え方だ。選手たちは、ボールをもらえると思わない限り、スペースを崩すのを嫌がる。でもそれは、みんなが止まって立っているという前提に基づいた考え方だ。

オフェンスが多く動けば動くほど、ディフェンスはそれに応じて判断を下さなければならない。その結果、ディフェンスの配置がねじれて隙が生まれる。カットする行為そのものが直接報われるわけではないが、その間接的な成果は計り知れない。

「選手にカットさせるのは簡単じゃない。特にボールをもらえない時は、その価値を見出せないことがあるからだ」とアトキンソンは言った。「だから、スペースを開けるための利他的な行動なんだって理解させなきゃいけない」

選手全体にカットを浸透させるのは、多くのコーチが直面する課題だ。マイアミ・ヒートのエリック・スポールストラは、この課題にそこまで苦労していない。ヒートのオフェンスはカットとオフボールの動きが基盤になっているからだ。

「若い選手をコーチする時、彼らはボールを持っている時がオフェンスだと考えがちなんだ」とスポールストラは言った。「だから、最も育てるべきなのは、ボールを持たずにどうプレーするかってことなんだ。スペースを保ちながらプレーすることや、邪魔にならないことを学ぶ必要がある。でも、カットするタイミングを掴むってのも素晴らしいスキルだ」

若い選手には、オフェンスの中でどう動けばスペースを損なわずに済むのかを教え込む必要がある。それがキャヴズにとっては特にむずかしい部分だった。なぜなら、彼らの多くのカットはスペースを崩してディフェンスを混乱させることを目的としているからだ。

ガーランドはオフェンスを始める前に自分のパスオプションがあらかじめ整っていることに慣れていた。でも今は、ディフェンスを突破する過程で周囲がどんどん変化していく。

彼はディフェンスの最初の層を突破するまで、自分のパスオプションがどこにあるのか見えないことが多い。カットが多すぎると、彼が取れるパスオプションがひとつだけになってしまうこともあって、それはリスクが高い状況になる。そこがむずかしい部分だが、彼らは各配置やアクションに対応する様々なカットを何度も練習して、全員が同じ認識を持つまでやり続けた。

アクションがしっかりと確立された後、ガーランドはネイルにいるヘルプディフェンダーをどう操つるかを理解し、オフェンスはリズムをつかみはじめた。

「最初は好きじゃなかったけど、今はずっと良くなった」とガーランドは言った。「それを実際にプレーを通じて試すことで、ネイルマンを動かしてもっとペイントに入り込めるようになった。そこから外に出すパスのチャンスや、他の選択肢が広がるんだ」

モブリーやアレンがコーナーにいる時、彼らはガーランドやミッチェルがスクリーンをオーバーしようとする瞬間を待って、早めにカットを始める。ペイントに入ってできるだけ多くのヘルプを引きつけてから、彼らの代わりにシュートを狙える選手がコーナーに入れるようにする。

「10回のうち9回は、チームメイトがカットしたら、その相手のディフェンダーはそこにじっとしてないんだ。もししてたら、逆サイドのコーナーにいるチームメイトがフリーになる」とミッチェルは言った。「でも、私たちにとって重要なのは、そのエリアを空けることだ。もしヘルプに行くなら、私はコーナーにすぐキックアウトする」

しかし、キャヴスのオフェンスがとてもややこしく感じる理由のひとつは、彼らがそのコーナーを頻繁に捨てることだ。モダンのNBAの定石では、選手をコーナーに配置してディフェンスを広げて、ボールハンドラーの選択肢を増やし、キックアウトの判断をしやすいようにしている。

キャヴスでは、コーナーにいる選手がパスを受け取らない場合、そのままペイントを通り抜けて反対側に移動する。これによってヘルプディフェンダーはどれだけハードにヘルプに行くべきか早めに判断することができなくなり、ポゼッションが進むにつれて迷いにハマる。

「普通、ほとんどのチームはそこに立ちっぱなしなんだ。それでディフェンダーたちは『くそっ、あいつがそこにいるぞ!』って感じになる」とミッチェルは言った。「でも、(カッターが)再びコーナーにスペースを作ると、『やばい、今度はここに行かなきゃ』ってなるんだ。それで、次の瞬間にまたカットされるんだ」

こうして複雑なシステムを、ひとつずつ作り上げていく。ビッグマンたちは、「留まるか動くか」の二択を読み取って、自分のレーンやその使い方に集中する。モブリーはこれを「カット&スライド」と呼んでいる。チームのケミストリーが強固だからこそ、カットするタイミングとそのまま待機するタイミングがわかる。

ウィングの選手たちは、スペースとアクションの方向を読み取って、自分がどこに流れるべきかを判断する。この動きは、コーナーやエルボーに誰が配置されているかによって変化し、ポイントガードはそれらをすべて組み合わせて全体の型をつくり上げる。これが、彼らのベストプレーヤーたちにワイドオープンのスリーを生み出す結果につながっている。

キャヴスは予測不可能な方法で重心をシフトさせるために、プレーのエッジをローテートしてまわる遠心分離機のようなオフェンスをつくりあげた。そのリスクとして、コーナーに固定されたシューターのようなオフェンスが頼りにする多くの安全弁を失う。

キャヴスよりパス回数が少ないのはダラス・マーヴェリックスとヒューストン・ロケッツだけだが、キャヴスのeFG%はNBA史上最高だ。スリーの脅威がないビッグマン2人をスタートさせているにも関わらずだ。このような矛盾を抱えながらもチャンピオンシップを勝ち取ったのは、最近ではゴールデンステート・ウォリアーズだけで、その時アトキンソンはスティーヴ・カーの隣に座っていた。

このシステムが機能している理由は、モブリーがドレイモンド・グリーンの役割に似たプレーメーカーとして成長し、アレンがベースラインやコーナーで新たな動きを学んでいるからだ。キャヴスはしばしば、アレンをポゼッションの開始時にコーナーやウイングに配置しているが、今季アレンはスリーを1本もアテンプトしていない。

その後、アレンがレーンに突入する時、単にパスを受け取るスポットに駆け込むのではなく、ゴールの下を回り込んでロー・ディフェンダーを混乱させる。

「誰かがレーンにドライブしている間にゴール周りを回り込むと、それで混乱させることができるんだ」とアレンは言った。「私にも起こることだけど、誰かがゴールの周りを回り込むと、『あれ、どこ行った?』ってなるんだ」

これは新しいファンには斬新なコンセプトに見えるかもしれないが、NBAは多くの面で循環的だ。アトキンソンは、自身がNBAで初めて仕えたヘッドコーチであるリック・アデルマンのフィロソフィーを模倣している。アデルマンの2000年代初頭のオフェンスのフィロソフィーは、「自己犠牲のカット」を中心に構築されていた。

アトキンソンは2007年にロケッツでアデルマンの下でプレーヤー・デベロップメント・アシスタントとして初めてNBAに足を踏み入れた。その時のオフェンスは、トレイシー・マグレディとヤオ・ミンを中心に展開されていた。また、クリス・ウェバーを擁したキングスを率いたアデルマンのオフェンスは、ディストリビューション・ハブの5、ウィングの3レベル・スコアラー、そしてそのまわりをスキルの高いプレイヤーで囲むように構築されていた。現在のキャヴスのいくつかのプレーは、当時アデルマンがロケッツで採用していたものを反映している。

「ヒューストンでリック・アデルマンと一緒だった時から、カットの重要性を信じていた」とアトキンソンは言った。「彼はいつもカットの重要性や、それがスペースを広げる方法について説いていたんだ」

現在ウルヴズのアシスタントコーチであるエルストン・ターナーも、何度もアデルマンのベンチに座り、彼が「即興的なクリエイティビティー」と呼ぶスタイルを発展させる一翼を担った。キャヴスのプレーを見ていると、ダブルビッグを採用していた時代のキングスやロケッツでアデルマンが築き上げた基礎が多く見られる。それらのすべてはコート上で直面する状況を繰り返し練習した結果として生まれる。

「試合でそれを組み合わせてみると、この即興的なクリエイティビティーは、まるで裏庭で流れるようなバスケットボールをしているように見えるんだ。でも、どの状況も練習されているんだ」とターナーは言った。「パスは正確な位置に行かないといけないし、カットも一定のスピードでなければならない。それがみんなが見落としがちな部分なんだ」

ターナーは目の前の相手を見るのが鍵だと言い、それがすべてを教えてくれると言った。重要なのは、自分のシステムを選手たちに納得させる能力と、彼らの信頼を得ることだ。ターナーは、アトキンソンがアデルマンから学んだ教訓を活かし、選手たちが本当に楽しみながらプレーしているチームをつくり上げていると考えている。

「彼らは見ていて楽しいチームだ。私は彼ら全員がそれを楽しんでいると保証する」とターナーは言った。「どんなチームにも何かしら不満はつきものだ。もっとシュートを撃ちたかったとか、これができなかったとか、あれができなかったとか。でも彼らは楽しんでいるのはまちがいない。彼は1年目でチームを引き継いで、3~4年一緒にやってきたような形に仕上げたんだ」

15勝0敗のスタートから現実に引き戻されたとはいえ、キャヴスはリーグトップのチームのひとつのように見えるし、それを楽しんでいる。ミッチェルは目に見えて幸せそうだし、ガーランドはようやくオールスターレベルのパフォーマンスを取り戻している。そしてモブリーの成長が、彼らを新たな次元へと押し上げている。

シーズンが進むにつれて、ディフェンスはこの即興的クリエイティビティーを封じ込める方法を見つけ、キャヴスにより伝統的な方法で勝つことを強いるだろう。しかし、このチームは進化をやめていない。彼らには変化し続け、成長し続けるというアイデンティティーがある。だからこそ、連勝が止まった時でも彼らは笑顔でそれを受け入れた。

好スタートはただの好スタートだ。彼らが目指しているのは、プレーオフに向けてどのようなチームになるかということだ。

「何かを信じたら、それを土台にして成長を続けるんだ。ミスや何かしらの問題があったとしても」とミッチェルは言った。「いちばん大事なのは、私たちがそれを信じているということだ」

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