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クリッパーズのリブランディング
LA・クリッパーズがシーズン中にリブランディングを発表しました。リブランディングは通常シーズン終了後にドラフトなどのタイミングに合わせて発表されるものなので、このタイミングでの発表は異例のことです。なぜシーズン終了まで待たなかったかと言うと、来シーズンからクリッパーズの新たなホームになるインテュイット・ドームが公開されつつあり、そこで新しいロゴなどが公になってしまう可能性があったためだそうです。リーク的に知られてしまう前に発表すべきという判断だったのでしょう。
最近のNBAチームのリブランディングと言えば、2022年のジャズやキャヴァリアーズが記憶にあたらしいところですが、両チームともコンセプトは変わらずにロゴに手に少し修正を加えたようなものでした。しかし、今回のクリッパーズのリブランドは、新しいコンセプトを開発し、それをデザインに落とし込むところまでやった完全なリニューアル案件です。
このようなチームの全体的なリブランディングはあまり見られないので、今回のクリッパーズのリブランディングについて詳しくまとめました(主にESPNとThe Athleticの記事から)。
LA・クリッパーズ
クリッパーズという名前は1978年にバッファロー・ブレーブスがサンディエゴに移った時につけられた名前です。Wikiによると、クリッパーと言われるスピード重視の商船がサンディエゴ湾を行き来していたため、クリッパーズと名付けられたようです。これがクリッパー船です。
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そしてクリッパーズは1984年に名前をキープしたままサンディエゴからロスにリロケーションしました。この時は、スターリンがNBAに許可なくチームをロスに移したため、サンディエゴに戻そうとするNBAとの間で訴訟問題にまで発展していました。NBAから$25Mの罰金を課されたスターリンは反訴し、NBAに$100Mを要求。3年に及ぶ裁判の末、スターリンが$6Mの罰金を払うことでこの騒動の決着がつきました。
スターリンは2014年にNBA生涯追放のきっかけになった人種差別発言の際にもNBAから$2.5Mの罰金を課せられましたが、それを拒否しています。スターリンは問題だらけのオーナーでしたが、特にケチとして知られ、サンディエゴ・クリッパーズを買収した2年目には、トレーニングキャンプ費用を$50,000から$100までカットしたほどでした。
そんなシャビーだったオーナーは世界富豪6位(*2024年の3月)のスティーヴ・バルマーに変わりました。 Forbsによれば、バルマーの総資産はザッカーバーグやゲイツに次ぐ$143.5B(*2024年の3月)で、上級ビリオネラの中でも更に上のスーパー大富豪です。
バルマーがクリッパーズを買収した後、球団は2014年にリブランドをしてロゴなどを変えていましたが、その時はファンから古い(スターリング時代の)クリッパーズから早く脱却するべきだという声があがっていたため、ブランディングもスピード重視で、球団も満足するような内容には仕上がっていなかったそうです。
クリッパーズはアリーナをレイカーズ、NHLのキングス、WNBAのスパークスとシェアしていましたが、バルマーの資金力でついに自前のアリーナを持つことができるようになりました。同じ市内ですが、これはリロケーションと言ってもいいでしょう。
今回はその新アリーナに移るタイミングでのリブランディングになり、それも数年前からわかっていた事なので、今回はブランドの再構築にも十分に時間をかけられたと思います。そんな新時代迎えるクリッパーズにふさわしいとロゴやユニフォームはどのように決められたのでしょうか。
ブランド・コンセプト
クリッパーズのビジネス・オペレーションのプレジデントのギリアン・ザッカーによると、まずブランディングをどうするか決めるために多くの専門家を雇ったと言っていたので、おそらくマーケティング会社やデザイン会社、リブランディング・エージェンシー、コンサルなどを雇っていると思われます。このあたりの徹底ぶりはマイクロソフトを率いてきたバルマーっぽいと感じてしまいます。
そして、なんと今回のリブランディングでは、球団はチーム名も変える覚悟があったそうです。
しかし、かなりの数のリサーチやフォーカスグループを通して、ファンからの激しい反対があったため、名前変更はなくなりました。バルマーも「チームを買う前に名前を変えることも考えていたが、その時も同じような反応だった」と言っていて、「クリッパーズ」という名前もファンにとってかなり愛着がある事が伺えます。
ブランディングに関しては、リサーチやフォーカスグループからの意見を吸い上げた結果、チームのアイデンティティーに必要なのは名前を変えるような「革命的」なものではなくこれまでの球団からの「進化」だという結論に至ったそうです。その進化がどのようなものになるのかを決めるためには、振り返って今までがどうだったのかを定める必要があります。そのために、まずは「クリッパー」がなんなのかを明確にする必要があったとの事。
そのような過程を経て完成したのが、このロゴです。クリッパーが明確に入っているだけではなく、堂々と真ん中に置いたものになっています。
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まさにクリッパーズの新しい船出を象徴するかのようなデザインに仕上がりました。
ロゴデザインの詳細
ESPNのザック・ロウによると、これまでのロゴは二流でつまらないものと酷評されていたそうです。
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確かに面白みもなく、愛着が湧かないデザインです。青いラインはクリッパー船から見た水平線を意味しているのだそうです。赤いラインが何を現しているのかはわかりませんでした… クリッパーズ自身がこのリブランディングには満足していなかったと言うのも理解できます。そのためか、今回のロゴはファンが長い間共感を持てるようなデザインにしたがっていたそうです。
そこでクリッパーズはロゴを開発するにあたり世界中の球団を研究しました。ザッカーさんが特に言及していたのが、フランスのサッカーリーグのPSGのロゴです。
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調査の結果、大勢の人たちがそれがヨーロッパのサッカーチームのロゴだとは知らないで、ただ単にクールだと思って身につけているのがわかったそうです(アメリカ人に対しての調査だと思われます)。クリッパーズは単にロゴをクールなものにするだけではなく、PSGがパリを象徴しているのと同じように、それがロスを象徴するものにしたかったそうです。メインカラーを紺にしたのも、PSGに寄せていっているからなのかもしれません。
そして、クリッパーという原点に立ち戻る必要があったため、クリッパー船をモチーフにしたデザインにしたそうです。
船の上の3つのラインは風をつかまえている帆で、クルーズ船の客室部分ではありません。私は最初これを見た時に、クリッパー船なのになぜ豪華客船にしたのかと不思議に思いました 笑。
船全体がちょっとサメのように見えるという人もいるそうですが、チーム内にはそれはそれでサメが向かってくる脅威的な感じがして悪くないと思っているとの事。
コンパス
なぜロゴの「C」にコンパス的な要素を取り入れたのかと言うと、「方向性」を表現したかったからだそうです。この方向性がなぜ大事だったかと言うと、フォーカスグループでオーナーがバルマーになってからクリッパーズに「方向性」があるとの意見を何百回と繰り返し出てきていてたためで、それをデザインに反映させたかったようです。また、コンパスは航海には欠かせないアイテムでもあります。このように「C」にコンパスの要素を落とし込んだ事により、クリッパーズ船の目的地がきちんと決まっている感が出ています。
ちなみにグローバルロゴ(リーグのルールでフルネームを含めなければいけないもの)バージョンでは、「LOS ANGELES」の「N」がコンパスの真上に来ていてちゃんと「北」を示しているというオシャレ仕様になっています。
リングの外の赤のラインと内側のパウダーブルーのラインは、NBAのオンコート&ブランド・パートナーシップ部門トップのクリストファー・アリーナの案で、明るくて目につく何かが必要だったと感じたために提案したものだったそうです。
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グローバルロゴの書体は、海軍艦艇に使われる書体からインスパイアされたものです。
コンパスをロゴに使っている球団にはMLBのシアトル・マリナーズがあり、著作権的な問題を避けるためにもマリナーズとは違った見た目に仕上げたとの事。
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セカンダリーリゴ
チームのロゴにはプライマリーロゴとセカンダリーロゴがあり、セカンダリーロゴにはチームの頭文字を組み合わせたものや、頭文字だけのモノグラムデザインがあります。バルマーは以前からクリッパーズのロゴを国際的に通用するモノグラムスタイルなものを望んでいたそうで、今回のできた新たなモノグラムスタイルの「セカンダリー A」がこちらです。
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この「LA」は、今のロゴのように「L」の上に「A」が乗ったデザインになっていて、スクリプト書体でオシャレに仕上げています。
ザッカー:「LAマークはロスを訪れているファンにロサンゼルスを彼らと一緒に連れて帰ってくれるような機会を与える事ができるように取り組んだ。そして彼らはクリッパーズもまた一緒に連れて帰る」
「LA」と言えば、ロサンゼルス・ドジャースのセカンダリーロゴが有名ですが、クリッパーズはそれとは違った目立つものにしたかったそうです。
ユニフォーム
アイコン・ジャージーは白とネイビー。
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Clippersの書体がシャープになりました。以前は厚くてカーブが多く、カートゥーンぽかったので、今回はもっと真剣な感じが欲しかったそうです。ファンからはスクリプト書体への愛着を事を何千回も聞いたそうで、書体はスクリプト書体になっています。
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ファンからの大きな希望で赤いユニフォームがステイトメント・エディションとして戻ってきます。クリッパーズが赤いユニフォームを着るのは2016-17シーズンぶりとの事。腰のゴムにはLAではなくバルマーが好きな「Clips」が入ります。ユニフォームの横には、航海用の文字旗で縦に「LAC」が書かれています。
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パウダーブルーも調査とフォーカスグループでは人気があったので、今後登場するようです。しかし、黒は人気がなかったので今の所つくる予定はないとの事です。
しかし、夏にフリーエージェントになるジェームズ・ハーデンとポール・ジョージを使っているというところもポイントです。今いるスター選手でアピールしなければいけないのはわかりますが、タンパのリングな感じで球団と選手たちの間で何か握っているのではないかと思ってしまいます。
コートデザイン
ロゴがコートの中心に来て、サイドラインには新しい本拠地があるイングルウッドの経度と緯度が書かれます。
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以上、クリッパーズの新デザインのブレークダウンの紹介でした。
クリッパーズは、これらのデザインが「モダンでありながらも普遍的な魅力を持つものになることを期待している」ようですが、それもきちんと昇華できていると思います。特にロゴはクリッパー船がシンボル的にドーンと真ん中に入り、コンパスをモチーフにしたCでまとまりを出しているので、ファンとしてもチームへの思い入れを反映しやすいのではないでしょうか。
相当な時間と資金が投じられただけあって、歴代のロゴと比べてもベストだと思います。
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かっこいいと思います。チームはすでに選手たちにマーチを着させています。なによりも、チャンピオンシップリングが「COLD」なものになるのは間違いありません。今年もし優勝したとしても、その時はぜひ新しいロゴの方でデザインして欲しいです。
またデザインのおかげでマーチもカッコ良いものが出来あがっています。
Clippers players wore some new logo gear today and an announcement during the game said during the game they have a ‘major announcement’ tomorrow.
— Tomer Azarly (@TomerAzarly) February 26, 2024
Sounds like new logos, gear, etc. could be coming soon.
pic.twitter.com/qVzB8mjtte
あとは肝心なチームです。チームが強くなければ、いくらロゴが素晴らしくても名門を象徴するようなものには昇華できません。来シーズンもロゴ負けしないように、常に優勝という目標に向かって航海をしていって欲しいですね。
クリッパーズのオフシーズンは盛りだくさんです。プレーヤー・オプションのポール・ジョージやラッセル・ウェストブルックの動向やハーデンとの再契約、タッカーのトレード、HCルーの契約延長の可能性もあります。新アリーナのインテュイット・ドームのお披露目もあります。インテュイット・ドームは計画の頃に面白いエピソードがあったので、また後で紹介したいと思います。