
ミケル・ブリッジスのニックスへのトレードについて
ネッツがミケル・ブリッジスをトレードしてに再建に舵を切りました。ケヴィン・デュラント時代が終わってからはじめての昨シーズンは32勝50敗とプレーイン争いをしていたチームだったので、このままプレーイン争いの沼にハマり続けるのか、または再建するかミケルを中心としたチームづくりをしてプレーオフを目指すのかのハッキリとした方向性が必要でした。しかし、肝心のミケルはナンバー1プレーヤーとしてはパっとせず、EMPは+1.2とリーグ50位以内(最低65試合出場/25分以上プレー)にも入りませんでした。再建するにしても、自分でコントロールできる1巡目指名権が2028年までしかないため、タンクすらも思うようにできません。
そんなにっちもさっちもいかない状況でしたが、なんとロケッツからジェームズ・ハーデンのトレードで出した2025年の1巡目指名権を取り戻す事に成功しました。これで来シーズンはクーパー・フラッグ争奪戦に向けて思う存分タンクする事ができます。
今回はそのネッツの再建へ向けてのトレードを解説します。
🏀ニックスがネッツからミケル・ブリッジスを獲得
— NBAレポーター (@NBA_Reporterjp) June 26, 2024
ネッツがミケル・ブリッジスをニックスにトレードした。
ニックス獲得:
・ミケル・ブリッジス
・2026年2巡目指名権
ネッツ獲得:
・ボーヤン・ボグダノヴィッチ
・2025年のニックスの1巡目指名権(プロテクションなし)… pic.twitter.com/FllvS8jscm
ミケル・ブリッジスのニックスへのトレード
6/26にネッツがミケル・ブリッジスをニューヨーク・ニックスにトレードしました。同じニューヨーク市を本拠地とする球団同士のトレードは1983年以来はじめての事です。
ニックス獲得:
ミケル・ブリッジス
2026年2巡目指名権
ネッツ獲得:
ボーヤン・ボグダノヴィッチ
2025年のニックスの1巡目指名権(プロテクションなし)
2027年のニックスの1巡目指名権(プロテクションなし)
2029年のニックスの1巡目指名権(プロテクションなし)
2031年のニックスの1巡目指名権(プロテクションなし)
2025年のバックスの1巡目指名権(トップ4プロテクション)
2028年の1巡目指名権スワップ(プロテクションなし)
2025年の2巡目指名権
*モラトリアムが明けるまでに内容に追加がありました。上記のトレード内容だと、ニックスが出すサラリーよりも多いサラリーを受け取るのでファーストエプロンのハードキャップになってしまいます。ニックスがファーストエプロンのハードキャップ避けるために最終的にこのトレードは下の内容に膨らみました。
ネッツ獲得:
ミケル・ブリッジス
ケイタ・ベイツ=ディオップ
2026年のピストンズ/バックス/マジックの2巡目指名権で一番悪いもの
Juan Pablo Vauletのドラフト権
ニックス獲得:
ボーヤン・ボグダノヴィッチ
シェイク・ミルトン(サイン&トレードで)
ママディ・ディアキテ(2024-25は部分的保証)
2025年のニックスの1巡目指名権(プロテクションなし)
2027年のニックスの1巡目指名権(プロテクションなし)
2029年のニックスの1巡目指名権(プロテクションなし)
2031年のニックスの1巡目指名権(プロテクションなし)
2025年のバックスの1巡目指名権(トップ4プロテクション)
2028年のニックスの2 巡目指名権スワップ(プロテクションなし)
2025年のネッツの2巡目指名権(取り戻した)
なんとネッツはオールスターに選出された事もオールNBAに入った事がない選手のトレードで1巡目指名権を5つも引き出しました。しかもニックスの1巡目指名権にはプロテクションなしです。ただ、ヤニスとリラードがいるバックスの1巡目指名権にはかなりヘビーなプロテクションがかかっていて貰えそうもないので、実施的に獲得できた1巡目は4つになります。
しかし、この時点でミケルを出してもタンクするには十分ではありません。なぜならネッツが持っている2025年の1巡目指名権はロケッツとのスワップなので、もしネッツが最下位になったとしてもロケッツに取られてしまうからです。
なぜネッツは同じディビジョン・ライバルのネッツにミケルを出したのでしょうか?1巡目指名権を5つもらったとは言え、ミケル獲得でニックスはかなり強くなってしまったため、おそらくニックスからの指名権の最初のふたつは1巡目後半になるでしょう。それなら優勝を狙えなそうなチームから3つの1巡目指名権をもらった方が良さそうです。例えば、多くの1巡目指名権を保有し、ラウリ・マーカネンに次ぐスターとしてミケルをアグレッシブに狙っていたと言われていたジャズとのトレードの方が将来的に良い結果を得られたはずです。しかもネッツはミケルをトレードするつもりは全くないというレポートがあったばかりです。
このように、このミケルのトレードは表面上単純なトレードではありますが、多くの疑問が残ります。
ところがこの12分後に、ネッツがロケッツから2025年の自分の1巡目指名権を取り戻したという速報が入りました。これでネッツの不可解なトレードの謎が解けました。
ネッツとロケッツのトレード
ネッツとロケッツとの間の指名権トレードの内容は以下になります。
ネッツ獲得:
2025年のネッツの1巡目指名権(ハーデンのトレードでロケッツに送ったもの)
2026年のネッツの1巡目指名権(ハーデンのトレードでロケッツに送ったもの)
2029年のサンズ/ロケッツ/マーヴェリックスの1巡目指名権のいちばん低いもの
ロケッツ獲得:
2025年のサンズの1巡目指名権/ロケッツまたはサンダーの1巡目指名権のスワップ
2027年のサンズの1巡目指名権
2029年のサンズ/ロケッツ/マーヴェリックスの1巡目指名権の良い方2つ
簡単に言えば、ネッツはサンズからの2027年と2029年の1巡目指名権(プロテクションなし)で2026年の1巡目指名権(プロテクションなし)を取り戻し、2025年と2029年の1巡目指名権のスワップで、自分の2025年の1巡目指名権を取り戻した事になります。
ネッツはミケルのトレード前に、このトレードの事をロケッツと約束していたはずです。ロケッツから1巡目指名権を取り返せる事がわかっていない限り、ミケルをトレードする事はなかったでしょうし、ロケッツもミケルをトレードした後に価値が急上昇した1巡目指名権を簡単には手放さなかったでしょう。
これでネッツは2030年までの1巡目指名権の内2027年のもの以外はコントロールできるようになりました。本格的なタンクが可能になります。
ロケッツはこれでネッツに代わってサンズの指名権を握った事になり、ケヴィン・デュラントやデヴィン・ブッカーのトレードを狙っているのではないかと言われはじめました。また、ロケッツはこの1巡目指名権を他のトレードで使うとも言われています。
ロケッツからすれば現在有望な若手が十分過ぎるほどいて、さすがに全員と大きな契約延長ができなそうな状況です。すでにジェイレン・グリーンとアルペルン・シェングンは契約延長が可能ですし、その後はジャバリ・スミス、アメン・トンプソン、キャム・ウィットモア、そして今年の3位指名のリード・シェパードが控えています。2027年のドラフトまでには彼らの契約延長でキャップがタックスラインも超えてしまうかもしれません。その頃にはケヴィン・デュラントも引退をしているかもしれず、サンズの1巡目指名権には大きな価値が出てきます。2029年にもなれば、サンズは再建しているかもしれません。そうなれば、キャップで身動き取れない中でロッタリー前半選手を獲得できるチャンスも出てきます。ロケッツにとって、このトレードは未来のキャップワークで安いルーキー契約獲得を見据えたものでしょう。
残る疑問は、なぜ自分の首を絞めるような「ニックスとのトレード」にしたのかです。
SNYのイアン・ベグリーによると、ミケルはネッツにニックスに行きたいと伝えたそうです。ベグリーは、ミケルはニックスに行くために、他チームに契約延長はしないと伝えてトレードをしないようにしていたともレポートしていました。「ブリッジス側はネッツに、彼はニックスでヴィラノバ大のチームメイトのブランソン、ハート、ディヴィンチェンゾと組みたいとハッキリさせていた」そうです。
これでネッツがミケルをジャズや自分の指名権を持っているロケッツではなく、すぐ隣のニックスにトレードした理由がわかりました。
ただ、Yahoo Sportsのジェイク・フィッシャーは「今週ブリッジスはトレード要求をしなかった」とレポートしました。本人もXでそれを否定するような事を投稿していましたので、本当のところはわかりませんが、トレード要求をしたというレポートのダメージコントロールのようにもとれます。
And yall mfs really think i got pull like that lol please be fr😭
— Mikal Bridges (@mikal_bridges) June 26, 2024
しかし、トレードが最終的になった時にネッツのGMのショーン・マークスは「ミケルが移籍したがっていたとか、トレード要求をしたがっていたとかのレポートがあるが、それは真実からはほど遠いものだ…それは絶対になかった。彼は私が電話した時にもうすぐトレードがあると知らせたんだ」と完全否定していました。
ミケルもインタビューやツィッターでトレード要求をしたと否定し、ニックスのジェイレン・ブランソンやジョッシュ・ハートも自分たちがミケルのトレードを頼んだことはないと否定しています。
このトレードでニックスはすべての1巡目指名権を使い切り、今後トレード市場に出てくるかもしれないA級選手獲得のチャンスを失ったことになります。それだけミケルに賭けたと言ってもいいでしょう。2022年の夏にドノヴァン・ミッチェル獲得交渉で指名権を出し渋って慎重だった時とはだいぶ違う印象を受けます。
1巡目指名権を5つはさすがに払いすぎかもしれませんが、これでニックスはミケルとOG・アヌノビー(このトレードの後に5年$212Mで再契約した)のリーグ屈指の3&Dウィングコンビを揃える事ができ、ほぼどのチームともマッチアップが可能になりました。また、これで選手のプレー時間が分散されてプレーオフによりフレッシュで迎えられる利点もあります。筋肉系のケガは少なくなるかもしれません。
また、ブリッジスは6ヶ月後に3年$113Mの契約延長が可能になります。ニックスにそれができれば、彼らは今後5年間はアヌノビー&ミケルの3&Dコンビ+ランドル+ヴィラノヴァ大出身者たちでイーストの優勝候補になると思います。
話をイーストリバーを渡ったブルックリンに戻しましょう。
ミケルを手放した事により、ネッツは更にタンクを加速させると見られています。勝利に貢献してしまい、需要が高いウィングのドリアン・フィニー=スミスやキャム・ジョンソンをトレードするのではないかと言われています。ジョンソンにはキャヴァリアーズ、ラプターズ、キングス、ペイサーズ、マジックが興味を持っていると言われていて、シクサーズがDFSの検討をしているとの事です。
他にもベン・シモンズ、ボーヤン・ボグダノヴィッチ、デニス・シュルーダーらも市場に出てくると思われます。今からトレード・デッドラインまでに彼らがトレードされても驚きはありません。
また、ガバナーのジョー・サイは球団のゴールについて、今は『Win Now』モードではなく、これからはサステナブルなウィニング・カルチャーをつくると話しています。 再建は既定路線だったのかもしれません。
サイ:「私はサステナブルな勝利のメンタリティーとカルチャーをつくりたい。そのふたつはとても違うものだ。もし今勝ちたかったら、すべてのアセットをトレードに出して未来を台無しにすることもできるだろうが、私はネッツで長期的なアプローチでサステナブルでウィンニング・カルチャーをつくりたいと思っている」
このように、ネッツは再建に向けてドラフトアセット確保やカルチャーづくり等まだまだやらなければいけない事が残されています。彼らは今回のトレードで獲得した指名権や今後獲得する指名権でどのような未来を描くのでしょうか。さすがにタンク争いは応援できませんが、来年のドラフトで新たなスター選手を獲得して新たな時代を築いて行けることを期待しています。