NBAデイリーレポート(12/20, FRI)
今日のデイリーレポートはビジネス寄りの話題多めのマニアックな内容です。トレード情報やアナリティクスが好きなNBAファンには少し物足りないかもしれません。ただ、視聴率低下やNFLからのクリスマスゲーム(ネットフリックス×ビヨンセ)やオールスター・ウィークエンドの侵略を受けているNBAが置かれている現状を知る材料としては面白い内容だと思います。
【記事】シルヴァーが視聴率低下やスリーポイントについて語る
【記事】マーヴェリックスが新CEOにアリーナ建設のノウハウを知るリック・ウェルツを指名
【記事】2024年NBA球団バリュエーション
セルティクスの売却について
まずは、NBAが直面している視聴率低下についてのアダム・シルヴァーの見解をThe Athleticの記事を通して紹介します。
NBAのアダム・シルヴァーがテレビ視聴率低下を認めるが、ファンの関心は健在だと語る
「私たちはこの過去2年間でリーグ史上最高の観客動員数を記録したばかりで、ビジネスの観点から他のデータポイントを見ればわかるだろう」と、シルヴァーはNBAカップの決勝戦の前に語った。「我々のソーシャルメディアのオーディエンスは、他のどのリーグよりも多く、しかも指数関数的に成長を続けている。だから、このゲームへの関心が足りないわけではない」NBAコミッショナーのアダム・シルヴァーがNBAカップ前に話した。
NBAカップ準決勝が行われた土曜日までの期間、リーグの全国放送パートナーであるESPN、ABC、TNTによるNBAゲームの視聴者数は、前年度同時期と比べて19%減少したとSports Media Watchが報じた。
シルヴァーの認識はやや控えめで、「視聴率は少し下がっている」と述べるに留まったが、「ケーブルテレビの視聴者数全体が二桁の割合で減少している」という広範な傾向に言及した。Sports Media Watchによれば、男子大学バスケットボール(21%減)、女子大学バスケットボール(38%減)、NHL(28%減)も視聴者数が減少している。
「ストリーミングで視聴される番組が従来のテレビ視聴を上回る転換点に近づいている」とシルヴァーは言った。「そのため、来年からはじまる新しいメディア契約では、すべての試合がストリーミング・サービスで視聴可能になる。ストリーミング・サービスに移行することで、試合の進行を除けば、プロダクション面で従来のテレビではできなかったあらゆることが可能になる。新しい機能や選択肢、利用可能なスクリーンがたくさん増える」
「大半の人たちは、私たちの試合をメディアを通じて観ていて、直接会場に足を運ぶわけではない」とシルヴァーと言った。「だからこそ、メディアに細心の注意を払う必要がある」
NBAはスリーポイントシュートのアテンプト増加に対してアークラインを後ろに下げる予定はなし
シルヴァーのより大きな懸念は、テレビ視聴率よりも、どのような形であれ、試合を観るに値いするものにすることだ。NBAにおけるスリーポイントシュートの増加について広く批判されている件について、彼は、1試合あたり1チームが「2~3本」多くスリーポイントシュートを撃ってしていると指摘した。しかし、ラインを後ろに下げる解決策の声があがる中で、シルヴァーはそれを考慮に入れていないと言った。
「バスケットボールのスタイルについて多くの議論が行われている」と彼は言った。「スキルレベル、オフェンスの多様性、ファンの反応、すべてを包括的に検討している。私はゲームが素晴らしい状態にあると思っている。試合を観るのが大好きだし、世界で最もスキルの高いアスリートたちが競っていると思う」
「もし、(MLBで提案されたような)ゴールデンアットバット的な迅速な解決策があれば、それを提案したいが、ここにはそうした解決策はないと思う」
シルヴァーは、アナリティクスの動向がゲームに悪影響を与えている可能性を認めた。「アナリティクスがあまりにも支配的になり、選手たちが非自然的と思われる動きをする状況を生み出していることはNBAだけの問題ではない」と彼は言った。
続いては、地味ですが、今後のリーグの流れに影響を与えそうな記事を紹介します。この記事を、新マーヴェリックスのオーナーがテキサス州におけるスポーツ賭博解禁を目指し、「新アリーナ×カジノホテル」をつくろうとしているという文脈で読んでいただければと思います。
マーベリックス、新CEOにNBA殿堂入りエグゼクティブのリック・ウェルツを任命
リック・ウェルツがゴールデンステート・ウォリアーズのCOOに就任して1年目、球団はサンフランシスコのピア30~32に新アリーナを建設するつもりだと発表した。
しかし、地元反対団体の抗議を受け、2015年にウォリアーズはピボットし、ミッションベイの一区画をセールスフォースのCEOであるマーク・ベニオフから買い取った。
2019年、チェイスセンターがオープンした。このアリーナは$1.4Bもの費用を完全なるプライベート・ファイナンスで建設されたものだ。
ウェルツは今後10年間でダラスで同じことを達成しようとするつもりだ。水曜日、マーベリックスは71歳のNBA殿堂入りのウェルツを新たなCEOとして迎え入れた。ウェルツはマーヴェリックス独自の最新鋭アリーナ開発計画に深く関与することになる。
マーベリックスのアメリカンエアラインズ・センターのリースは2031年7月まで満了しない。しかし、ウェルツが指摘したように、ウォリアーズのアリーナ建設プロジェクトは7年かかったた。今がマーベリックスの未来の本拠地について考え始める時期だ。
「重要なのは、地域社会の良きパートナーであることだ」とウェルツは言った。「約束したことを実行すること、そして人々を正しく扱うことだ。それをどこでもやっていれば、成功の可能性は高くなる」
11月、デュモント(マーヴェリックスのオーナー)はウェルツをニューオーリンズ・ペリカンズとの試合が行われるダラスのホームゲームに招待した。ふたりは秋にラスベガスで会い、ウェルツの加入について議論した。デュモントのオフィスで6時間を共に過ごしている間、彼は一度もスマホを見なかった。それがウェルツには印象的だった。
「彼のミッションへの集中力と、何を達成したいかについての明確なビジョンはとても説得力があった」とウェルツは言った。「そして、それは私がチーム運営がどうあるべきだかと考えていることと完全に一致していた」
デュモントは、新しいアリーナの話題がその会話の中で出てきたと話していた。
「私たちの目標は、マーヴェリックスのために可能な限り最高の施設を建設することだ。それは最先端で、ワールドクラスのものであり、NBAバスケットボールが象徴することをカタチにしたものになる」
2024年度NBA球団のバリュエーション
今月、NFLはマイアミ・ドルフィンズとフィラデルフィア・イーグルスのそれぞれが$8B以上のバリュエーションでLP(Limited Partnership)株式を売却するなど、金の力を誇示した。NFLは他のスポーツリーグが羨む2つの条件を備えている。それは、各チームのコスト確実生と、サラリーキャップをはるかに上回るリーグからの年間$400M以上の収益分配金だ。この組み合わせによって、NFLの「最も安い」チームでさえ$5B近い価値になっている。
NBAも同様の道を進んでいるようだ。この18カ月間で、NBAは経済モデルをNFLに近づける2つの契約を結んだ。1つ目はセカンドエプロンで最も積極的なロースター・スペンダーを抑える新しいCBAだ。そして2つ目は、2023年7月に締結された11年$77Bの新しいメディア契約で、この新しい金でフランチャイズへの年間支払額が3倍になる。
Sporticoの計算によると、現在NBAフランチャイズの平均バリュエーションは$4.6Bだ。リーグランキングのトップはゴールデンステート・ウォリアーズで、最下位はメンフィス・グリズリーズだ。この合計額は2023年から15%増加し、4年前の平均$2.37Bからほぼ倍増している。財務テーブルの底辺の増加はさらに大きく、現在の「最低バリュエーション」である$3.06Bは4年前から127%の増加だ。
ウォリアーズ($9.14B)は、Sporticoが発表したNBAの評価ランキング5回全てで首位を獲得していて、全スポーツチームの中ではダラス・カウボーイズ($10.3B)のみがそれを上回る。NBA内では、ウォリアーズ、ニューヨーク・ニックス($8.3B)、ロサンゼルス・レイカーズ($8.07B)が突出しており、レイカーズは4位のブルックリン・ネッツ($5.7B)より42%高い価値がついている。
私たちのエンタープライズ評価は、LPの取引ではなく、コントロールセール価格を測定している。NBA30チーム全体の価値は、所有者が保有する不動産やチーム関連事業を含めて$138Bに達している。
NBA30チームは昨年、推定$11.6Bの収益を生み出し、1チームあたり$387Mだった。チームスポンサーシップは約15%増加し、NBA以外のイベントがNBAフランチャイズによって所有または運営されるアリーナでの収益を押し上げた。
コンサート事業はコロナ後に急成長していて、主要なアリーナを持つチームには年間$25M以上を追加収益としてもたらしている。NBAオーナーたちは、2024年に世界で最も収益を上げたコンサート会場のトップ20のうち10会場を運営している。
最近ジュリア・コックとその家族がBSEグローバルの15%を$6Bのバリュエーションで買収したが、それでアリーナ所有の価値が明らかになった。BSEはネッツ、ニューヨーク・リバティ、バークレイズ・センターの親会社だ。今年4月、バークレイズ・センターは世界で最も収益を上げたアリーナで、年間ランキングでは6位になった。ネッツのバリュエーションはNBA最高である43%の上昇率を記録した。
ジョー・サイとクララ・サイは2018年から段階的にネッツとバークレイズ・センターの権利を購入し、翌年、$3.3Bのバリュエーションで所有権を合併した。これは米国スポーツチームのコントロール下で支払われた最高価格だった。
ウルブズの継続中のサガを除いて、2024年にはNBAのコントロールセールは行われていない。昨年の3件の取引と、バックスの準コントロール取引のみだった。この取引では、マーク・ラスリーが$3.2Bのバリュエーションでジミーとディー・ハスラムに25%の持分を売却し、5年ごとのガバナーの権利を譲渡した。
もっとも価値のあるNBAフランチャイズトップ10
ウォリアーズ:$9.14B (前年比+10%)
ニックス:$8.3B (前年比+12%)
レイカーズ: $8.07B (前年比+10%)
ネッツ:$5.7B (前年比+43%)
クリッパーズ:$5.58B (前年比+25%)
セルティクス:$5.66B (前年比+11%)
ブルズ:$5.56B (前年比+15%)
ヒート:$5B (前年比+20%)
ロケッツ:$4.77B (前年比+18%)
ラプターズ:$4.66B (前年比+13%)
NBAの収益はメジャーリーグベースボール(MLB)よりわずかに下回るが、チームのバリュエーション額は74%も高い。これは主にテレビ収入によるものだ。MLBは伝統的にローカルスポーツネットワーク(RSN)との契約に年間収益の20%以上を依存してきた。しかし、NBAも似たような問題に直面していて、昨年はダイアモンド・スポーツ・グループの破産により、バリー・スポーツ・チャンネルと契約していたチームがローカルテレビ収入の約15%を失った。それでも、ローカルテレビ収入は昨年のNBA全体収益の11%に過ぎず、レイカーズとニックスがそのローカルテレビ収入全体の約25%を占めた。
MLBには来シーズンからはじまるメディア権契約による恩恵がないが、NBAのチームへの年間支払いは、NBC、ESPN/ABC、アマゾンとの新しい契約で1年目は33%増加して$137Mになると予想されている。これが次年度には13.5%上昇し、その後は毎年7%の増加を見込んでいる。この契約の最終年にはチームごとの支払い額は$297Mに達する。
それでも、この最終年の支払い額は、NFLチームが昨年得た金額より10%低い。しかし、バスケットボールは世界的に共感を得られるスポーツなので、NBAの投資家たちは北米以外での機会をNFLよりも大きく見込んでいる。彼らのビジョンは、国内でNFLが成し遂げたことに近づきつつ、海外ではイングランド・プレミアリーグの巨大なリーチを再現することだ。この展望は、2023年に売却された4チームの平均11倍という高い収益倍率を支える根拠となっている。これに対し、2010年から2012年の間に売却された9チームは平均で収益の3倍強だった。
スポーツごとの価値と収益のマルチプル
NBA:平均価値 $4B/平均収益 $362M 平均価値/収益マルチプル 11.9
MLE:平均価値 $678M/平均収益 $70M 平均価値/収益マルチプル 9.6
NFL:平均価値 $5.93B/平均収益 $641M 平均価値/収益マルチプル 9.3
NHL:平均価値 $1.79B/平均収益 $233M 平均価値/収益マルチプル 7.7
WNBA:平均価値 $96M/平均収益 $13.2M 平均価値/収益マルチプル 7.3
NWSL:平均価値 $104M/平均収益 $15.4M 平均価値/収益マルチプル 6.8
MLB:平均価値 $2.64B/平均収益 $376M 平均価値/収益マルチプル 6.7
F1:平均価値 $2.31B/平均収益 $376M 平均価値/収益マルチプル 6.1
NBAチームは収益の10%未満を米国外で生み出しているが、国際的な放送権には収益を増加させるチャンスがある。しかし、試合時間が課題で、試合はヨーロッパでは深夜、アジアでは早朝に行われることが多い。それでも、ファンが多様な形でコンテンツを消費する中で、ハイライト中心のNBAは短いクリップ消費に適しているという強みを持っている。
NBAは2025年に中国での試合を再開し、この重要な国際市場でのプレゼンスを2019年ぶりに復活させる予定だ。中国はNBAにとって重要な経済成長地域だったが、5年前に当時のヒューストン・ロケッツのGMだったダリル・モリーが香港の抗議活動支持をツイートしたことで関係が損なわれた。NBAコミッショナーのアダム・シルヴァーが当初、表現の自由を支持したことにより、中国の国営放送CCTVがNBAの試合を放送から外し、中国でのスポンサーシップも消失する事態に陥った。シルヴァーはリーグと中国の間の関係修復に取り組んでいる。
最後に来年早々に売却が決まるのでは?と噂されているセルティクスの売却についてお伝えします。
ボストン・セルティックスの売却について
NBAで歴代最多の18回の優勝を誇るボストン・セルティックスが売却されることになり、銀行家、投資家、チームの経営陣から大きな関心を集めています。推定売却価格は$4.5Bから$6.5Bと予想されていて、最終的な価格は入札者の数や売却されるフランチャイズの割合によって決まるそうです。
また、セルティクスはレイカーズと並んでアメリカのスポーツリーグで最も価値の高いフランチャイズのトップ10にランクインしていますが、その中で唯一ホームアリーナを所有・運営していないチームになっています。セルティクスの本拠地のTDガーデンはデラウェア・ノースが所有していて、同社はNHLのボストン・ブルーインズも所有しています。
そのため、アリーナを所有していないことが、どれだけトップスポーツブランド球団のバリュエーションに影響するのかにも注目が集まっています。
前述したように、セルティックスの価値は$5.66Bで、NBAフランチャイズの中で6位にランクインしていますが、アリーナを所有しているネッツ($5.7B)とクリッパーズ($5.68B)にわずかの差で後れを取っています。
2024年に$2Bのインテュイット・ドームをオープンしたクリッパーズの収益は急増すると見込まれていると言われ、NBAトップフランチャイズのひとつであるセルティクスも資産価値を高めるためにアリーナを持つことになるのか気になるところです。
現在本拠地として使用しているTDガーデンのリース契約は2036年までだそうで、新オーナーが昨今の自前でアリーナを建設する流れに乗るのであれば、2028年には建設開始見込みを立てなくてはいけません。または年間$25M以上の利益を見込んでTDガーデンのリースを破棄し、新アリーナ建設に舵を切ることも考えられます。この辺りは売却後の話ですが、買収交渉に影響を与えるかもしれません。
その他の注目ポイント
2002年にグループを率いて$360M(負債額込み)でセルティクスを買収したウィック・グラウスベックは、現在、相続計画の一環として、球団売却を進めています。グラウスベックは2028年まではチームの運営を続けたいそうですが、サラリーキャップのタックスがどのようになるかわからない中で、$6Bを払う新しい買い手がその条件を飲むかどうかも注目されています。
セルティクスの財務ハイライト
Sporticoによると、セルティクスの2023-24シーズンの総収益は$493Mで、その内訳に次のようになります。
チケットセールス:149M
NBA分配金:$124M
プレーオフ収益(大部分はチケット販売):$102M
ローカルTV契約とNBCスポーツ・ボストンの20%の持分からの収益:$70M
スポンサー契約/その他:$49M
NBAとのリベニュー・シェアリング後の純収益は$465M。
タックスが$40M以上だったにもかかわらず、EBITDAでおよそ$30Mの利益を生み出す。
セルティックスはNBAでもトップの高額なチケットセールスを誇り、シーズンチケットのウェイティング・リストには14,000人以上が登録されている。
これらの数字も買収金額を決める大きな要素になりそうです。
NBAエクシパンションとバリュエーション
セルティクスの売却は、NBAエクスパンションの可能性がある中で行われているため、それが売却価格に影響を与えると言われています。NBAが最後にエクスパンション行ったのは2004年で、その時はシャーロット・ボブキャッツ(現在のホーネッツ)がリーグに加わり、他の29チームがエクスパンション・フィーの$300Mを分け合いました。今回のエクスパンション・フィーは$5Bと見込まれていています。