ウォリアーズはどこまで払えるのか
昨年のウォリアーズはサラリーが$176.8Mで、リピータータックスが$176.7Mと合計$353.5Mをロスターに使っていました。今シーズンはサラリーが更に増えて、タックスを合わせた金額は$400Mに迫る勢いです。
これはさすがにウォリアーズのCEOのジョー・レイコブも苦しいようです。レイコブはThe Athleticのティム・カワカミのポッドキャストで「私が言っているのは、今回400-500Mに行くと言うのは正しくないし、単に可能ではないという事だ…私たちはそれに近づいている。私はそのような数字になると思わない方がいいと言っているだけだ、みんなのチケット価格をすごくあげない限りは。それはみんなも望まないと思う」と語っていました。
また、いくら球団の売上が$700Mと過去最高といっても、レイコブ曰く「選手のサラリーだけではなく、経費も過去最高にかかっている」ため利益は思ってるほど出ていなさそうでした。しかもその利益からレイコブらのステークホルダーは1銭も受け取らず、その儲けすべてを球団に注いでいるそうです。ウォリアーズにとって本当にここが限界のようです。
しかし、ウォリアーズにはドレイモンド、ウィギンス、プールと主力の一端を担う選手たちの契約延長/再契約が控えています。ウォリアーズのサラリー+タックスはこの先$400M以内に収まるのでしょうか。
The Athleticのアンソニー・スレイターとマーカス・トンプソンの記事によると、ドレイモンド・グリーンは「自分がマックス契約延長に値すると信じている」そうです。彼は前回の契約延長の時、ウォリアーズがKDと契約するのを助けるためにマックスよりも低い金額で契約したと当時ESPNにいたクリス・ヘインズに話していたので、4度目の優勝を果たした今、その時の借りを返してもらうためにマックス契約延長は当然だと考えていたとしても不思議ではありません。
そして、アンドリュー・ウィギンスとジョーダン・プールも契約延長が可能になっています。プールと契約延長をするだけで今年のサラリーを超えるのは確実です。とても来年のサラリーが$400Mに収まるとは思えません。
では、具体的な数字はどのようなものになるのでしょうか。まずは今年のウォリアーズのサラリーキャップから検証していきたいと思います。
2022-23シーズンのサラリー+タックス
今シーズンはどんな状況でどうなって行くのでしょうか。ロスターもほぼ決まり、最終的にはトレーニング・キャンプで15人目のロスター入り争いがあると思われます。(イギーを14人目に入れているのは、昨シーズンは彼のリーダーシップが大きかったので、OGとして復帰すると思っているからです。スレイターも彼が帰ってくる気があるなら、そのスポットは彼のものだとレポートしています)
ちなみに昨年の数字は、サラリーが$176.8M+リピータータックスが$176.7Mのトータルで$353.5Mでした。
今後イギーとミニマム契約し、15人目は様子見体制を維持すると…
そうなると、サラリーはトータルで$191.15Mになり、リピータータックスは180.97M。トータル$372.12Mになります。
仮に最後の枠をミニマム契約をすると、サラリーはトータルで$192.98Mになり、リピータータックスは$193.37M。トータルで$386.35Mになります。
最後のミニマム枠を使うと、ウォリアーズは追加で$12M払わなければいけない計算になります。数字が大き過ぎて$12Mの大きさがマヒしてきますが、これはケリー・ウーブレのサラリー分なのでバカにできません (例えが悪いですかね。その場合はウーブレじゃなくジョッシュ・ハートに脳内変換お願いします)。基本的には、これから払う金額に7をかければおおよその追加金額になる感じです。
(話は変わりますが、おそらくロリンズはアレナス条項回避のため2年ではなく3年契約になりました)
もしOPJとGP2と再契約できていたら…?
もしウォリアーズがオットー・ポーターJr.(以下OPJ)とゲーリー・ペイトンII(以下GP2)と再契約できていたらどうなっていたでしょうか。
仮にラプターズのOPJのオファーに合わせてOPJのサラリーを$6,478,979とします。そしてアーリーバードがあったGP2のサラリーをブレイザースのオファーよりも高い$9,000,000で計算します。そうなると14人でサラリーは$200.69Mになり、タックスは$248.32Mでトータルは$449.01Mになります。
これは現在のディヴィチェンゾとジャマイカル・グリーンのキャップバージョンとは$76.88Mもの開きがあり、この金額は2人の6~9年選手とマックス契約ができてしまう数字です。ウォリアーズがふたりのオファーにマッチしなかったのも頷けます。
また、仮に新契約の$7Mが安いと言われていたルーニーのサラリーを、同じCのズバッツの新契約の$11Mに合わせた金額を払った場合は、$28Mの追加になり、キャップが$400Mを超えてしまいます。
このようなキャップワークを見てみると、ウォリアーズの$400M限界説の信憑性が増してきます。
2023-24シーズンのサラリー+タックス
ウィギンスとプール、そしてドレイモンドの契約延長があるかもしれない来年のサラリーキャップも見ていきましょう。
現在状況としては、ドレイモンドがプレーヤー・オプションなので、来年の夏にFAになる事が可能です。ウィギンスの契約は来年の夏までで来年FAになります。プールの契約も今年が最後で、来年の夏にRFAになります。契約があるからといってこのまま契約延長しなければ、来年の夏はキャップッスペースがあるチームが多いため、主力3人のフライトリスクが高まります。
クレイも契約延長の資格を有しますが、2シーズン怪我で休んだため、本調子のプレーを見せれるのは今シーズンということでクレイの契約延長はないと考えます。ちなみにクレイは10/17から契約延長が可能で、プールの契約延長は10/16までになります。
まずはドレイモンドの契約延長の数字から見ていきましょう。
・前述しましたが、ドレイモンドは4年マックス契約を望んでいるようです。カリーは、自分とクレイとドレイモンドの3人はパッケージディールだと考えているそうで、カリーをハッピーにするためにも、ウォリアーズはグリーンが怒ってFAで他に行くようなオファーはしないと思います。
また、ドレイモンドのマックス契約延長は高くはないで心配はいらないでしょう。彼がオプトインした場合のサラリーは$27Mで、契約延長の初年度のサラリーは今年の$25.8Mの120%の$30.9Mになり、その差はあまりありません。これならドレイモンドにフルで払ってしまっても良いような気もします。もしドレイモンドの希望通りの契約になれば、4年トータルで$138.7Mです。カリーの契約と足並みを揃えるなら3年でトータル$100Mになります。
・ジョーダン・プールのサラリーは、ESPNのボビー・マークスが開発した独自のフォーミュラを使って出した数字の$23.4Mをベースにします。これは今年契約延長をしたブレイザースのアンフェニー・サイモンズの4年$100Mよりも少し良い数字で、4年で$108.5Mの計算になります。実際もっと高いサラリーになるかもしれません。
・ウィギンスは$37Mにします。その根拠ですが、現在予想されているサラリーキャップだと、彼のマックスは$39.9Mになり、それよりも低く、優勝後の今年の$33Mのサラリーよりも多い金額で設定しました。来年FAでキャップがあるチームは再建中なので、彼に$37Mをオファーするチームはないと思いますが、ルカやカワイやレブロンやモラントらの相手チームのエリート選手を守らなければいけないリスペクトから、彼のサラリーは今年よりも良くなければいけないという判断です。実際はもっとマーケットに合わせてもっと低いかもしれません。
その数字を来シーズンのキャップシートにはめ込むと…
13人目をイギーのミニマム、残りふたりをミニマムで計算すると、サラリーは15人でNBA史上最高記録更新の$232.92Mになり、タックスも前人未到の$380.76M。トータルでなんと…
$613.69M !!
ホーリー・カノーリ!!
アリーナの運営費や球団の経費を考えるとこれは大赤字だと思います。売上が$1Bくらいないと$600Mは払えないのではないでしょうか。
レイコブが来シーズンについてカワカミに話しています:「これはむずかしくなる。私はここに座ってファンベースにウソをつくことはない。来年の夏、私たちが何ができるのか解決するのは本当にむずかしい。今年私たちは大丈夫だ($386M)。再挑戦する。今年私たちは素晴らしいチームになると思っている。でも来年の夏、私たちはキャップとタックスについての問題に直面する。私たちはどうなるか見守るだけだ。毎年状況が変わっていく。みんながどうプレーして優勝争いができるのか見てみよう。私たちはそれができると思っている。また優勝できるか見てみよう。それは私たちができることを広げるのは確かだが、もし私たちが(優勝争い)できないなら、すこし再考しなければいけない」
レイコブの言うように、今シーズンのプレーオフで早いラウンドで敗退し「再考」しなければならないケースを考えてみましょう。そのためには、キャップを支払い可能な$400Mあたりまで落とす必要があり、それは誰かを諦めなければいけないことを意味します。
例えばですが、来年のサラリーを$400Mまで落とすには、サラリーを上の予想から$20Mは削らなくてはいけません。$20Mを削るのも相当大変です。チームで2番目にサラリーが高いクレイをトレードしたとしても、$33Mを引き取らなければいけません。これで10M節約できましたがまだ足りません。あとはワイズマンの$12Mの契約を指名権と引き換えにサラリーダンプして、ロスターを14人で行ったとしても、トータルで$431.75Mになってしまいます。
数字的には可能な領域に入ってきましたが、まさかスプラッシュブラザースを解体することもないでしょうし、2位指名でレイコブの期待も高いワイズマンも開発前にあきらめることはしないと思います。ヘッドコーチのスティーヴ・カーが「ファンダメンタル6」と呼ぶ主力選手に入っているプールを諦めるのも考えづらいですし(ファンダメンタル6=ローテーションの大きな時間をプレーするカリー、クレイ、ドレイモンド、ウィギンス、ルーニー、プールの6人のこと)、クミンガやムーディーはサラリーが低すぎて何もできません。ウィギンスを出したらウィングの守備がかなり落ちて、カワイやルカを守れる人がいなくなります。$400M払っているのにプレーオフ早期敗退したらさすがに厳しいものがあります。
また、カンファレンス・ファイナルズへ進出する可能性も十分にあります。そうなると来シーズンに再挑戦するために本当に$600M以上払ってチームをキープするしかなくなります。その時、本当にどうやって$600Mを捻出するのでしょうか?
コロナの時のようにまた銀行から金を借りてローンを組み直すのでしょうか。レイコブが自分のポケットマネーを貸し出すのでしょうか?ちなみにフォーブスによると、レイコブの純資産は$1.5B($1=¥130で1560億円)とリーグで23~24位なので、それほど金を持っているわけではありません。なんなら三木谷さん($3.5B)の方が金持ちです。
レイコブのゴールは、レイカーズのオーナーだった故ジェリー・バスのファイナル進出記録5割を目指すことだと話しているので、チームをできるだけキープするために、今もどう資金繰りをするか計画を練っているに違いありませんが、この難関を突破できるような革新 (Light years ahead) 的なアイディアが必要です。
ローカルTVの契約がいつ更新になるのかはわかりませんが、年間$30Mの契約がレイカーズレベルの$141Mまで跳ね上がることもないでしょうし($65Mくらいになるのではないかと言われています)、新設したエンタメ部門もまだそこまで大きな利益を出せるところまで行っていないと思われます。追加でできるだけ多くのエンドースメントを集めることも重要になってきます。もしかしたら、ウォリアーズの未来は営業さんにかかっているのかもしれません。
年間$40Mと言われているRakutenのパッチをあと4こくらい縦に並べて追加で$160Mチャージできれば解決するんですけどね 笑 (パッチサイズの2.5inch×2.5inch規定を外れてるとかのツッコミはなしでお願いします)
2022-23シーズンのウォリアーズに関しては、バスケだけではなく、契約延長を含めたキャップワークと球団の財政的な動きにも注目してみてください。NBA史上かつてない領域に入っているだけに、どちらに転んでもおもしろくなりそうです。
レイコブの罰金とタックスについて
レイコブがアンドレ・イグォダラのポッドキャストでタックスについて発言をして$500,000の罰金をくらい、CBAのタックス制度が一瞬話題になったので触れてみたいと思います。
レイコブが言っていたことは:
レイコブのポイントは、「私たちは自分たちが指名した選手をキープしているだけなのになぜこんなにも多くのタックスを払わなければいけないのか」という事です。なぜFAやトレードで獲得した選手と生え抜きの選手が同じタックスレートなのか疑問を呈している訳ですね。
たしかに、昨シーズンのウォリアーズのチャンピオンシップ・ロスターは、ロスターの半分以上は生え抜きで、トレードで獲得したのはウィギンスだけで他はミニマム契約で埋めたものになっています。今年はミニMLEでディヴィンチェンゾとロリンズ(2巡目指名と複数年契約するにはMLEを使わなくてはならないので仕方ない)と契約しましたが、他はミニマム契約です。それでタックスを$200Mも払わなければいけないのは今後のスモールマーケットのチームにも影響してきます。
特に、スモールマーケットで良いFA獲得に競り負けるサンダーやグリズリーズ等にとってもこのタックスレートは今後大問題になるはずです。彼らも指名した選手を育ていて、すでにSGAやモラントらにルーキー・マックス契約延長をしています。その次の選手も育っています。今のシステムのままだとタックスのためにせっかく育てた選手を手放さなくてはいけません。そこまで小さいマーケットではありませんが、キャブスやロケッツやマジックも直面する問題になるでしょう。
ESPNのザック・ロウや他のレポーターたち(誰か忘れました)も、自分たちで指名して開発した選手をタックスのために手放さなくてはならないのはおかしいシステムだと指摘しています。ロウは「スモールマーケット・チームは$350M使うと赤字になる。すごく赤字になる。でもウォリアーズはどうすればいいんだ?ドレイモンド・グリーンとクレイ・トンプソンを出ていかせるのか?ステフ・カリーにマックスを与えなければいいのか?彼らはウィギンスをトレードしてそれが当たった。チームが自分たちがドラフトして開発した選手と再契約するのは良い事だ。私たちはそれを望むべきだ」と言っています。
すばらしいチームをドラフトから育てて良いチームを作ったのに、かつてのサンダーのようにタックスのせいで(と信じている)ハーデンを失うことになるのはもう見たくないという事でしょうか。むしろせっかく数年かけて開発した選手がお金のせいで他のビッグチームにとられてしまうのは、競争力の観点から見ても公平とは言えません。それこそ弱小チームが金持ちチームの養分になってしまいます。
ロウは続けて、「私は生え抜きの選手の契約にはディスカウントがあるアイディアをピッチした事がある」と言っていました。生え抜きの選手にかかるタックス負担を減らすという事ですね。
たしかに、スターティング選手の中に生え抜きの選手がいないクリッパーズやレイカーズやネッツのような金でロスターを買っているチームに高いタックスを課すべきで、反対に生え抜きの選手のタックスレートをせめて今の半分にするなどのルールを導入すればよりフェアになるように思えます。
リーグがほんとうに公平性を追求するなら、マーケットサイズと売上とタックスやオーナーの資金力を紐づけて、チームごとに違うタックスレートを割り当てるべきです。現実社会でも課税は公平になるように消費税以外は累進課税になっています。そもそも金持ちと庶民が同じシステムで戦うこと自体が不公平で、ウォリアーズのようにアリーナを所有するなどゲームチェンジャーの要素がない限り(SFはリーグ7位)、ビッグマーケットにいる金持ちが有利なるのは決まってます。それでも勝てないのがスポーツのおもしろいところでもあるのですが…
現在のCBAは2023-24シーズンまでなので、2024-25シーズンから新ルールが適用になります。スモールマーケットのチームのオーナーたちは、今後の自分たちのためにもタックスシステムを改善に動くのか? それとも、彼らはそもそもタックスを払う意思がなく、選手とシェアし合う必要がないタックスチームからの再分配を期待して異を唱えるのか… 他にもスモールマーケットにはバイアウトやKDやシモンズのような契約が4年も残っているのにも関わらずトレード要求をされてしまう問題もあります。
そういった意味では、今回のレイコブのタックス発言で次のCBAではタックスもよりフェアな方向に変わるのではないでしょうか。声をあげるのは重要だとあらためて感じる出来事でした。
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