ブレークダウン:デニス・シュルーダーのトレード
ウォリアーズがネッツとのトレードでデニス・シュルーダーを獲得しました。1対1のストレートなトレードだったので、最初はデイリーレポート用に書きはじめたのですが、割と濃い内容になってしまったので特集でまとめることにしました。今回はこのトレードを主にウォリアーズの視点で解説していきます。
トレード内容:
ウォリアーズ獲得:
デニス・シュルーダー
2巡目指名権(2025年のヒート/プロテクションは31-37)
ネッツ獲得:
デアンソニー・メルトン(ACL損傷でシーズン全休)
リース・ビークマン(2Way選手)
2巡目指名権(2026年のホークス)
2巡目指名権(2028年のホークス)
2巡目指名権(2029年のウォリアーズ)
トレード自体は難しいものではなく、シュルーダーの$13Mとメルトンの$12.8Mのストレートなサラリーマッチです。ウォリアーズはファーストエプロンのハードキャップで余裕がおよそ$500,000しかないため、いかなるトレードでも出すサラリーよりも受け取るサラリーは$500,000以上多くなってはいけませんでした。シュルーダーとメルトンのサラリーの差額はこのわずかな$500,000という隙間に「ハマった」カタチになります。
これでウォリアーズは2つの2巡目指名権を使ってシーズン全休のメルトンという死んだロスター枠をシュルーダーに変える事ができました。
The Athleticのヨヴァン・ブハによると、「リーグ内では、今後のトレード市場で、シュルーダーレベル(NBAでベストPG30位に入るレベル)の選手の価値が1巡目指名権ではなく実質2巡目指名権ふたつになった影響が出るとも言われている」そうです。売り手にまわっているチームにとってはすこし痛い展開になったのではないでしょうか。
ウォリアーズがこのトレードに至った背景
ウォリアーズはこれまで2年目のブランドン・ポジェムスキーにボールを持たせてショットクリエイターやバックアップPGの役割を与えてきましたが、それがオフボールのコネクターであるポジェムスキーの強みを消すどころか、彼を大スランプにまで追いやってしまっていました。どこまでスランプかと言うと、FG%が37.6%とリーグで最下位から4番目に低く(最低150本のアテンプト)、スリーもたったの25%になっている程です。
そのような理由もあり、ウォリアーズのステフ・カリーなしの時間帯は、リーグ最下位のウィザーズのレーティングよりも悪く、セカンドユニットに大きな課題を抱えていました。昨年はクリス・ポールがカリーがベンチに下がった時間帯をリードしてうまく行っていたので、今回のシュルーダー獲得もそれを踏襲したようなカタチになっています。
また、ウォリアーズにはボールを持ってオフェンスをクリエイトできる選手が少なく、カリーに次ぐ2番手のスコアラーを必要としています。それがウォリアーズが「スターハンティング」している理由でもあり、シュルーダー獲得の理由でもあります。シュルーダー獲得で優勝候補に変貌することはないでしょうが、ゲーム終盤に滅法弱いウォリアーズのクロージングユニットに得点力を与えると同時に、カリーのオフェンスでの負担を軽減してくれるのは間違いありません。
こうして見ると、スター選手よりも、ロールプレーヤーであるシュルーダーの方がチームの課題を解決してくれそうに見えますが、シュルーダーの様子をみつす、本当にチームに必要なものは何かを引き続きデッドラインまで評価していくものと思われます。
タイミング
このトレードのタイミングも興味深いものがあります。チームは夏に契約した選手を12/15にトレードできるようになるのですが、そのトレード解禁日にトレードがあることはものすごく稀で、CBAが1999年にこのルールを定めてから15日にトレードがあったのはたった3回だけになります。それが今年は2回もありました(このトレードと、ヒートとペイサーズのトーマス・ブライアントのトレード)。
なぜウォリアーズは他チームが様子見のこの段階でトレードに踏み切ったのでしょうか?しかも、メルトンの契約はミッドサイズで今年で切れることもあって、今噂になっているジミー・バトラーなどのスター選手とのトレードのパッケージに含めるにはうってつけです。そんな貴重な契約を早くも使ってしまっても良かったのでしょうか?
これには2つの理由があると言われています。
1.なる早での課題解決
まず、前提としてメルトンはすでに全休で、彼のロスターへのフィットやチームとのケミストリーなどを気にする必要がありません。現在14勝11敗で、11位のスパーズと1.5ゲーム差のチームとしては、すぐにでも違いを生み出せる選手とトレードしても良いくらいです。
ESPNのケヴィン・ペルトンによると、ウォリアーズはカリーがベンチに下がっている間、100ポゼッションあたり1.9点を相手に許していて、オフェンス・レーティングはリーグ全体で4パーセンタイルに入っているそうです。
これはカリーなしで得点ができない事とセカンドユニットに課題があることを意味しています。それはウォリアーズのこの10試合の成績にも現れていて、彼らはその間8敗しています。何もせずにデッドラインまでまてば、負けが積み上がってプレーイン・チームになってしまう可能性もあります。そこで早めにシュルーダーを入れて、少しでも多くの勝ち星確保に動いたと思われます。
また、36歳のフランチャイズ・プレーヤーのステフ・カリーも両膝に炎症を患ったこともあり、いつカリーがケガやロードマネジメントなどで欠場するかわかりません。シュルーダー加入により、カリー不在時にPGをどうするかなどの心配がなくなります。
ネッツの再建のタイムラインに31歳のシュルーダーは合わないので、ネッツはシーズン前から彼の事をトレード候補にしていたようです。しかも、シュルーダーはキャリアでもベストシーズンのひとつを過ごしているため(キャリアハイ3番目となる平均得点18.4、キャリアハイ3番目となるPER16.4、キャリアハイとなるTS58.8%を記録)、タンクして少しでもドラフト順位をあげたいネッツとしては、早めに調子がいいシュルーダーをトレードに出したかったのではないでしょうか。
デッドラインまで待てば、シュルーダーで1巡目後半の指名権が得られた可能性もありましたが、そのために未来のスター候補であるクーパー・フラッグ/ディラン・ハーパー/エース・ベイリーらの獲得チャンスを棒に振ってはいけません。現在ネッツはドラフト順位が8位で、もう勝ってはいられません。それよりも2巡目指名権2つを甘受して、なるべく早く「Sag for Flagg(フラッグのために下がる的な意味)」体制を取ることが優先されたのだと思います。
ネッツは、メルトンをノンタックスペイヤーMLEやミケル・ブリッジスのトレードでつくったTPEで吸収するような話も出ていましたが、結局それらのエクセプションは使わなかったようです。特に注目なのは、7/7で切れるミケル・ブリッジスの$23MのTPEです。夏になれば、ネッツには巨大なキャップルームがあるため、その利用価値がなくなってしまいます。もしそれを使うなら2月のトレード・デッドラインになるでしょう。キャム・ジョンソンやボーヤン・ボグダノヴィッチのトレードでそれをリサイクルするかもしれません。
また、このウォリアーズとネッツのトレードでは、キャム・ジョンソンも含めた大きなトレードも議論されていたそうですが、ジョンソンには$4.5Mのインセンティブがあり、ハードキャップのウォリアーズはそれも計算に入れたサラリーマッチをする必要があります。そうすると、ジョンソンのサラリーは$22.5Mではなく$27Mになり、シュルーダー&ジョンソンのトレードでは実質$40Mを受け取ることになります。
そうなると、メルトン+契約が切れるゲーリー・ペイトン+契約が切れるケヴォン・ルーニー+カイル・アンダーソンでも足りません。他の選手はウォリアーズにとって重要な若手やシューターになるので、ウォリアーズにしたら現実的ではなかったのでしょう。スタイン・ラインのマーク・スタインは、ウォリアーズはジョンソンも獲得するためにはジョナサン・クミンガを「ほぼ確実に」含めなければならないとレポートしていて、ネッツがクミンガを要求していたという事を示唆しています。
これは面白い展開で、夏にRFAになるクミンガに対して、ネッツはウォリアーズがマッチしずらい条項を織り交ぜた内容のオファーシートを出す事も考えられます。ネッツからすれば、ジョンソンで他チームから若手やアセットを獲得し、クミンガはキャップルームを使って獲得した方がリターンを最大化することができます。これはデッドラインでのクミンガのトレードにも影響するため、今後注意深く見守っていく必要があります。
2.新CBAの「2ヶ月ルール」変更
これまではトレードされた選手は2ヶ月間トレード・パッケージに含めてトレードする事ができませんでした。ところが、新CBAでこの「2ヶ月ルール」に変更が入り、12/16かその前にトレードされた選手はトレード・デッドラインの前日からトレードに出すことが可能になりました。
これは今回のシュルーダーにも当てはまります。シュルーダーはチームへのフィットが疑問視されているので(後で詳しく説明します)、もしシュルーダー実験が上手くいかなければ、彼を再びデッドラインでトレードに出すことも可能です。
これにより、ウォリアーズは1巡目指名権やスター選手獲得のためのミッドサイズのサラリーを犠牲することなしに、今後の動きの自由度をあげることができました。この2ヶ月間でシュルーダーがチームにフィットするのか様子も見れるし、なかなか素晴らしいトレードだったと思います。
2巡目指名権の考察
ウォリアーズはこのトレードで2つの2巡目指名権を送るのではなく、3つの2巡目指名権を出して、ひとつの2巡目指名権をもらっています。なぜわざわざそんな事をするのでしょうか?
これは、ウォリアーズが来年の2巡目指名権を欲しがっていたからだと思われます。
サラリーキャップがタックス超えのウォリアーズにとって、安く契約できる2巡目指名権はロスターを構成する上で重宝するアセットになります。ましてや、今ウォリアーズはマックス級のスター選手を狙っていると言われていて、来シーズンのサラリーが大幅にあがる可能性もあります。しかし、トレード前までウォリアーズには2025年の2巡目指名権がありませんでした。
また、新しいCBAでセカンドラウンド・エクセプションができ、チームはキャップルームやMLEを使うことなく2巡目指名の選手と契約できるようになって、ロスター構築の自由度があがっています。ウォリアーズが今回のトレードで来年の2巡目指名権を得たのは、タックスやエプロンの管理の観点から、2巡目の選手をロスターの14人目にする選択肢を確保しておきたかったのではないでしょうか。
シュルーダーのフィット
これがキャップや指名権よりも大切なポイントですね。
The Athleticのジョン・ホリンジャーも、「シュルーダーはゴールデンステイトにとって完璧なフィットではない。彼はパスファーストのシステムの中でシュートファーストの選手になる」と言っていて、ボールを持って真価を発揮するシュルーダーはウォリアーズのモーション・オフェンスに合いそうに見えません。
しかし、ウォリアーズのヘッドコーチのスティーヴ・カーはシュルーダーのためにシステムを変えるつもりがあるようです。
カーはシュルーダーのフィットに楽観的です。
ドレイモンド・グリーンもシュルーダーのプレーに関してはカーと同じ意見で、「彼がここに連れて来られたのは、必ずしも私たちのスタイルに合うからではないと思う。私たちは特定のバスケットボールスタイルを持っていて、それは彼が普段やるタイプのものではない。でも、私たちには彼が得意とすることをこなせる選手が必要なんだ。私たちが彼にアジャストするのが楽しみだ」と話しています。
もしカーが手腕を発揮して、シュルーダーの強みを活かしつつ、チームのオフェンスを機能させる事ができるのでるのであれば、間違いなくプレーオフ進出の可能性はあがります。しかし、セルティクスやサンダーと互角に渡り合えるような優勝候補になるためには、シュルーダーでは足りない気もします。
GMのマイク・ダンリヴィーが「私たちは、ステフィン・カリー、ドレイモンド、そしてコーチとしているスティーヴの優勝の可能性を最大限に広げるタイムゾーンにいる。今日その証明として、私たちはそうした。私たちは検討し続けていく…私は評価して様子を見ていこうと思っているが、常に可能性を探っていく」と言っているので、まずはステフのために戦力補強をしていく事がチームとしての優先事項だと示唆しています。ウォリアーズはまたトレードをしてスター選手獲得を狙っているのでしょう。
カーやドレイモンドが言うように、システムをシュルーダーが活きるようなものに変えられるなら、他のスター選手のためにもシステムを変えられるはずです。そうなれば、ジミー・バトラーだけではなく、ディフェンスを鍛える前提でザック・ラヴィーンやブランドン・イングラム獲得もありではないでしょうか。
いずれにしろウォリアーズはデッドラインまで買い手になります。その間、シュルーダーの活かし方、クミンガの活かし方、それらが勝利にどうつながるか、何が失敗するのかなど、ウォリアーズから目が離せません。
そのシュルーダーは月曜にフィジカルを受けて、火曜に練習に参加し、早ければ木曜のグリズリーズ戦に出場するようです(*米時間)。カーはシュルーダーがスタートすることも示唆しています。
また、シュルーダーはすでにネッツでグリズリーズと3回対戦していて、前回の対戦ではグリズリーズのヘッドコーチであるタイラー・ジェンキンスと揉め事を起こしていました。
大差で負けていたネッツのヘッドコーチのジョーディ・フェルナンデスがジャ・モラントのネッツベンチへの挑発に怒った事がきっかけでした。フェルナンデスとジェンキンスが話をして場が収まりかけたところにシュルーダーがやってきて、ジェンキンスに向かってトラッシュトークをはじめてしまい、その場が更に荒れてしまいました。
シュルーダー:「オレたちはお前らのassを2回もぶち壊している、そんなシットをするのはファックやめておけ」
ジェンキンス(審判に):「お前はあいつがオレにあんなようにファッキン話すのを許すのか?」
シュルーダー(ジェンキンスに指をさして):「オレはお前にそんな感じで話すんだよ」
ジェンキンス:「ファッキン・ホースシットだ(ふざけんな)」「クソったれめ!」「ファックユー、マザーファッカー!」
シュルーダー:「ヘイ、テイラー!……(更にトラッシュトーク。何を言ったのか不明)」
ウォリアーズはあと3回グリズリーズと対戦します(トレード・デッドライン前まで2回)。特に次の試合はいろいろな意味で見逃せません。