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なぜトンプソンは自ら築き上げたダイナスティーを後にしたのか

まさかクレイ・トンプソンが自ら移籍を望むとは思っていませんでした。

シーズンが終わってからウォリアーズとクレイ・トンプソンの交渉がうまく進んでいないというレポートは出ていましたが、心のどこかで勝手にウォリアーズとトンプソンは両者が納得できるような落とし所を見つけると勘ぐってしまっていました。

というのも、タックスを回避したがってたウォリアーズがトンプソンに払えるサラリーはトンプソンの希望金額には届かない$18Mくらいでしたが、彼らはダイナスティーの立役者の主要メンバーのひとりであるトンプソンをキープするために誰かをサラリーダンプをするか、タックスを超える決断をすると思っていました。

同時に、トンプソンもフリーエージェンシーの夏に向けて「私はバナーが掲げられた前からここにいる。だからある意味、それは私たちの赤ちゃんだ…この球団の一員になれてとてもラッキーだ。他のユニフォームを着る自分を想像することができない」と言っていたので、まさか自分から優勝4回してきたチームとスプラッシュ・ブラザーズを後にするとは思っていませんでした。

トンプソンは13年ウォリアーズでプレーしてきましたが、13年という数字は今のNBAでは永遠に感じられるような期間です。それに13年前と言えば、今パリ五輪の男子バスケットボールで話題になっている南スーダンが独立し、東日本大震災やビンラディン暗殺があり、なんと円は1ドルに対して75円の時があった世界でした。彼はそれからちょっと前まで同じチームにずっと在籍していたのです。それだけ一緒にいたら、もう良いも悪いも超越して最後まで一緒にいようかな、となってもおかしくありません。むしろそれが普通だと思います。そう考えていくと、何がトンプソンを移籍へと駆り立てたのか気になってきます。

お金?

契約年数?

それともプライド?

ステフの鶴の一言はなかったのでしょうか?

今回はウォリアーズとトンプソンの交渉&トンプソンのフリーエージェンシーをESPNとThe Athleticからの記事を中心に掘り下げて行こうと思います。

ウォリアーズとトンプソンの2023-24シーズン

トンプソンの移籍決断を理解するためには、2022-23シーズン前まで何があったかを振り返る必要があります。

トンプソンはウォリアーズが優勝した2021-22シーズンには契約延長が可能でしたが、アキレス腱とのケガから回復してからのはじめてのシーズンで32試合しか出場しませんでした。そのため、ウォリアーズは彼との契約延長を見送り、オフシーズンにジョーダン・プール(4年$128M)とアンドリュー・ウィギンス(4年$109M)と契約延長をします。ESPNのラモナ・シェルバーンによると、これにはトンプソンと同じように契約延長ができたグリーンも不満を抱いていたようです。

2022-23シーズンにトンプソンは完全復帰を果たしますが、平均33分の出場で平均得点21.9点を記録したものの、PERは平均以下、BPMもマイナスとあまり良いプレーをする事はできていないようでした。そのためかどうかはわかりませんが、ウォリアーズはそのオフシーズンにトンプソンではなくグリーンと4年$100Mの再契約をすることにしました。この時はグリーンはフリーエージェントだったので、契約のタイミングについては仕方ありませんでした。

ウォリアーズがトンプソンに契約延長オファーしたのは2023-24シーズン前だったそうで、内容は2年$48Mの契約延長というものでした。この2年という期間はステフ・カリーの残りの契約に合わせたものだと思われます。もちろん、トンプソンはこれに納得せずにこれを拒否しています。

シェルバーンはこのオファーについて、「トンプソンは、チームがタイトルを獲得した翌夏に契約延長をオファーしなかったことに不満を抱いていた。その感情は翌年さらに深まり、ウォリアーズが$23M~$24Mの2年契約しかオファーしなかったことに失望した」とレポートしています。The Athleticなどのレポートでは、トンプソンはグリーンとの契約の差に不満があったと示唆しています。

グリーンがこのような金額の契約を得たのは、彼がフリーエージェントとしてグリズリーズと契約するというレバレッジを使って交渉したのもありますが、シーズン後半には4年$100Mに相応しいプレーをしていたように見えます。ただ、チームメイトだったプールを殴ってチームのケミストリーをボロボロにしてチームの連覇を台無しにした(これは本人もヘッドコーチのスティーヴ・カーも認めています)にしては寛大過ぎた契約なのかもしれません。それを考えると、1試合平均22点、スリーは41%を記録したトンプソンには最低でも3年$70M~$75Mの契約延長オファーがあっても良かったようにも思えます。

もちろん、ウォリアーズもサラリー($188.4M)+タックス($163.7M)で合計$350M超えとリーグ史上最高にまで膨れあがっていたため、チームづくりに注意していく必要がありました。特に今はセカンドエプロンに入ると競争力がかなり削られる上に、そこからの脱却がなかなかむずかしくなるような制度になっているため、かつては名を馳せたスプラッシュ・ブラザーズといえど、望むような金額が得られるような環境ではなかったのかもしれません。

そして、トンプソンはウォリアーズと契約延長合意ができないまま、2023-24シーズンを迎えます。

トンプソンはチームに自分を証明しようとして力が入り過ぎたのか、ケガの前の自分に戻ろうと焦っていたのか、シーズン前半はショットセレクションも悪化し、11月には得意のスリーの成功率も35%台まで落ちてしまい、やる気が空回りしていたように見えます。そこで結果を出して大きな契約を引き出さなくてはならない状況におかれたトンプソンにとってはシュートを撃ち続けることは仕方なかったことなのかもしれません。

トンプソンはそのまま調子を取り戻せず、12月のサンズ戦(ドレイモンドがナーキッチを裏拳で殴った試合)でキャリアはじめてクロージング・ラインアップから外れてしまいました。その時、トンプソンはコーチングスタッフに怒鳴ったり、ベンチのイスを蹴って、それをなだめようとするカリーを無視するほど怒っていました。

そして、2月の中旬でのクリッパーズ戦では、昨シーズンのトンプソンを象徴していたかのようなプレーがありました。

残り1分を切って6点ビハインドのウォリアーズはスリーを必要としたため、ベンチに下げていたトンプソンを投入しました。しかし、トンプソンはすでに集中が切れていたのか、ベンチで冷え切ってしまっていたのか、残り40秒で3点差につめよったノーファウルの状況で、何を勘違いしたのかファウルをしに行ってしまいます。それに気づいたカーがサイドラインからクレイに向かってファウルするなと叫んでいますが、聞こえていなかったようです。

このコーチやチームメイトたちのボディーランゲージがトンプソンのチームでの状態を良く表していたのではないでしょうか。

その翌朝、カーがトンプソンをオフィスに呼んでベンチ行きを伝えたそうです。それまでケガをしていなかった時をのぞいては727試合連続でスタートしていたトンプソンは、その場でカーとスタッフに激しく当たったそうです。

いつからかはわかりませんが、プレーの影響からなのか、トンプソンの扱いが難しくなっていたようで、シェルバーンは、「ロッカールームで彼に忠実な人たちでさえ彼に苛立っていた」とレポートしてました。確かベイエリアのローカル紙(モンテ・プールかジェイソン・デュマース)も同じように、トンプソンのロッカールームでの態度が「不快で、伝染的」だったと取り上げていました。

実はカーは不調のトンプソンとシーズン通して何回か話をしていたようで、カーは彼に、「ケガ前の自分を取り戻すことを追い求めるのではなく、残りの年を楽しむべきで、ネガティブなエナジーを認めてメンターになってくれ」的なことを伝えていたそうです。かつてカーはトンプソンの事を「もっとも面倒がかからないスーパースターだ」と言っていたので、カーがそこまで言うとなると、本当にトンプソンのプレーがコート上だけではなくロッカールームにまで影響を及ぼしていた事が伺えます。

シェルバーンはそのようなトンプソンの状態について、「トンプソンに近しい人は、彼は『惨め』だったと言った。新しい契約交渉がうまくいかなかったことに対する惨めさ、ステフィン・カリーやドレイモンド・グリーンと同じように尊重されていないと感じたことに対する惨めさ、そしてチーム内での役割の低下に対する惨めさがあった。さらに、彼のゲームとプレーが衰えたことにも惨めに感じていた。ひどい足の怪我からリハビリを行った2年間は、彼にバスケットボールの死を突きつけた。バスケットボールなしの人生とは何か。自分のアイデンティティとは何か。彼はボートを買った。それはそれらを乗り越えるためではなく、それらから気を紛らわすものだった。彼は何冊もの本を読み、モチベーションの第一人者であるトニー・ロビンスのセッションを受け、そして呼吸を数分止めるためにスピアフィッシングなどに挑戦した」とレポートしていました。

ドレイモンド・グリーンも昨シーズンのクレイ・トンプソンのメンタル的にどうだったかについて、「私はバスケットボールが彼にJoyをもたらすことを知っている。でも昨年それは彼に悲しみとアンハッピネスをもたらした」とトレード後に明かしていました。

結局、トンプソンは再びスターターに戻ったものの、チームは調子を上げることができず、ウォリアーズはシーズンをウェスタン・カンファレンスの10位で終え、プレーオフ進出を懸けてキングスとのプレーインに臨むことにになりました。トンプソンはそのプレーオフとシーズンが懸かった試合で32分出場し、10本シュートを撃って全て外し、得点は0。

その試合を去る時、トンプソンはコートに最後まで残り、その様子はまるでウォリアーズでの最後の試合を終えたかのように見えると言われていました。実際にそれは本当になってしまいました。

このような事から、トンプソンは昨シーズン通して不調や役割の変化に苦しんでいたことがわかります。

そして、カーがシーズン終了後のイグジット・インタビューで、「クレイはシーズン後半で本当に本当に快く同意する事を見せてくれたと思う…それはこの先選択肢に入らなければいけないと思う。私は彼を35分もプレーさせたくない…私たちは彼をもっと少なくプレーさせることができなければいけない。しかし、そうするためにはロスターにもっと多くのシューティングを加えなければいけない。私たちはシューティングを加えて、クレイの時間を制限することができる」と話し、来シーズンはトンプソンのベンチ出場とプレー時間減少の可能性があると示唆していました。

ウォリアーズにはトンプソンの代わりにスターターになったブランドン・ポジェムスキーやモーゼス・ムーディーをプレーさせなければいけないので、試合への貢献度と効率が下がったトンプソンの時間が減っていくのは仕方がないことだったと思います。そして、それはトンプソンの契約金が減って行くことを意味します。

それにオーナーもプレーオフにも出れない10位のチームにこれまでのような莫大なタックスを払う訳にはいけません。そうなると、彼らが彼に払える金額が限られてきます。この時から、トンプソンの契約延長/再契約の交渉が長引くであろう兆しが出ていました。

ウォリアーズとの契約延長交渉

来シーズンは役割もプレー時間も減って行くであろうと言われていたトンプソンの契約延長交渉はどのようなものだったのでしょうか。

ESPNのラモナ・シェルバーンによると、トンプソンのエージェントはシーズン中にウォリアーズに少なくても4つの契約案を提案しましたが、ウォリアーズはトンプソンの契約延長交渉はできないと返事をしていたとの事です。シーズン中にはすでにトンプソンへの2年$48Mの契約のオファーはもうなくなっていたようで、それはオーナーのジョー・レイコブも認めています。

「契約延長交渉はできない」というよりは、正しくは契約金がいくらになるのか「答えたくても、答えられなかった」んだと思います。

カリーにこの先優勝争いができるようなチームを与えたがっているウォリアーズにとって、オールNBAやオールスターレベルのような次ぐ2番手のスコアラーの獲得は最重要&最優先事項です。ウォリアーズは2023年のプレーオフのセカンドラウンドでレイカーズに敗れ、もはやかつてのように優勝を狙えるようなチームではなくなっていました。そのため、オーナーとフロントオフィスはロスター再編を望み、フリーエージェンシーやトレード・デッドラインではレブロン・ジェームズやミケル・ブリッジスを狙っていたそうです。このオフシーズンでもポール・ジョージやラウリ・マーカネンのトレードの噂も出ていました(マーカネンは現在進行中)。そのため、ウォリアーズは誰がチームに来るのかハッキリするまではトンプソンらのフリーエージェントにいくら払えるのかわからない状態でした。

これらの事から、ウォリアーズがこれまでダイナスティーに大きく貢献してきたトンプソンとすぐに契約しなかったのは、(1)限られた予算内でカリーに良いチームを与えるためのスコアラーを探している。(2)戦力強化した後で、彼が市場で得られるサラリーでトンプソンを連れ戻したい。と言う希望があったからだと思います。

チームにとって、かつてチームの主力として戦ってきたトンプソンとの契約延長の優先順位はこの夏も高いものではありまでんでした。

ウォリアーズとトンプソンの溝

このように、契約延長を望むトンプソンと勝てるチームづくりをしたいウォリアーズの間にはすれ違いが生じていました。

シェルバーンは「ウォリアーズはトンプソンに残ってほしかったが、それは彼がこの約10年間保持していたスターターの役割でではなかった。彼が戻ってくるなら、アンドレ・イグォダラのような賢明なベテランとしてだが、リーディングマンとしてではない。このことはトンプソンに伝えられたが、彼がその考えによろこんでいなかったとしても、それは契約交渉を決裂させるようなものでもなかった」とレポートしていて、トンプソン的には役割よりも契約内容の方が問題だった事を示唆しています。

ただ、The Athleticのアンソニー・スレイターによると、ウォリアーズはシーズンが終わった後もトンプソンとコミュニケーションを取らなかったそうで、球団のレジェンドが希望する金額を払えるかどうかわかっていないウォリアーズの対応の仕方も問題だった可能性があります。

これはウォリアーズが良くやる交渉術で、これまでの働きを評価して気前よく払う事はせずに、直前まで交渉を粘りがちです。これはコーチのスティーヴ・カーの契約延長、プレジデントのボブ・マイヤーズの再契約、フリーエージェントだったアンドレ・イグォダラ(2017年)やグリーン(2023年)にもやっていた事ですが、最終的にはそれなりの額をオファーしています。ただ、ロール・プレーヤーに対してはシビアで、ケヴォン・ルーニーなどは優勝に大きく貢献していても市場価値で契約していました。スレイターによると、ウォリアーズは「正しい役割」と「正しい価格」でトンプソンを連れ戻したいという姿勢をとり続けていたそうなので、トンプソンがルーニーのカテゴリーに入っていた、もしくは入りかけていたのかもしれません。

こうした交渉はビジネスマン的要素が強いイギーやグリーンは得意としていて、他チームからの興味やオファーをレバレッジにして強気な交渉をしていましたが、どうやらトンプソンは逆だったようです。彼はマジックやシクサーズなどのキャップスペースがあってプレーオフに進出できそうなチームからの興味をレバレッジにして交渉を粘るよりも、駆け引きなしの正攻法で交渉していたようです。ここにはマイペースのトンプソンらしさが出ていると思います。

逆に言えば、トンプソンにとって大切なのは「誠意」だったとも言えます。

また、スレイターは、トンプソンは交渉中に「自分が優先されておらず、希望金額は払えない事がわかると、新しい環境とハッピーを求めた。トンプソンは彼らの優先事項ではなかったということだ」とレポートしていましたし、シェルバーンも「ウォリアーズが彼と再契約するという興味は誠実ではないと感じていた。彼は球団の計画に確しかな愛を感じることができなかったそうだ」とレポートしていて、ウォリアーズとの契約はビジネスというよりもパーソナルなものだった側面が強かったようです。

このように、この交渉では、まず先に他のビジネスを片付けてからトンプソンと向き合おうとしたウォリアーズと、もっとリスペクトと誠意を持ってグリーンのような契約を出して欲しかったトンプソンとの間に溝が感じられます。これがボブ・マイヤーズだったら、もっとうまくやっていたのでしょうか。

そんなトンプソンの不満を知ったのか、レイコブがフリーエージェンシーの6週間前に、トンプソンをロスの有名な名門ゴルフコースであるリビエラ・カントリークラブに招待しました。この時、レイコブはただトンプソンにリスペクトを示したかっただけのようで、そこでは契約やチームについての話にはならなかったそうです。ちなみに、この時はまだファイナルズは終わっていないため、自分のフリーエージェントとはまだ交渉ははじめられませんが、トンプソンのような契約が切れる選手の契約延長の交渉は6/30まで可能でした。

そして、そのまま進展がないまま1ヶ月が過ぎます。トンプソン陣営はフリーエージェンシーまで2週間になったタイミングで、ウォリアーズに最後のオファーをしました。それは2年$40Mの契約だったそうです。

トンプソンの決断

この時点でウォリアーズがトンプソンが希望したようなサラリーの捻出は難しかったように思います。前述したように、タックスを避けつつ戦力を現状維持(トンプソンとの再契約+ミニマム選手)する事を選択したとしても、トンプソンに出せるサラリーはベストケースで$18Mです。

ウォリアーズの答えはこれまでと同じように、先に他の動きが解決するまで「待ってくれ」だったそうです。

スレイターによると、トンプソンはフリーエージェンシー1週間前になった時に、ウォリアーズは自分と再契約をするつもりはないと確信したそうです。そのためか、トンプソンは6/25にインスタでウォリアーズのフォローを解除して、2022年に優勝した時のウォリアーズコンテンツを削除していました。これはウォリアーズとの交渉の一環だと思われていましたが、実はトンプソンは本気でウォリアーズとは終わったと考えていたようです。

そしてフリーエージェンシーが始まる1日前、トンプソンはロスでカーと会って、事情をすべて話したそうです。そして、トンプソンはカリーとグリーンに電話をかけて、新しいスタートを切りたいと伝え、カリーとグリーンの影響力を使わないように頼んだそうです。

The Athleticのサム・エイミックによると、この時のスプラッシュ・ブラザーズのふたりの電話は15分ほどだったそうで、カリーはその時のトンプソンとの会話について次のように話しています。

「その会話をするとは決して思いもしなかった。直前まですべての兆候が契約の解決策を見つけられない方向に進んでいた事を示していたのはわかっていたが、彼が『契約をした』と言ってくるだろうと考えていた」

「そんな希望を抱いていた。でも、それはつらい電話だった。彼が決断の理由を明かしてくれた事や、私たちの友情とチームメイトであった事、それに私たちがチャンピオンだった事をどれほど感謝していたかを聞いた。それを正しく表現する言葉はない。彼にとって大変だったのはわかっていた。電話ではすすり泣ききたくないから、できるだけ冷静さを保つようした。涙はちょっとだけあった」と明かしていました。

それからトンプソンはレイコブとGMのマイク・ダンレヴィーに電話をかけて、自分が行きたいチームにサイン&トレードで行けるように手伝ってほしいと頼んだそうです。

関係者全員がトンプソンのことを理解して、彼の成功を祈ったそうです。

最終的には円満な別れになりました。

そして、トンプソンは新天地にダラス・マーヴェリックスを選びます。

トンプソンのフリーエージェンシー

フリーエージェンシーの1ヶ月前には、シャムズマーク・スタインがキャップスペースがあるマジックがトンプソンに興味を持っているとレポートしていましたが、フリーエージェンシー直前になると、レイカーズ、クリッパーズ、マーヴェリックスの名前が出てくるようになりました。Yahooのジェイク・フィッシャーESPNのWojはそれらのチームにシクサーズを入れていましたが、それは彼らがポール・ジョージ獲得に失敗したり、トンプソンと安く契約できた場合のことだったと思います。

最終的にトンプソンがフリーエージェンシー・ミーティングの予定を組んだのはレイカーズとマーヴェリックスでした。

レイカーズはかなりトンプソンを欲しがっていたようで、オプトアウトしてフリーエージェントになったレブロン・ジェームズがトンプソンを獲得できるならマックスからの減給を受け入れるというレポートが出てきました。それがどれくらいの減給になるのか計算してみると、仮にトンプソンのサラリーを噂されていた$20Mにして、レイカーズのキャップの上限をファーストエプロンぎりぎりに設定した場合、ジェームズのサラリーはマックスの$49.2Mではなく$38.4Mになります。

シェルバーンによると、ジェームズは実際にトンプソンと一緒にプレーするという考えについてトンプソンと「何回かディープな会話」をしていたようで、自分のサラリーを$10Mも犠牲にするのも問題なさそうでした。また、トンプソンは新しくレイカーズのヘッドコーチに就任したJJ・レディックとも「ポジティブな会話」をしていたそうです。

それにトンプソンはレイカーズと縁があります。父のマイカルはレイカーズの一員としてNBA優勝をしていて、現在レイカーズのラジオ解説をしています。それにトンプソンはコービー・ブライアントの大ファンでもあり、子供の頃の夢はコービーと同じレイカーズのユニフォームを着るのが夢だったそうです。その上、ロスにはトンプソンの家もあり、愛する海もあり、ボートも乗れます。ライフスタイルはどの街よりも合っていそうです。

しかもレイカーズはマーヴェリックスよりも大きな契約の4年$80Mをオファーしていたそうです。ひょっとしたら、4年目は部分的保証だったのかもしれませんが、それでもマーヴェリックスよりは高い金額です。

なんとなくトンプソンにはレイカーズが合っているように見えますが、トンプソンの第一希望はレイカーズではなくマーヴェリックスでした。

マヴスで早くからトンプソンをリクルートしていたのは元ジェームズのチームメイトだったカイリー・アーヴィンだったそうです。キャヴス時代にトンプソンを相手に何度も優勝を争ったチームメイトであるジェームズとアーヴィンが今違うチームで彼をリクルートしているのは不思議な感じがします(ちなみにトンプソンとアーヴィンは共に中国のシューカンパニーのANTAと契約をしています)。

シェルバーンによると、トンプソンは今年のプレーオフでマーヴェリックスの試合を観るのが好きだったそうで、自分がルカ・ドンチッチとカイリー・アーヴィンの隣で理想的なフィットになるだろうと信じていたとの事です。

彼は他にもサンダーに興味を持ったそうですが、サンダーは最終的にシューティングよりも最重要課題であったサイズの補強を優先し、キャップスペースをビッグマンのアイゼィア・ハーテンスタイン獲得に使いました。

マーヴェリックスとのミーティング

トンプソンとマーヴェリックスとのミーティングは、6/30の夜にトンプソンの家があるハモサ・ビーチのイタリアン・レストランの「Bottle Inn Italian」で海を見ながら行われました。

トンプソン側からは、エージェントのグレッグ・ローレンスが出席し、マーヴェリックス側からはプレジデントのニコ・ハリソンとVPのマイケル・フィンリー、そしてジェイソン・キッドもファミリーバケーションの予定を変更して参加したそうです。カイリー・アーヴィンも参加したとのレポートもありました。

トンプソンはすでにマーヴェリックスを研究していて、ミーティングには自分がルカとアーヴィンにどうフィットするか考えて望んだそうです。

マーヴェリックスは、今年NBAファイナルズに進出しましたが、さらなる飛躍のためにはベテランのリーダーシップが必要だと感じていたようで、彼らはトンプソンの能力と経験をリーズナブルな価格で獲得できることに喜んだそうです。

こうしてトンプソンは希望通りにマーヴェリックスに行く事になりました。

その契約内容は次のようになります。

2024-25:$15.8M
2025-26:$16.6M
2026-27:$17.4M
3年で合計$50M。15%のトレードボーナスつきで完全保証です。

トンプソンとマーヴェリックスのサイン&トレード

プラッシュ・ブラザーズとしてダイナスティーを築き上げたトンプソンのトレードにふさわしく、その規模はNBA史上最多の6チーム・トレードまで膨れ上がりました。

マーヴェリックス獲得:
クレイ・トンプソン(ウォリアーズから)
・2025年2巡目指名権(どこからか不明)

ウォリアーズ獲得:
・バディー・ヒールド(シクサーズから)
・カイル・アンダーソン(ウルブスから)

ホーネッツ獲得:
・ジョッシュ・グリーン(マヴスから)
・レジー・ジャクソン(ナゲッツから)
・2029年2巡目指名権(ナゲッツから)
・2030年2巡目指名権(ナゲッツから)

ウルブス獲得:
・2025年2巡目指名権(ナゲッツから、ナゲッツ/シクサーズの悪い方)
・2031年2巡目指名権スワップ(ウォリアーズから)
・キャッシュ$1.1M(ウォリアーズから)

シクサーズ獲得:
・2031年2巡目指名権(マヴスから)

ナゲッツ獲得:
・キャッシュ(ホーネッツから)

トンプソンがマーヴェリックスに行ったのは、トンプソンの意向だけではなく、ウォリアーズがレイカーズよりもマーヴェリックスとのトレードの方がやりやすかったというのもあると思います。

B/Rのクリス・ヘインズによると、レイカーズはトンプソンのサイン&トレードでディアンジェロ・ラッセルをウォリアーズに送ろうとしましたが、ウォリアーズがラッセルを断ったそうです。そのため、トンプソンがレイカーズに行くには、レイカーズがラッセルを引き受けてくれて、且つウォリアーズが納得するリターンを送れる3つ目のチームを見つける必要がありました。

ウォリアーズがラッセルを拒否した理由にはロスター構成もあると思いますが、何よりもポールとトンプソンを失えばタックスを回避できるため、ラッセルの$18Mを吸収したくなかったと思われます。

それとはうって変わってマーヴェリックスとのサイン&トレードはすごくシンプルで、マーヴェリックスはティム・ハーダウェイをピストンズにトレードした時につくった$16.1Mのトレード・エクセプションでトンプソンの$15.8Mを吸収できました。また、ウォリアーズもこのサイン&トレードで$15.8Mのトレード・エクセプションを生み出す事ができました。実にシンプルで美しいトレードです。

後にウォリアーズはこのTEをカイル・アンダーソンのサイン&トレードに使っています。また、ウォリアーズはトンプソンのサイン&トレードで得たマーヴェリックスの2031年の2巡目指名権を、バディー・ヒールド獲得のためにシクサーズとのサイン&トレードに使っていて、ウォリアーズにとっても良いトレードになったと思います。

トンプソンがマーヴェリックスから得た3年$50Mの契約は、レイカーズが彼にオファーした4年$80Mの契約よりもかなり低いものになっています。州税を鑑みても手取りはレイカーズの方が多くなります。また、ウォリアーズもジョージのトレードもなくなり、トンプソンのために$18Mは捻出可能でした。

と言うことは、トンプソンがフリーエージェンシーで大切にしていたのは、お金や慣れた生活ではなかったと言う事です。

シェルバーンも「レイカーズでプレーするということは、ウォリアーズでプレーするのとあまりにも似ているように感じた。彼に近いソースのひとりは、『これはひとつの金魚鉢から別の金魚鉢に変えることになるだけなのでは?』と言った。トンプソンがウォリアーズとの時間が終わった事を受け入れてからの2週間、彼が話していたのは『新しい経験』と『新しいスタート』が欲しいということだけだった。マーヴェリックスがそれを手に入れるためのより良い場所に見えたのだ」とレポートしているように、トンプソンにとってお金よりも自分のハッピネスと新しい環境での新たなスタートの方が大事だったことが伺えます。

また、シャムズがトンプソンはマヴスからスターターとプレー時間を保証されているとレポートしました。

それに、マヴスはサンダーやウルブスらと共にウェストの優勝候補の一角に入るでしょう。トンプソンにとっても5度目の優勝を目指せるような環境も大事だったのかもしれません。

こうして見てみると、サイン&トレードのやり繰り、そして契約内容やマヴスから感じるリスペクト、新たな役割や環境など、さまざまな面でマーヴェリックスはトンプソンが希望していたものを持っていました。トンプソンにとってはベストな選択だったのではないでしょうか。

来シーズンのトンプソンの新しいチームへのフィットや、ルカやカイリーとのプレーがどうなるのか今から楽しみです。


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