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ホークスに何が起きているのか

今回は、バスケットボール・オペレーション(以下BO)のプレジデントのトラヴィス・シュレンクが辞任したり、ヘッドコーチのネイト・マクミランが辞任を検討したとなどとレポートされたホークスについてのまとめになります。フロントがバタついている印象ですが、ホークスはこれからどうなっていくのでしょうか。

まずは、チームのエースであるトレ・ヤングとヘッドコーチのネイト・マクミランの不仲問題からです。

The Athleticのシャムズとサム・エイミックによると、昨年の12月5日、ヤングがシュートアラウンドに参加せずに肩の治療をしていた時に、マクミランからシュートアラウンドに参加して治療はウォークスルー中に受けろと指示されました。その時にヤングがシュートアラウンドはせずに治療に専念してプレーできるかどうか決めたいとハッキリと言い返したため、マクミランはヤングに二択を迫りました:ベンチ出場する or アリーナに来るな。この時ヤングとマクミランの間で口論になったそうです。

結局ヤングは試合には現れず、ベンチでチームメイトを応援する事もありませんでした。

チームのエースであるにも関わらず、試合には顔も出さずにチームメイトをサポートしなかった事で、ヤングのリーダーシップに疑問符がつきました。同時にマクミランのコーチングスタイル(特に選手とのコミュニケーション)もオールドスクールと言われている&選手が必要だと思っている治療を受けさせるべきだという声もあり、どっちもどっちの騒動だったと思います。

その件について、ヤングとローカル記者の間のおもしろいやりとりがあったので紹介します。

ヤング:「つまり、それはただそういった状況だっただけだ。つまり、私たちは皆ここでは大人で、いつも同じことに同意するとは限らない場合がある。プライベートな状況やプライベートな会話が世に出てしまうのは残念だが、それが今私たちが生きている世界なんだと思う。私はただバスケットボールにフォーカスし、チームの勝利に貢献することにフォーカスしる。そして、それが私がフォーカスしなければならないことだ」

レポーター:「でもあなたが(試合に)いなかったのは世に出ている。なぜあなたは試合にいなかったのか?」

ヤング:「言ったように、それはプライベートな問題で、それが世に出されてしまった。それは残念だ。そして、それがプライベートのままだったら、おそらくそれほど大きな問題にはならなかっただろう。でも言ったように、それは私の仕事にとって不幸なことであり、私の目標はチャンピオンシップに勝つことだ。そして、それが私がフォーカスしていることだ」

レポーター:「でもそれは見方次第だ。あなたはチームのリーダーで彼らをサポートしなかった」

ヤング:「あなたのように内情を知らない人はプライベートの問題や状況を理解していないので、プライベートに入ってくるべきではない。みんながそれを理解しないといけないのは不幸な状況だが、少しだけ外に漏れてしまった。内部では私たちは問題ない。もしあなたがもっと知りたいなら、球団の他の誰かに聞くしかない。私が言えるのはそれだけだ」

それでも更に食い下がるレポーター。ここまでしつこく質問するのは珍しいです。

レポーター:「あなたの言っているロッカールームのプライベートやコート上での慣習はリスペクトするが、あなたが健康なのに試合に行かないでベンチからチームをサポートしなかったことは世に出ている。なぜズレが出ているのか?」

ヤング:「私は出場できないと言われた」

レポーター:「でもジョン(コリンズ)はブーツ(ギブス)をつけていたのに、試合には来ていた」

ヤング:「あなたは話の全体像を知らない。プライベートの問題はプライベートで収める」

ヤングも不機嫌になりながらもなんとかうまく対応しようとしていました。ホークスのPRにとっては悪夢のような出来事だったでしょう。

そしてマクミランはこの件に関して会見で「私がトレに試合に来るなと伝えて事に関してはひとつ反論したい。私は選手に試合に来るなとは、絶対に、絶対に言わない。あれは単なるウソだ」と言っています。

ここまで来ると、重要なのはレポートの内容ではなく、誰がどんな理由でそれをリークしたかになってきます。どうやら球団内部は穏やかではないようです。

ヤングとマクミランの確執はこれだけではなかったようです。heavy.のスティーヴ・ブルペットによると、「マクミランがタイムアウトを取るサインを出したが、ヤングはロングスリーを撃った」り、「マクミランがプレーコールをした時にベンチに向けて辛辣な言葉を放った」そうです。チームに近いソースはその主張を「まったくのブルシット」だと言い張ったとの事。

また、ヤングとマクミランの関係を次のように言っているNBA関係者もいるそうです。

あるリーグ・エグゼクティブ:「今はとても有害な状況だ。それももう1ヶ月にもなる。今後もっと悪くなるように見える」

他のNBAの関係者:「ふたりの間には大きな問題があるのは知っている。彼(ヤング)の父も関係している。彼はネイトを首にしようとしている」

他チームのコーチ:「彼はコーチが好きではない。コーチも彼を好きではない。他の選手もトレに問題があると思っている」

ヤングには前のヘッドコーチのロイド・ピアースとも不仲になり、結果ピアースが首になったという経緯があります。今回も同じ様相を呈してきました。

はたしてチームのスター選手とうまくいっていないマクミランはフロントのバックアップを得て契約を全うする事ができるのでしょうか。

そんな中、ホークスのバスケットボール・オペレーション(以下BO)のプレジデントのトラヴィス・シュレンクの辞任が発表されました。今後シュエレンクはオーナーのトニー・レスラーの顧問になるとの事です。シーズンはまだ折り返しもしておらず、2年前はシーズン後半に巻き返してプレーオフのカンファレンス・ファイナルズにまで行った実績もあるので、このタイミングでの辞任は驚きです。

辞任の理由は「退任する事、振り返り、そして家族を優先する事が正しいタイミングのように感じた」からだそうです。ロケッツのGMを辞任した時のダリル・モリーの時のように「家族」を理由にしてくると、何か裏があるとしか思えません。しかもシーズンがどうなるかまだわかりません。2年前の時のようにオールスター後の快進撃の可能性もあります。それでも辞任したのは、本当に辞めたかったか事実上の解雇かのどちらかでしょう。シュレンクの契約はまだ数年残っているので、そのために首にはせずに顧問にしたのではないかとも言われています。

この注目ポイントはシュレンクの後任人事です。

プレジデントの仕事は、現GMのランドリー・フィールズ(34)が引き継ぐ事が決まりました。実際には、去年の夏にホークスがフィールズをGMに昇進させてから、シュレンクは日々のチーム運営から引き下がっていたそうです。ただシュレンクにまだ決裁権があったため、フィールズはシュレンクに報告を入れていましたが、今回の人事でフィールズがBOのトップになりました。

フィールズはNBAでプレーし、2015-16シーズンはラプターズに所属していましたが、腰の筋肉の手術でシーズン全休になり、そのまま現役を終えます。その後、彼は2016年の9月にスパーズの西海岸の大学スカウトに任命され、スカウトとしてNBAフロントに入りました。2019年にスパーズは彼をGリーグのオースティン・スパーズのGMに昇進させます。2020年の10月にホークスのアシスタントGMになり、2022年の6月にホークスのGMに任命されました。異例のスピード出世です。なぜフィールズはこんなにも早く実権を握る事ができたのでようか。

それはホークスのオーナーのトニー・レスラーの息子のニック・レスラー(27)との仲が良いためだと言われています。ニック・レスラーはチームのビジネス&BOのディレクターで、スパーズのスカウトだったフィールズとスカウト中にたまたま会って意気投合したそうです。ニックが中心にとなってシュレンクを押しやり、友人のフィールズを引っ張り上げたのはと言っても間違いなさそうです。

(2017年 オーナーのトニー・レスラーと息子のニック・レスラー Photo by Kevin C. Cox/Getty Images)

フォックス・スポーツのリック・ビューカーは、シュレンクはヤングとニック・レスラーと関係が気まずかったために辞任に追い込まれたとレポートしています。シュレンクは何らかしらの問題で、オーナーの息子と対立してしまったのかもしれません。そしてオーナーの息子は友人のフィールズを立ててシュレンクを追い払った… ちょっとゲーム・オブ・スローンズの見過ぎかもしれませんが、フィールズの出世の速さ&他の候補のインタビューをしそうにないところを見ると、そうだったとしか考えられません。

また、ビューカーによると、デジョンテ・マリーのトレードは、首をつなぎたいシュレンク主導ではなく、ニック・レスラーとフィールズによって組まれたものだそうです。

そしてビューカーは、ヤングとニック・レスラーとフィールズの3人は仲が良く、この3人はヤングを中心にチームつくって行こうとしているともレポートしています。もしこれが本当であれば、ヤングと確執のあるマクミランの解雇は時間の問題だと思われます。

また、ホークスの人事変更はシュレンクだけで終わらずに、スカウティング・ディレクターのスティーヴン・ギルス、シニア・アドバイザーのロッド・ヒギンス、プレーヤー・パーソネルVPのデレック・ピアースが解雇になりました。そして、フィールズの大学時代のルームメイトで去年雇われたスカウトのグラント・リフマンが昇進を受けています。

シーズン中にニック・レスラー&フィールズ体制が敷かれた事になります。

そして、The Athleticのシャムズが、マクミランがシーズン中の辞任を強く検討しているとレポートしました。

シャムズ:「ホークスのヘッドコーチにネイト・マクミランがシーズン中の辞任を強く検討しているそうだ。トレ・ヤングと言い合いになった後、NBA中で彼の状況は疑問的だと思われている。ホークスはシーズンをマクミランで終えたがっている。辞任しなければシーズン後に首になるように見える。ホークスはイーストのエリートチームになるつもりでシーズンを迎えたが、現在9位だ」

シャムズのレポートなので、これがいい加減なものだとは思いませんが、辞任を強く検討するというレポートははじめてです(笑)。言いたい事は「シーズン後に首になるだろう」という事でしょうか?

ひょっとしたらマクミランはフロントオフィスのパワーバランスのシフトを理解して、辞任を誰かにほのめかしたのかもしれません。

または、ヤングとシャムズのエージェントのクラッチが裏で糸を引いて、今からマクミラン辞任や解雇のナレティブをつくっている(クラッチはデジョンテのエージェントでもある)とも考えられます。 何しろヤングの父も関わってきているくらいです。クラッチがクライアントの思いを形にしようとメディアを使ってきても不思議ではありません。

ホークスにとっても、マクミラン解雇よりも辞任を望んでいるはずです。マクミランの契約は来年も残っており(+1でチームオプションが2024-25シーズンだと予想)、辞任してもらえれば残りのサラリーを払わずに済むからです。

ホークスとマクミランはこのレポートに対して反論していますが、否定はしていないというところもポイントです。

マクミランも辞任して億単位のサラリーを手放すことはないでしょう。少なくても$2M/年はもらっているはずです。そのため、マクミランが辞任するとは考えづらいと言う意見も出てきています。

いずれにしても、マクミランが生き残るためには、プレーオフに進出し、カンファレンス・ファイナルズやファイナルズへ行く事しかないように見えます。

そんな新生フロント・オフィスが率いるチーム状況は(1/6時点):

現在18勝20敗で、538のelo予想だと38勝44敗でイースト10位タイでプレーオフ進出確率は30%になっています。

この10試合は:

  • オフェンシブ・レイティングが116.6でリーグ8位

  • ディフェンシブ・レイティングが115.9でリーグ21位

  • ネット・レイティングが0.7でリーグ14位

昨シーズンはディフェンスが26位でしたが、改善してマレー効果が出ていると思われます。

ただ、去年2位だったオフェンスが下がっています。特にスリーが問題で、スリーの100ポゼッション毎のアテンプトが30.1で28位(去年18位)、3pt%が33.3%で27位(去年2位)になっています。

スリーをハイボリュームで撃っていて42.1%のケヴィン・ハーターがいればと思いますが、マレーをトレードしたホークスは$7Mくらいタックスを超えていたため、タックス回避のためにハーターをトレードしてしまいました。

ハーターのトレード:ケヴィン・ハーター($14.5M) ⇄ ジャスティン・ホリデー($6.29M)、モー・ハークレス(4.56M)、2024年の1巡目指名権(ロッタリープロテクション→2025年にトップ12プロテクション→2026年にトップ10プロテクションに)

しかもFAでは、ミッドレベル・エクセプションもBAEも使っていません。ミニマムでアーロン・ホリデーとフランク・カミンスキーと契約している事からも、タックス回避が絶対だった事が伺えます。タックスを避けるためにロスターを犠牲にして結果弱くなってしまいました。おそらくハーターがいなくてもヤングのオフェンスで持ちこたえてくれるという読みがあったと思われます。ヤングのスリーが38.2%から30.9%に落ちた事も想定外だったのではないでしょうか。

そしてサラリーキャップは、現在14人でタックスまであと$1.28Mです。

また、1巡目指名権もマレーのトレードでふたつスパーズに出してしまっています。限られたサラリーキャップとアセットの中、トレードやバイアウトでの戦力強化に制限が出てきます。例えば、ずっと噂されているジョン・コリンズの$23.5Mで$25Mの選手(達)は受け取れません。シャムズの言うように、ホークスがコリンズの代わりとなるPFにウィザーズのカイル・クズマ($13M)やサンズのジョー・クラウダー($10.1M)に興味を持っているのも理解できます。

また、ホークスはまだ完全にタックスをかわせている訳ではありません。

  • カペラとマレーにアンライクリー・ボーナスがあり、これが全部支払われるとタックス超えです。

  • カペラのアンライクリー・ボーナス:2000分出場でカンファレンス・ファイナルズに行くと$1M、FTが65%以上なら$500K(現在は60%)

  • マレーのアンライクリー・ボーナス:オールディフェンスチーム選出で$500K、パフォーマンベースで$1M(詳細不明)

カペラは現在FTを50本中30本決めていますが、この3シーズンは60%以下(キャリア52.9%)なのでボーナス達成はないでしょう。マレーのオールディフェンスの声も聞こえてきません。今のところこれらのボーナスが支払われることはなさそうです。それよりもフロントがハラハラするのは、来年以降のキャップワークでしょう。

ホークスは来年ボグダン・ボグダノヴィッチが$18Mのオプションを行使すると、11人でサラリーが$162.6Mになり、すでにタックスを超えてしまっています。また来年はデションテ・マレーの契約延長も控えています。そのため、今年のトレードデッドラインですでに噂になっているジョン・コリンズや、FAで出ていかれてしまうかもしれないボグダノヴィッチのトレードの検討が加速していくでしょう。

個人的にはこのニック・レスラーとフィールズ体制は縁故主義のように見え、良い球団にはならないと思っています。縁故主義は「能力/実力」よりも「政治」が優先になりがちだからです。ニックスやレイカーズが良い例です。はたして彼らはホークスをイーストでセルティクスやバックスと渡り合えるような強豪チームにする事ができるのでしょうか。その前にマクミランとキャップワークが課題になり、今後積極的に動いて行く事が予想されます。このトレードデッドラインでも注目のチームのひとつになりそうです。


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