総合商社が挑むDX戦略の最前線:伊藤忠商事とBCGの合弁会社「I&Bコンサルティング」の全貌
伊藤忠商事とBCGの異例のタッグ
総合商社の伊藤忠商事が、世界的な戦略コンサルティングファームであるボストン コンサルティング グループ(BCG)と合弁会社「I&Bコンサルティング」を設立した。この異例のタッグは、デジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の最前線として業界内外から注目を集めている。伊藤忠商事がDXコンサルティング分野に踏み込む背景には、急速に進む市場環境の変化と顧客ニーズの高度化がある。
【関連図書】
1. 伊藤忠商事のデジタル企業群戦略
伊藤忠商事は、システムインテグレーター(SI)である伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)を中心に「デジタル企業群」を形成している。2023年9月、約3,900億円を投じてCTCを完全子会社化し、下流のIT機能を強化した。CTCは通信キャリアなど大手企業を中心に、10,000社を超える顧客基盤と高度な技術力を持ち、安定的な収益基盤を構築している。
さらに、コールセンター事業を展開するベルシステム24ホールディングス(40%超出資)、ITコンサルティングやデータ分析に強みを持つシグマクシス・ホールディングス(約9%出資)、ブレインパッド(約3%出資)とも資本業務提携を行っている。2022年10月には、世界最大手の広告代理店WPP傘下のAKQAと合弁会社「AKQA UKA」を設立し、顧客体験デザインのコンサルティングも手がけている。
2. 「I&Bコンサルティング」設立の目的と概要
伊藤忠商事は、DX推進の上流工程である戦略コンサルティング機能を強化するため、BCGとの合弁会社「I&Bコンサルティング」を設立。
2024年5月から本格的に業務を開始し、伊藤忠商事が過半を出資する。
社員は伊藤忠商事、BCG、CTCなどから派遣され、3~5年でコンサルタント100人、売上高100億円規模を目指す。同社の目的は、戦略策定からシステム構築、運用までを一気通貫で提供し、顧客のDXを総合的に支援することである。
3. BCGとの連携がもたらすシナジー効果
BCGは全世界50ヵ国以上に拠点を持ち、製造業、ヘルスケア、金融、エネルギーなど多様な業界で戦略コンサルティングを提供している。伊藤忠商事とは10年以上の取引関係を築いてきた。両社は1年前から共同で案件獲得に乗り出し、自動車メーカーのシステム更新や金融機関のクラウド化などのプロジェクトを進めている。BCGの高度な戦略策定力と伊藤忠商事のビジネスノウハウ、CTCの技術力を融合することで、他社にはない独自のサービスを提供できる。
4. 「I&Bコンサルティング」の特徴:テーラーメイドとアン・バンドル
「I&Bコンサルティング」は、「①テーラーメイド」と「②アン・バンドル」を特徴としている。
①テーラーメイド
パッケージ化されたソリューションではなく、顧客の課題に合わせたオーダーメイドの提案を行う。パッケージ化された教科書的なものはいっさい出さず、顧客目線にこだわったテーラーメイドを提供する。②アン・バンドル
特定のベンダーやソリューションを押し付けず、顧客が最適な選択肢を自由に選べるようにする。ここを使うと儲かるからという理由でベンダーを特定してソリューションパッケージを押し付けるようなことはしない方針。
これにより、顧客の多様なニーズに柔軟に対応し、高い満足度を実現することができる。
5. 伊藤忠商事のDXコンサルティング戦略
アクセンチュアは、M&Aを通じて上流の戦略コンサルから下流のBPOまで内製化し、一気通貫のサービスを提供している。一方、伊藤忠商事はデジタル企業群と「I&Bコンサルティング」を活用し、顧客目線に立ったサービスで差別化を図る。
伊藤忠商事は、現在400億~500億円規模のデジタル事業の純利益を、3~5年で1,000億円規模に倍増させる目標を掲げている。戦略コンサルからCTCのシステム構築などのグループビジネスに繋げる。またI&Bに出向したグループ社員が会社に戻って、吸収したノウハウを顧客提案に生かすことでグループ全体の営業力強化に繋げることを狙っている。
まとめ
伊藤忠商事は、BCGとの合弁会社「I&Bコンサルティング」を設立し、DX戦略を加速。
CTCをはじめ、デジタル企業群を形成し、戦略策定からシステム構築まで一貫したサービスを提供する体制を整備。
「テーラーメイド」と「アン・バンドル」の方針で、顧客目線のDX支援を展開し、競合他社との差別化。