RTAinJapan Winter 2022に参加して カドゥケウス解説
1章:決断 ~依頼までの経緯~
はじまりは一つのツイートだった。
RTA in Japanに「カドゥケウスNEW BLOOD」が採用された際に走者のおっさんさんが とあるツイートをした。
それを見てキノピオ隊長を走られたSLDCさんから「バーボン」(ワイズさんどうですか?)と推薦があり、最初はカドゥケウスにRTAなんてあるの!?と半信半疑な気持ちだった。
当時はRiJの前に開催されるロックマン35周年記念のRTA(Rock Man 35year Anniversary Runs)でロックマン5~8まで解説予定で余裕あるかなあ、という気持ちだった。
どちらも引き受けて、どちらも中途半端になったらそれこそ申し訳ないし、引き受けたら5作品。しかもロックマン7と8はESTが長めで、カドゥケウスに至っては2時間近くと単独の解説では最長であった。
去年の「セーラームーンR」「迦楼羅王」「魔界村駅伝リレー」を超えるレベルで、さすがにすぐには返事が出来なかった。
夏のRiJでは依頼が来なかったし、年々RiJの解説のレベルも上がって来ている。解説できる人は山ほどいるし・・・
でも参加したい!
12月のシフト表が出て、引き受けた場合のスケジュールを逆算。12月から本格的に移行すれば可能と思われた。なぜならロックマンRTAは12月17日なので以降は全部カドゥケウスに集中できるからである。
また自身の放送で「医療従事者がカドゥケウス解説ってだけでもう面白い」というコメがたくさんあった。
自分的にはそれってどうなんだ?と思いつつ客観的に考えてみることに
もしF1レーサーがレースゲームを解説したら? →面白そう
もし開発者が自分のゲームを解説したら? →面白かった
もしマッチョがリングフィットアドベンチャーを走ったら?→面白かった
結論:「もし医療従事者がカドゥケウスを解説したら → 面白くなる」
というわけでおっさんさんにDMを送る。既に決まっていたらどうしようと思いもあったが、(各ゲームには界隈的なものがあるので)思い切って送ってみた。
返事はOKだった。しかし大変なのはこれからである。
2章:解説並走会 ~解説準備~
思ったよりも仕事の方が忙しく(スタッフがコロナ陽性になるケースが多発したため)、帰ってきて台本の原稿を書く予定が、帰ってきてすぐ寝る生活が増えてしまった。
解説の台本作りの流れは基本的に以下のようになるので原稿が出来ていない時点で何も進まない状況だった。
「原稿執筆 → 動画作成 → 見てもらい意見を貰う → 修正・改善」
さらにカドゥケウスに至っては未知の領域のゲームだったため、テストプレイもしなければならない。当初はRTAが2時間くらいなので6時間もあればクリアできるかと思っていた。
しかし実際にプレイしてみると18時間かかるくらいの難易度だった。さすがはアトラスゲーと言ったところだろうか・・・
そんなこんなで準備段階で既にロックマンRTAが迫ってきている状況であり、カドゥケウスはテストプレイだけは整えておいて、ロックマンの後に集中するしかなかった。
そしておっさんさんからも「当日はこの格好で出ます」と術衣を見せてもらう。
他にカドゥケウスRTAの歴史や攻略法、出場するにあたっての思い、運営からの方針などをまとめた資料ももらった。
さらにカドゥケウスRTAはRiJレベル規模のイベントでは日本初と聞き、走者の本気度に応えるためにも自分のできる全ての事をやるしかない!と気が引き締まった。
ロックマンRTAが終わると早速準備に取り掛かる。
まずは情報集め。病棟のスタッフに話を聞く。今年は感染対策チームの一員なので感染チェックという名目でいろんな病棟に行くことができた。そのついでに聞いたり、集会の時に他の科の人にインタビューできた。
「ゲームではこうなんですけど」 (ないない)
「参考書にはこう書いてありますが」 (実際はこういうケースが多いね)
「犬を手術したことありますか?」 (は?※真顔)
など実際の現場との違いを聞いたり、医療雑談を集めたり。病棟を越えて病院全体で専門性の高い情報を集めまくる。
解説を依頼した時にいつも考えることは二つ!
一つは毎回「これが最後」と思って台本を作る事!
もう一つは過去に溺れず「代表作は常に次回作」と考える事!
ワイズと言ったら〇〇の解説の人!
この〇〇の部分にカドゥケウスが入るようにしなければならない!
全ての解説を過去にする!
3章:尽きない心配 ~台本作り~
とは言ったものの、まずは何を中心に伝えるか。ストーリーか、RTAテクニックか、病気の知識か、茶番か。
その時に最も重要なのは視聴者の視点。
視聴者はほぼ全員初見。となると自分は初見の時このゲームをやっていてどう思ったか。思い返してみるととにかく難しかった。それをRTAならこんなに速く・・・しかしそれはどのRTAも同じ内容でインパクトが足りない。
そもそも何でこんなに難しいゲームを最後までやりきったのか?
それはストーリーが面白かったからだった。苦戦してクリアしてヘトヘトでも次のストーリーが見たい、知りたい!と必死にプレイしていた。
・・・これだ!
そうだよ!このゲームはストーリーが面白いんだよ!しかもRTAだと完全スキップではなく早送りスキップなのでその間に要約して説明する時間もある。
実際に手術シーンになったらそこで病気の説明を入れる。
RTAテクニックは説明がなくとも見ていればわかる。
後半はスティグマばかりなのでそこでようやくRTAテクニックの説明をしてもいいし、ネタも入れられる。構成は決まった!
幸い運営の理念(というよりGDQの理念)である「マリオを速く走れば人が救えるという概念を浸透させたい」という思いは序盤のシーンとマッチするためそこに入れられた。
ところがここで最大の問題が立ち塞ぐ。
それは寄付を呼び掛ける一番大事なシーンが物語の後半になること!
(タイマー1時間くらい)
(全7章のうち寄付のシーンは6章)
最初はすごい!となるRTAも山場を越えて後半では「また高速で手術して終わりでしょ」と視聴者が離れてしまう恐れがあった。
これは結構深刻な問題で、前回の魔界村駅伝の時も二周制と言うシステムの為、視聴者からすれば同じように映ってしまう。そのため二周目に魔界雑談に全振りして一周目との差別化を図った。
しかしカドゥケウスではその手が使えない。
毎度決め台詞でも考えて一体感を出すか?
だが、それだけでは同じ台詞を繰り返すだけでさらにマンネリを助長してしまう。
打開策が見つからず時間ばかりが過ぎていく。
一旦この問題からは離れ、とりあえずおっさんさんに最初の方だけでも動画を撮ってどんな感じで進行していくかイメージしてもらうため最初の5分程の動画を作成。
結果はこんな感じでOKとのこと。改めて見返して付け足していく。
バッドテーピング後の術後合併症は疾病ごとにいっぱいあるからどれにしよう・・・
ん!?疾病ごと・・・!?
あれ?これバリエーションかなり増やせるのでは?
イメージ動画では「術後合併症が心配です」だったが、これを病気ごとの具体的な合併症に変えていけばいいのでは?
それを軸に患者の心配から自分の心配、どうでもいい心配をしたり、いっそ心配しなかったり!そこからまた術後合併症の心配に戻したり・・・
こうすることで見ている方は「また高速で手術して終わりでしょ。でも次は何を心配するんだろう?」と視聴を続けるはず。ちょうど私が続きを見たいと必死にプレイしていたように!
そして後半まで見ればストーリーの続きが気になり、終わりまで見届けたいと思うはず。
心配事を増やすことで心配事を解消する奇妙な理論に!
4章:超解説 ~前日から本番まで~
そんなこんなで原稿を書いているとやはり難しい箇所が出てくる。
特にストーリーの要約は大変で、2時間近く話し続けるので息継ぎのタイミングもズレると置いて行かれてしまう状況。これは最後まで悩み、本番直前までタイミングを試行錯誤した。
このように「・がある場合」は場面が切り替わり暗転が入る。
=ここで大きく息を吸って、ズレた場合は暗転中も話して調整する
このように「・が無い場合」は小さく息を吸って次の・まで話し続ける。
=・の場所まで話し終われば待機、足りなければ暗転中も話し続ける
このように(手術開始)は画面からこの文字が消えてから話す。
=この間に原稿をスクロールする、足りなかった場合はこの時も話し続ける
タイミングが異なる場合は場合はこのように(手術開始)とは違う注意書きをして調整。
こうすることでここはどうだったっけ?とならないよう調整。
ちなみに息継ぎのタイミングは 息を吸いながら(えー)と頭の中で言って、話し始める時になるべく口に出さないようにしている。
実際は台本とかなりタイミングがズレているが、全てのエピソードでこのルールを統一し、足りなかった場合のフォローが後に何か所もあるため、不自然に映らないようにしている。
そのため、急にペースが変わらないよう心掛け、噛んだ時や間違えてもう一度話す時などペースが速くなる場合は最後を遅くすることで不自然さを軽減している。
また、このゲームは心細動以外、大きな乱数が無いため大幅な修正が入る可能性は低かった。
(おっさんさんが直前で自己べ更新してチャートが1カ所変わった程度)
地味に厄介なのが「手術」など噛みやすい用語が頻繁に出てくるので噛みやすくて他の言葉に変えられる用語はとにかく変えて修正した。
本番でも結構噛んだ・・・どこを噛んだかはひみちゅ
RTAテクニックは随所に入れるが、後半はスティグマばかりなので雑談が多めで走者のすごさが伝わりにくい。そこでオニュクスのとこ(タイマー1時間22分くらいのとこ)で視聴者参加型にして雑談の裏でどれだけ走者が凄いことをしていたか再認識してもらった。
もしミスがあればストックしてある医療雑談を話して調整する。これで万全!(なおノーミスだったため1個も使われることはなかった模様)
解説の仕事は「走者が最高のパフォーマンスを出すための手伝いをすること」
なので、おっさんさんには何かあった場合はその場は解説に全て任せて周りを気にせずプレイして欲しいことを伝える。
唯一の問題はオンライン環境。PCの調子も良くないので途中で回線が切れてしまう可能性もある。そのため自己紹介で得意技は「超失踪」と伏線を張り、もし本番で回線が切れてしまったら「ワイズさんは超失踪しました」と一言で済ませて後は気にせず黙々とプレイを続けてもらうように伝える。
戻ってきたら「ちょっと定時と勘違いして」「仕事と区別がつかなくなってしまって」みたいなことを言って何事もなかったように復帰する予定だった。幸いそんな事態はなかった。
そして本番。もう画面が切り替わったらやるしかない!
テキストは走者の自己べ動画の動きに合わせて作られている。
そのためいつもは汎用性の高い一言を適時入れて調整しているが、その必要性が全くなかった。むしろ追いつかないくらいのペースだった。
本番が自己べより速い!?まさか?
自分の話すペースが緊張でたじろぎ、遅くなっているのかと疑うほどだった。
それもそのはず、なんと自己べ(世界記録)と4秒しか違わず、心細動が発生しなければ世界記録を更新していたペースだったのだ。直前の自己べ更新がなければ本番で世界記録だったというとんでもない速さであった。
5章:ファイナルグッドエンディング
本番が終わり、担当の人から
「ハイプトレインが凄いレベルまで行った(Lv.10まで行ったらしい)」
「ここまで行ったのはクッキークリッカーとカドゥケウスだけ」
「人数も6万人いってなかったけど超えた」と聞いた。
薄れゆく意識の中で成功を実感!
後はもう放心状態で、あまり覚えてはいない。
その後、反響がすごく自分でも驚いた。
カドゥケウスがトレンド入り!
なぜかワイズもトレンド入り!(どういうこと?)
走者に対して「走者が最高のパフォーマンスを出せるための手伝いをする」
解説に対して「代表作は常に次回作!」
チャリティーイベントに対して「寄付への呼びかけで寄付金を増やす」
社会に対して「ゲームを速くクリアすれば人が救える」
すべて達成!
ファイナルグッドエンディングでドクターワイズ、頑張りました!
次回のRiJの解説はあるかなあ?依頼が来るといいなあ。
ゲームで救われる人が一人でも増えますように。 2023年ワイズより
完
RTA in Japan「カドゥケウスNEW BLOOD」
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You tube:https://www.youtube.com/watch?v=_U2_xZ54Ra8&t=1s
走者:おっさん
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解説:ワイズ
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