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短編小説「深夜ラジオ最終回」

私は、現在中学2年生です。先日、友達だと思っていた人が影で私の悪口を言っているのを聞きました。もうショックで学校に行けていません。どうしたらいいでしょうか?          14歳 腹入りもんめ  広島県

「友達だと思っていた人が悪口言ってたらたしかにショックですよね。ショックで学校に行けてないという事だけど、学校は無理して行くところじゃないと思う。だから今はいいと思うんだけど、友達はその人だけなのかな?学校でも、学校以外でもまだ出会ってない友達はいると思うから、少し視野を広げてみたらいいんじゃないかな。」

♪Just a Friend/Mrs. GREEN APPLE


適当なアドバイス、こころがこもってない言葉達。週一の土曜4-5時の深夜ラジオパーソナリティーとして既に半年がたった。乗り気がしない仕事だったが、既に30前半になった売れない芸人というカテゴリに分けられている自分にする以外の選択肢は無かった。そして今日は最終回だ。やる気がないパーソナリティーのラジオなんか終わって当然だが。

友達が悪口を言っていた?そんな奴もともと友達じゃないだろとしか思えない。そもそも、友達なんか不安定な関係性だ。人と人が繋がっていたいと思う時に使うための関係性の呼称でしかない。

2時間一緒に飲んだら友達とかほざく奴も、中高からの付き合いの人と大学からの付き合いの人をひっくるめて友達としてカテゴライズする奴も僕は全員嫌いだ。


「えー、今日は最後の悩み相談という事でね、リスナーのみんなからどしどしお悩みを送ってもらいたいと思います。はい、じゃあ続いてのお便りですね。」

今高校2年生なのですが、一個上の高3の先輩に片想いをしています。もうすぐ卒業してしまうのですが、告白するべきでしょうか?ご意見お聞きしたいです。
17歳 スライスピッチャー   広島県

「いやー、たしかに難しいですよね。先輩に迷惑かなと思っちゃうしね。でも、スライスピッチャーも好きと言われて嫌な気持ちにはなる事ってあまり無いと思うのよね。だから、迷惑かなと思っても、まあ付き合うとかまでいかなくても、気持ちを伝える事は重要だと思う。言わないと、気持ちはわからないよ。頑張って!」

♪愛を知るまでは/あいみょん


恋愛に夢中になれる人種はなんて幸せな事だろうと思う。こっちは必死にネタ書いて死ぬ思いで考えているというのに。

学生時代もそうだ。誰が好きとか、この人どう思う?とかいう話に全く興味なかった。彼女とか出来ないの?と母親に聞かれるたびに、なんであなたの息子にはできると思っているのかと聞きたくなった。じゃああれか、お前はゲイか?とつい最近覚えただろう言葉をただ使いたがる父親には、怒りを通り越して吐き気がした。

盲目的に生きる意味を恋愛に求め、他人に求める人は、その人がいなくなったら終わりの不安定な時を過ごしていると思っているし、いなくなればいいとも思っていた。


「はい、じゃあ次のお便りが来ています。さっそく読んでいきましょう」

将来、体験型ゲームを作るゲーム作家になりたいと思っているのですが、最初に何をしたらいいかわからず、困っています。何かアドバイスください!
20歳 あるふぁーふぁ  福岡県

「体験型ゲームってあまり聞かない言葉だけど、謎解きみたいなものかな?僕も行ったことあるよ。夢を持つのはとてもいい事だよね。何をしたらいいかわからないとの事だけど、まずはお友達とかに作った体験型ゲームを遊んでもらったらいいんじゃないかな?そうしたら反応を見ることもできるし、作るモチベーションになるんじゃないかな。頑張ってね!」

♪これからのこと、それからのこと/緑黄色社会


何者かになりたい、そんな感情は捨てたほうが楽だという事は最近知った。芸人を目指したのは、芸人が創作しているという昨今の風潮から、なんかかっこいいと思ったからだ。別に芸人じゃなくてもよかったが、何かを作る何者かになりたいという漠然とした感情は大きかった。

体験型ゲームがなにかは知らないが、きっとこの人も何者かになりたいタイプの人だろう。そして、何者かにもなれず一生理想だけ高く死んでいくのだ。

自分自身、芸人という仕事にもう未練も何もなくなっている。必死にネタを考えても、日々のコンテンツの中で消費されていくだけ。何が創作だ。もううんざりだ。こんな仕事。


「さあ、そろそろ終わりの時間になりました。みんな悩みは色々あると思うけど、悩みがない人はいません。明るく振る舞っている人も、能天気に見える人も、みんな悩みはあります。それだけは忘れずに。さて、最後のふつおた、普通のお便りを読んでいきましょう。」

ずっと悩んでいたことがあったのですが、今日のラジオを聞いて少し心が軽くなった気がします。ありがとうございました!     15歳 デレクジーヤー  東京都

「そう思ってもらえたら嬉しいです。ありがとうございます。来週からも新しいラジオ番組、ぜひ聞いてくださいね。あ、もう一つ来てますね。読んでいきましょう、、、」

ラジオありがとうございました。ずっと思っていたのですが、今まで本心で喋っていましたか?ラジオなので、あなたの姿は見えません。でも、あなたのこころ、あなたの思っている事は、ラジオだからこそよく伝わります。
あなたは、本心で喋っていましたか?     
未記入

「え、、と手厳しいですね、、。本心?そうですね、、。」

今日が最終回のラジオ番組だ。変なお便りをよこしてくるスタッフが意味わからない。そう思ってスタッフの方を見ると、みんな自分の方を見て答えを待っていた。スタッフも薄々自分が適当に喋っていることに気づいていたのだろう。

「本心で喋っていたか?答えはなんとも言えないですね。自分の経験からお話できる事もあれば、できない事もあって、リスナーの皆さんの助けになるような言葉を言えるように頑張りました。もう終わってしまいますが」

苦笑いしながらこう話すしかなかった。まあこれが生放送の限界だろう。自分の感情を爆発させれば後でなんて言われるか分かったもんじゃない。

スタッフの方を見ると、がっかりしたような表情で片付けを始めていた。Twitterの方でも、番組のハッシュタグとともに罵詈雑言が浴びせられている。なんだこいつら、自分に何を求めているんだ。

その瞬間、周りが真っ暗になった。ブースも、スタッフも、原稿も消えて、真っ暗の中にぽつんと置かれてあるマイクと、僕がいた。混乱したが、もう周りの事などなんかどうでもよくなって夢中で喋った。どうせ今日で終わるんだ、だったら好きにしたらいい。

「本心で喋っていたか?本心で喋っているわけないだろ。半年間、なにも本心なんか喋ってない。くだらない悩み、くだらないコーナー、こんな事をする為に芸人になったわけじゃないし、どこのどいつが聞いているかもわからないラジオ番組なんかもうしたくないよ。だいたい、今日も悩みがちっぽけ、ちっぽけ、、なんだよ。」

話しながら僕はなぜか泣いていた。

「今日も悩みに答えるとか言ってな、俺は何一つ答えられない。お前らの悩みなんかな、全部俺の悩みなんだよ。俺の14歳、17歳、20歳が襲いかかってくるんだよ。お前に答えられるのかって言ってな。33にもなって、友達もいないし、恋愛もろくにしたことないし、いまだにイタい夢追ってるんだよ。ダサいだろ。悩みに答えるなんかとてもじゃないけど無理なんだよ。

今までもずっとそう。サークルとか職場の飲み会の誘いとかすぐ断るし、成人式にも行ってない、母校も行ってない、実家にも帰らない、素直になればいいのになれない。自分の感情、行動を自分で俯瞰して、うわー、いたいことやってるなーと思って自分の存在を自分で下げる行為をしちゃうんだよ。

だから、聞いているみんなには、まあ一体何人聞いているかわからんが、好きに生きてほしい。他人のこころなんかどうせ分からない。だから、評価とか気にするな。周りの目とか気にするな。友達作りたい時に作って、恋愛したい時にして、夢をずっと追っていけよ。どうせ未来なんかな、ある程度決まってるんだ。だったら、好きに生きたらいい。」


「でもな、世の中大半の人は好きになんか生きれないんだよ。好きに生きれたらな、悩みなんか持たずに、なんかわかんねえけど成功してるよ、多分。
大半の人は、俺みたいな大半の人はな、悩みながら、周りのこころを気にしながら生きていくんだよ。どう思われるんだろう、どう評価されるんだろ、そう思いながら生きていくんだよ。だから、だから、また悩んだらラジオで、俺と一緒にとことん悩もう。他人のこころはわかんねえけど、でも、わかろうとして、わかる努力をして、はじめてわからないって言えるんだよ。じゃあ、また」

♪心という名の不可解/Ado






「はい、じゃあ今日も始めていきます。今日は2024年2月、、」

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