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12年片想いした人に会いに行きます

僕は12年間片想いをしている。

小学3年生から大学2年生の今まで、ずっとだ。


「彼女いるの?」

「今まで彼女何人いた?」

「恋愛に興味あるの?」

大学でこれらの質問をよくされる。そのたびに、まぁ中高男子校だったんで、、という曖昧な返答に終止している。12年間片想いをしているという事を隠すための嘘は、もう通用しなくなってきていた。

だから会いに行くことにした。

僕の自分勝手な気持ちを終わらせるために。


2011年

彼女と初めて会ったのは小学3年生の事だ。広島の片田舎の小学校で、僕は彼女と学級委員長をしていた。
僕は真面目系男子だったのだが、彼女は人望がある感じの人だったと思う。

唐突だが、多数決で全員が手を挙げなかった時、どうすればよいだろうか。

その当時、30人クラスで20人賛成、8人が反対の時があった。当然だが、手を挙げていない2人がどうしようと結果には変わりがない。
学級委員長だった僕達は司会をやっていて、僕はじゃあ賛成、みたいな感じにしようとしていたが彼女は違った。全員が手を挙げないと意味ないと言い張るのである。そこで激しく言い合いをして先生に止められた記憶がある。

この出来事をきっかけに、僕の閉じこもった価値観をぶち壊した彼女を腹ただしいと思うと同時に、好きになってしまった。

まずする事。それは、名前を検索する事だ。

彼女に会いに行くといっても、そもそも僕は彼女ががどこにいるかを知らない。
彼女は小学校の同級生だが、中学からは別々の学校に行っている。そのため、高校まではかろうじて知っていたが、それ以降の進路はぱったりだ。

彼女が自分の場所を世界に発信しているタイプだったら、居場所は一発で分かる。それは目的を考えるとありがたいのだが、個人的には嫌いなタイプなので複雑な気持ちだった。

さっそく検索してみると、TwitterとInstagramがヒットした。彼女の非公開アカウントのTwitterを見て、僕は古い記憶を思い出していた。


2017年

実を言うと、僕は彼女の名前を6年ほど前に検索した事がある。ちょうど中学3年生の頃だ。

そのときも、今と同じように、TwitterとInstagramが出てきた。今と違うところは、Twitterが非公開ではなく公開のアカウントだった事だ。

僕はちょうど今と同じような気持ちで、もう片想いを終わらせなければいけないという謎の使命感に燃えおり、であろうことか、TwitterのDMで地元の花火大会に誘ったのだ。

結果、2日経っても、3日経っても返信は帰ってこなかった。

1週間後に、彼女のアカウントは非公開になっていた。

Twitterは鍵垢だったので見れなかったが、Instagramは公開されていた。

おしゃれな投稿はさておき、僕はストーリーが更新されている事に気づいた。ストーリーとは、24時間で自動に消える写真や動画の事だ。投稿はいつまでも残るが、ストーリーは消えるため、今起きている事などを伝えたい時によく使われる。

そこで見た彼女のストーリーがこれだ。

どうやら、彼女は旅行に行っているみたいだった。でも、ここがどこかまは、、。もう少し調べてみる必要があった。


2014年

今でも後悔している出来事がある。

小学6年生のある日、昼ごはん中にそこまで仲良くない同級生にトイレに呼び出された。味噌汁が冷めるなと思っていたら、同級生の口から小学生恒例の質問
「お前◯◯の事好き?」
が炸裂したのだ。
◯◯は、彼女の名前だった。

僕は、「いや、別になんとも思ってないけど」とその場をしのぐような答えを言った。後から聞いたところによると、彼女が僕の事を気になってると言ったそうだ。どうしようもなく強い自意識を持った僕には、もう何もできなかった。

あの時なぜ素直になれなかったのか、今更悔やんでももう遅い。

さっきのストーリーをもう一度見直してみると、ある事に気づいた。

左上の方に、なにか文字が書いてあるのが見えた。

恐らく、なにかのアルファベットだ。
アルファベットの文字列が丁度半分で切れているが、推測するに「MIUBA」か「MIURA」であると思った。

みうばという文字列は単純に気持ち悪く、また検索しても何も引っかからないため、みうらに見当をつけた。「みうら」と検索すると、神奈川県三浦市がヒットした。

三浦市で、すぐ近くに港がある、、。
「みうら」「港」で画像検索をしつづけ、ようやく答えが出た。

「三崎」だ。

2015年

中学は、彼女は地元の公立校、僕は私立の中高一貫高に行った。

中学に入るとまず行われるのが部活動決めである。彼女は小学生の頃からミニバスと呼ばれる小学生のバスケットチームに入っていた。わりかし強かったと思う。
僕は迷わず部活を決めた。

年に数回大きな大会があるのだが、そこには当然ながら多くの中学校が集まる。というか、集まってもらわないと困る。僕が部活を頑張るモチベーションはそこにしかないのだから。
でも、僕は彼女と話す事はなかった。
いや正確には、話す機会、目が合った機会はたくさんあったのに話す勇気が無かった。ただ怖かったのだ。

三崎は三浦市にある町の地名で、かつてはマグロ漁で栄えた町だそうだ。今では衰退したが、マグロを観光の目玉として観光地として町おこしを進めている。

ストーリーで投稿されているという事は、今彼女は三崎にいるという事だ。つまり、今日三崎に行くことができれば、彼女に会う事ができるかもしれない。

しかし、ここである問題が浮上した。書いてなかったが、僕は福岡に住んでいる。福岡から三崎にそんなに簡単に行く事ができるのか、、。

ストーリーを見た時間は、9時半くらいだった。

調べてみると、一応今日中には着きそうだった。お金は確かにかかるが、それよりも長年の思いの方が大事だった。
僕はすぐに支度を始めた。


13時過ぎ。新幹線に乗っていると、彼女のストーリーが更新された。

恐らくマグロ丼だと思う。どうやらまだ三崎にいるようで、少し安心した。

17時。やっと、三崎に着いた。が、もう日は暮れていて、人の気配があまりなかった。それでも、僕は探し回った。

自分を変えてくれた、大切な人だから。

彼女が、僕の中にずっと居るから。

好きだよ、じゃなくて、ありがとうをちゃんと言いたかったから。


町の中を何周もして探し回ったが、彼女は見つからなかった。諦めて、僕は海を眺め続けた。

ふと後ろの方から、彼女の声が聞こえたような、気がした。



2022年2月5日



#創作大賞2022 #恋愛 #片想い



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