「電子1個の共有結合!?」教科書が変わる新しい化学結合が見つかる!
教科書がまた書き換わるかもしれません。
北海道大学で行われた研究により、新たな化学結合の存在が実証されました。
中学校の理科の教科書では「原子はお互いの電子を1個ずつ出し合い「2個で1セット」となる共有結合を形成する」と教わります。
しかし新たな研究では炭素同士の結合において「電子1個の共有結合」が起きていることが確認されました。
研究者たちはこの新たな化学結合を使えば、これまでにない材料の開発ができると述べています。
しかし研究者たちはいったいどうやって電子1個の共有結合を見つけたのでしょうか?
研究内容の詳細は2024年9月25日に『Nature』にて発表されました。
参考文献
教科書が変わる!?炭素の新しい結合を実証!~弱い結合を活用した未踏材料創出に期待~(理学研究院 准教授 石垣侑祐)
https://www.hokudai.ac.jp/news/2024/09/post-1612.html
元論文
ライター:川勝 康弘(Yasuhiro Kawakatsu)
ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
電子1個の共有結合
中学の理科では化学結合の一種である共有結合について学びます。
たとえば水素の場合、2つの水素原子がそれぞれの電子を1個ずつ出し合い「2個で1セット」となる共有結合を作ることが知られています。
このときの様子を教科書では「H:H」と表します。
点「・」は電子を現わし、2つのHの間で2個の電子が共有されて結合を起こしていることを示しています。
より簡略化バージョンでは2つの点の部分を棒で表し「H-H」と記述することもあります。
中学時代に「電子2個で腕1本」と覚えた人も多いでしょう。
この状態になると水素原子から水素分子に変化し、私たちがH2と呼ぶ馴染みのある状態になります。
一方、炭素の場合は余っている電子が周囲に4個存在しており、炭素を現わす「C」の周りには4個の点「・」が配置されています。
そのため炭素同士が共有結合する場合には、電子対が2つ(電子4個)の二重結合や、電子対が3つ(電子6個)の三重結合などを作ることができます。
有機分子などで炭素が「骨格」と言われているのは、炭素が4対という多数の結合を作れるからだと言えます。
温室効果ガスの代表例として知られる二酸化炭素(CO2)では炭素Cを中心にして左右で酸素Oとの二重共有結合が起きており「O::C::O」あるいは「O=C=O」の状態で存在します。
このように共有結合とは原子と原子の間に「2個で1セット」となる電子の対を作ることで形成されます。
しかし今からおよそ100年前の1931年、ノーベル化学賞受賞者であるポーリングは電子2個ではなく電子1個の共有結合「1電子結合」の概念を提唱しました。
実際、プラスに帯電したH 2 •+(カチオンラジカル)では、水素分子「H:H」から間にある電子が1つ取り除かれていると考えられています。
他にもいくつかの先進的な研究では電子1個の共有結合について同定したとの報告がなされています。
しかし1電子結合は非常に弱い結合であり、それだけを集めて単離することはかなり困難でした。
特に炭素同士の間での1電子結合については結晶学的な証拠が全くありません。
しかし今回、北海道大学の研究者たちは、あえてその困難に挑みました。
研究者たちはどうやって炭素間の1電子結合をみつけたのでしょうか?
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