クマノミとイソギンチャクの共生関係には3週間の試用期間があった?
従来の説とは違うようです。
イソギンチャクには刺胞という毒のトゲがありますが、クマノミはイソギンチャクと共生関係にあり刺されることはありません。
その秘密はクマノミの体表に分泌される粘液にあるとされますが、オーストラリアのフリンダース大学(Flinders Univ)で行われた研究によって、この粘液成分は共生期間の長さで変化していることが示されました。
この研究によるとクマノミがイソギンチャクに本格的な味方だと認識される粘液成分は、共生開始後3週間が経過しなければ、分泌されないといいます。
どうやらクマノミとイソギンチャクの共生関係には試用期間と本契約のような段階が存在しているようです。
いったい両者の間には、どんな契約書が存在するのでしょうか?
研究内容の詳細は2024年2月27日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて公開されました。
元論文
Friend, food, or foe: sea anemones discharge fewer nematocysts at familiar anemonefish after delayed mucus adaptation
https://doi.org/10.1101/2024.02.22.581653
ライター:川勝 康弘(Yasuhiro Kawakatsu)
ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
イソギンチャクに刺されないクマノミの粘液には何が含まれているのか?
多くの人にとって、イソギンチャクを住処にするクマノミの映像は見慣れたものでしょう。
クマノミはイソギンチャクの外敵を攻撃する衛兵になるだけでなく、クマノミの糞便はイソギンチャクにとって栄養になります。
またクマノミが触手内部を動き回ることで新鮮な酸素が供給され、イソギンチャクの成長を支えています。
一方、イソギンチャクは獲物を捕らえたり外敵から身を守るために、体の表面から毒針(刺胞)を発射する仕組みを持っており、この毒針は自分やクマノミを襲おうとする外敵を攻撃する防衛にも用いられます。
イソギンチャクの毒は、細胞を溶かす「細胞融解素」、神経に障害を与える「神経毒」、炎症や痛みを与える「ホスホリパーゼ」などさまざまな有毒成分の混合物からなり、エサとなる微生物にとっては致命的なもので、大型の生物にとっても脅威になります。
このように両者の共生には明確な利益があるため、クマノミとイソギンチャクは「生まれたときからずっと仲良し」と思っている人も多いかもしれません。
しかし最近の研究で、イソギンチャクはクマノミが相手であっても新参者なら容赦なく攻撃しており、両者が共生関係になるまで24~48時間が必要であることがわかってきました。
一方で、共生関係を結んだクマノミに対してイソギンチャクはほとんど刺すことがなく、クマノミたちは無傷で過ごすことができます。
これまでクマノミがイソギンチャクに刺されないで過ごせるメカニズムは「クマノミの分泌する粘液がイソギンチャクの棘発射を抑えるから」と説明されていました。
しかし、両者が出会って48時間はクマノミが攻撃されるという事実を踏まえると、このメカニズムは既存の理解よりもっと複雑なものの可能性があります。
そこで今回、フリンダース大学の研究者たちは、イソギンチャクに共生する前と後で、クマノミの表面の粘液成分にどんな変化があるかを調べることにしました。
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