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【2024年版】なぞりのつぼ −140字の小説集−

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読めば読むほど、どんどんツボにハマってく!? ナゾリの140字小説特集! 2024年も笑い、足りてる? ※無断転載および転載は原則禁止です。
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#思い出

140字小説【アナタは大切なものを壊しました】

140字小説【アナタは大切なものを壊しました】

「アナタが家に来てから、もう全部がメチャクチャ……何もかも壊れてしまったわ」
「ここからまた作り直しましょうよ」
「そんな簡単に言わないで! この家には、家族で暮らした思い出がたくさん詰まってたのよ!? ……返してよ。ねぇ、返してよぉ!!」
「すみません、リフォームが俺らの仕事なんで」

140字小説【泥にまみれても君を守るよ】

140字小説【泥にまみれても君を守るよ】

「何それ、すごい茶色くない?」
「これね、私の《汚》守り。雨の日に転んで溝に落としちゃって、それで拾ってたらバスに乗り遅れて、結局試験も受けられなくなっちゃってさ」
「何それ、縁起悪っ」
「でも、その日乗るはずだったバスがバスジャックに遭ったんだよね」
「何それ、ガチで《御》守りじゃん」

140字小説【リベンジ・メニュー】

140字小説【リベンジ・メニュー】

「これぐらい一人で食べれるよ!」
「本当に食べれるの〜? 無理しなくていいんだよ?」
「食べれるからっ!」

 そう言って、親の前で少しでも大人ぶろうと背伸びしていた子どもの頃の自分。
 あれから胃も体も大きくなった今、例のお店で、あの頃は食べきれなかった料理を食べています。一人ぼっちで。

140字小説【高くて広い夢】

140字小説【高くて広い夢】

『母さんの分はいいから』

 それが母の口癖だった。

 いつかそんなこと言わなくてもいいように、俺は必死に努力し、それから大人になって、ようやく母にタワマンの一室をプレゼントできた。

 本当は母だって、心の底ではこういう生活を望んでいたはずだ。

 だから俺に《高広》って名前を付けたんだろ?

140字小説【伸び縮みする背中】

140字小説【伸び縮みする背中】

 私の記憶の中の父はいつも、汚れた作業着を着ていた。それが私と母にとっての自慢だった。

 だけどいつからか、父が背広を着て出かけるようになった。休みの日でさえも。

 あるとき、父が母に珍しく怒鳴られたことがあった。

 その翌日、いつもの作業着姿で仕事に向かう父の背中は、肩が狭く見えた。

140字小説【見えなくても、そこに】

140字小説【見えなくても、そこに】

「このオシャレな空瓶、何か入れないの?」
「そこには空気を詰めてるんです」
「空気? ああ、富士山とかの?」
「いえ、父の空気です」
「チチ?」
「父は私が生まれてすぐに蒸発したんです。蒸発したってことは、今も空気としてこの世のどこかを漂ってると思うので、それで――何で泣いてるんですか?」

140字小説【振り返ればピアノがあった】

140字小説【振り返ればピアノがあった】

 子どもの頃にピアノを習っていたことは、長らく俺にとって自慢だった。
 だから大人になった今も、会社の部下に語り聞かせてやったら……

「課長もですか? 意外です、僕も習ってました!」
「私もなぜか親に習わされてました」
「ウチは通信でしたね」

 ……ずいぶんピアノも近い存在になったもんだ。

140字小説【至りのその先へ】

140字小説【至りのその先へ】

 友人と大学生時代の写真を見返していたら……

「懐かしい……あっ、出た! 伝説のモヒカン!」
「まだ持ってんの、それ? いい加減消しとけって!」
「いやいや、貴重でしょこれは。未だに謎なんだけど、何でこんな髪型にしたの?」
「まぁ、若気の至りだよね」
「どんなに若気でもそこまでは至らんよ」

140字小説【そしていつしかお守りに】

140字小説【そしていつしかお守りに】

 お小遣いで買った当たり付きの駄菓子が当たった。

 その当たりの包み紙には『買ったお店で引き換えられます』と書いてあった。

 だから次の日、当たりの包み紙を握りしめてワクワクしながらお店に向かった。

 ……お店が閉店していた。

 この当たりの包み紙、持ってたらいつか使える日が来るのかな?

140字小説【雨月雨日雨生まれ】

140字小説【雨月雨日雨生まれ】

 私が生まれた日は雨が降っていたらしい。それから毎年、私の誕生日は決まって雨だった。

 子どもの頃はどこにも連れていってもらえないから嫌いだったけど、それも半世紀以上繰り返せば、もはや自慢だ。

 ちなみに今日は八十回目の誕生日だけど、なぜ晴れた? 体はどこも悪くないけど、私、死ぬの?

140字小説【今しっかりするしかない】

140字小説【今しっかりするしかない】

 総理大臣として政策に行き詰まってしまった私は、偶然にも仕事机の引き出しから、小学生の頃に書いた作文を見つけた。
 作文のタイトルは、将来の夢。書き出しは『自分は将来、総理大臣になりたいです。もし総理大臣になったら』……あれ、ここで終わり?

 結局、あの頃の私にも政策なんてなかった。

140字小説【因縁⇄御縁】

140字小説【因縁⇄御縁】

「俺たちも結婚して、もうすぐ五年かぁ……」
「回転寿司で私が注文してたイクラを、向かいの席のアナタが間違って取っちゃった、あの日からね」
「それまだ言う? でも、あれがキッカケで今があると思ったら、あの間違いもある意味正解だったよね?」
「あの日のことを許してないから今も続いてんのよ」

140字小説【負と負を掛けると正に】

140字小説【負と負を掛けると正に】

 もし初デートのとき、歯に青のりが付いていたら。俺はきっと彼女に幻滅されていたと思う。

 もし初デートのとき、社会の窓が開いていたら。やはり俺は彼女に幻滅されていたと思う。

 そんな俺が彼女と結ばれ今日に至るのは、俺の社会の窓に青のりが付いていたのを、彼女が笑ってくれたからだと思う。

140字小説【イマジナリー遊具】

140字小説【イマジナリー遊具】

「ここの公園、いつの間にか遊具が全部なくなっちゃったよなぁ……」
「時が経てば劣化もするし、それを維持していくのも大変だしな」
「……いや、俺には見える。子どもの頃に遊んだブランコや滑り台が、ほら!」
「スゲェ……アイツ、まるで本当に遊具で遊んでいるみたいに、宙に浮いてやがる……!!」