【2024年版】なぞりのつぼ −140字の小説集−

2024年1月8日 12:13

140字小説【温故知新　〜古の書物を求めて〜】

「あのさぁ、アンタのベッドの下にこんなのあったんだけど」
「ふざけんな姉貴！　勝手に人の部屋入るなよ！」
「辞書借りようと思ったの！　つーか、今どきスマホやパソコンで見れるのにエロ本とか、レアだね。人見知りのくせに、人の尻は見るんだ」
「ネットで調べりゃいいのに辞書借りる奴もレアだろ」

Nazori −ナゾリ−＠スマホ小説家

2024年1月16日 12:02

140字小説【嫁の読めない力】

　俺は腕相撲で一度も嫁に負けたことがない。
　だがなぜか買い物のときだけ、嫁が秘められた力を発揮することがある。

「お菓子買いたい」
「ダイエットするんだろ？　だったら買わな――くっ!?　コイツ、どこにそんな力がっ……!?」

　……結局俺が根負けするまで、嫁がそれを手放すことはなかった。

Nazori −ナゾリ−＠スマホ小説家

2024年1月23日 12:05

140字小説【その足だあれ？】

　あれは自宅で急にもよおし、慌ててトイレに駆け込んだときのこと。
　いちいち扉を閉めている余裕などなく、どうせ自宅なのだからと完全に油断していた。
　用を足しながらふと足元を見下ろすと、こちらを向く何者かのつま先が――

「誰っ!?」

　――それは、ここまで履いてきた自分のスリッパだった。

Nazori −ナゾリ−＠スマホ小説家

2024年2月20日 12:19

140字小説【分かっとるわ！】

「はぁ〜……毎日毎日、同じことの繰り返し。私は今、何をやってるんだろ？」
「アイロンがけ」
「何のためにやってるんだか……」
「明日着る服のため」
「そもそもこんなことに意味あるのかな……？」
「シワクチャは困る」
「いつになったら終わるんだろ……？」
「残りあと５着くらい」
「分かっとるわ！」

Nazori −ナゾリ−＠スマホ小説家

2024年2月23日 12:05

140字小説【すぎてもいいじゃないの】

　食べすぎる、飲みすぎる、寝すぎる……何事も『すぎる』のはよくないと、人は頭で重々理解している。

　だけど音楽とか、風景とか、人の心とか……『美しすぎる』に越したことはないんじゃないか？

　だから私はさらなる美しさを追い求めて、ついには百万円もした絵画を手に入れ――

「高すぎるんだよ」

Nazori −ナゾリ−＠スマホ小説家

2024年3月23日 12:06

140字小説【部屋の移動＝画面移動】

　ふと、何か用事を思い出して部屋を移動しようとしたら、廊下で妻とばったり遭遇して……

「この先へ進みたければ私を倒してからにしろ！」
「妻が現れた！　僕はどうする？　たたかう、アイテム、なかま……」
「私の攻撃！　ドゥクシッ！」

　僕は逃げ出した。そして何の用事だったかも忘れてしまった。

Nazori −ナゾリ−＠スマホ小説家

2024年4月3日 11:56

140字小説【右肩上がりを目指して】

「こちらのアームを装着すると、腕を少し動かすだけで、その倍の可動域と力を発揮してくれます」
「なるほど、老後とか便利そうですね」
「試しに、まず腕を上げてみてください」
「は、はいっ……!!」
「あの〜、腕を……」
「すみません、五十肩でこれ以上はっ……!!」
「そこは考慮してなかったです」

Nazori −ナゾリ−＠スマホ小説家

2024年5月18日 12:01

140字小説【本日も順プウなり】

　交際中の彼氏と同棲し始めて一年。何もかも順風満帆なはずだった。
　だけどある日、彼が突然……

「出ていってくれ」

　一瞬、何を言われているのか分からなかった。
　だから私が「どうして？」と聞くと、彼は――

「頼むから早く出ていってくれ！　これ以上は屁が……あっ」

　――本日も順プウだった。