追憶ノ彼方 〜怒り、家族、愛〜
昔の実家にいた。
茶の間と呼んでいた一家団欒の部屋で母と大喧嘩している最中だった。
僕の年齢は幼かったと思う。
茶の間には仏壇があったが、景色は記憶と少し違ったのか、それとも自分の記憶を書き換えてしまったのだろうか。
衣服が散乱して布団が一枚敷いてあった。
そこに僕は寝ていて母と言い争いをしていた。
内容は僕の嫁さんについてだったと思う。
何で自分の気持ち分かってくれないのかと言う話をお互いに延々としていた気がする。
また僕の父の事についても話していた。
母は怒って出て行ってしまった。
その時に隣の部屋にいたばあちゃんにも八つ当たりして、ばあちゃんは怒って、電話をかけ始めた。ばあちゃんは去年亡くなったが夢では少し若かった。
かけた先は僕の妻の父親のだった。
お父さん、というワードから相手方のお父さんと勘違いしたと思っていた。
相手方のお父さんはよく出来た方で、電話口から、この時間にお母様からお電話でさぞ大変な事でしょう。しかし今から向かう事は叶いません、と対応しているのが聞こえた。
おばあちゃんは大事だと認識した上でわざとお義父さんに電話したのだ。
おばあちゃんは電話を切った後も怒っていた。
普段は怒る事はないのに。
特に母に対して厳しかった。
すると父が帰ってきた。
状況を把握すると茶の間に当事者たちを集めた。
ほら、これ飲め。そう言って母とおばあちゃんに透明な粒を一つずつあげた。
中心に何か入っている、不思議な薬のような粒だった。
話したくないんだったら無理して話さんでいい。目も合わさんでいい。そんなにビビるないや。
そう言うと父はいつもの様に晩酌を始めた。
母は落ち着きを取り戻しており、文句を言っていた気がする。
さっきのなぁに?
と父に聞くと、
秘密だ。作ったんだ。
そう言ってテレビを観ながら晩酌していた。
父は若々しくてエネルギーに溢れていた。
この人が守っていたんだ。
後になって気付いた。
でも本当に守りたかったものはなんだろう。
それは多分、愛だ。
すなわち僕たち家だと、夢で認識した頃、懐かしい陶酔感が遠ざかっていった。
起きたらまた、夢の中に落とし物をしてきた気がしていた。
感謝。昔の自分に足りなかった感情。
恐怖。周りを傷付ける事で向き合う事を避けてきた感情。
暖かくて、忘れたくなくて、起きてすぐにペンをとった。
そんなある冬の夢のおはなし。
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