中年女性、侍タイムスリッパーを見る

あああああ騙された。
コメディだとおもっていったのに号泣した。
家出てすぐにハンカチを忘れた事に気付いたけど、コメディだし泣くことはないだろうと取りに戻らなかった。

新年初笑いのつもりでいった映画で初号泣。過呼吸なるわ。
帰り道も泣きながら帰った。

高坂がショートケーキを食べるシーン、タイムスリッパーの時代錯誤で笑わせる鉄板のやつ~と思いきや、厳しい時代を生きた侍の豊かな時代に安堵しむせび泣く姿が丁寧描かれもらい泣き。
コメディのテンポではないことに気づく。

京都なんだなあ、撮影所なんだなあ、心の優しい人ばかりだなあ、よい天気だなあ、実戦とは違う芝居用の殺陣のメソッドがあるのだなあ……。
穏やかに淡々と世界観がインストールされて、時代を追い越し、置いて行かれた武士たちの憤りと寂しさが、同じ時代で想いを共にできる人物が敵であるというやるせなさが、知らないうちに失われていったかつての仲間を居場所を思う悲しみが、宙に浮いた武士の魂が、なぜだか手に取るように伝わってくる。

芝居の経験が多少なりともあると演出家から「役の生理を大事にしろ」と再三言われるわけだが、役のみならずこの侍タイムスリッパーの世界観に生理を感じた。

高坂よりも前の時代にタイムスリップし、時代劇に己の侍としての魂を重ね、その斜陽を一人見つめ続けた風見の孤独と柔らかい心にまっすぐな高坂が及ばないものまたよい。しかし風見は高坂が現れてどれだけ救われただろう。忘れられていく存在だとしても、この世界で生きていく意義を共にする仲間がいて本当に良かった。

こういった人物の相関関係が起こす感情の濁流がすごかったよ侍タイムスリッパー。
元の時代に戻ることについての描写がバッサリなかったもの面白かった。

インディーズの話題作、良作は「これがメジャー作品でも感動しただろうか」という問いが常につきまとうが、インディーズでないとできなかったであろうノリにも関わらず、気持ちの良いカメラワークとテンポ。どこかで馴染んだ間、画角、擦り倒されたテーマ、あらゆる良作のオマージュのようでもあり、全てに隙がなく恐ろしいくらい洗練されていたと思う。
この映画を撮られた安田淳一監督はさぞや映画狂なのだろうな。

私がインディーズムービーで好きな部分に、カット数が少ないゆえに受け取る側がいろいろ想像する間があることだ。
自然の風景がやたらと多いのもインディーズムービーの特徴の一つだと思っていて、これがまた洗練された侍タイムスリッパーの世界観がより脳みそに叩き込まれ、私の感情が爆発した要因のような気もする。きかもしれない。

作品に自然に溶け込む笑いの間もとっても好きだった。
2025年に見た映画で一番よかった。

しかし、タイムスリップものって基本的に転送先で出会う人々が善人じゃないと成立しないね。
主人公クラスの転送ガチャ失敗はふしぎ遊戯の唯くらいしかおもいつかん。


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