LAMB ラム
アイスランドの人里離れた山奥で羊飼いを営む夫婦は、ある羊から産まれた「子羊でも人の子でもないなにか」をアダと名づけ、我が子のように育て始める。
いまやそのスタジオ名を聞くだけで映画館に足を運ぶ映画ファンも多いA24作品。
一見牧歌的でありながらスリラーとも怪奇ものとも受け取れる謎のジャンルですが「アイスランドの映画」と聞くとなんとな〜く納得してしまう不思議映画でした。
日の入りが遅いのでまだ暗くなってないのにベッドに入ってる風景なども、現地の人からすると日常でもそれ以外の人間から見ると何とも不思議。
今年観た『NOPE ノープ』もそうでしたが何もない、山々に囲まれただだっ広い土地は開放的になるどころか不安しか感じない、というのも文明社会にがんじ絡めな自分を覗き見るようで気まずい気持ちになりました。
アダちゃん(観た人が絶対にちゃん付けで呼んでしまうかわいらしさ!)のいる風景がとにかく印象的で、中盤まで夫婦しか出てこないこともあって全体的に昔話みたいな感触でした。
今時珍しいぐらいきれいに起承転結の4段階があって、奥さんが犯したある罪によって終盤報いを受ける…という因果応報的なオチもまるで昔からアイルランドに伝わる伝承のような。
犬と猫がいるのも絵的にすごくよかった。
床を歩く猫のしっぽの先だけがフレームインしてる場面なんか猫好きにはたまらなかったし、アダちゃんのお膝の上でグルルルルル…って喉を鳴らしてるのとか今年の映画の中の猫賞をあげたい。
もちろん犬も好きなので終盤のある展開はほんとうに辛かったですが…。
(はいネタバレですね。けど犬好きにはショックがでかいからせめて最初から分かってた方がいいと思って)
まあ何もかも奥さんの選択が本当に痛恨のミスだったと思う。
なぜあれをああしてしまったんだ…こうする事だってできただろうに、と観終わってあれこれ考えてしまうところも込みで教訓めいた昔話。
ただそれだけで終わらないのは何と言っても中盤から参入する叔父さんの存在がでかかったですね。
最初から最後まであのキャラすごくよかった。
ハリウッド映画ならきっとアダちゃんの姿を見て「こいつぁ金になるぜ!」とか考えて見せ物にしようとしたり嫌な展開になる、けどA24でそれはないだろと思いつつ、叔父さんが初登場した時は「絶対にこいつにアダちゃんを見せてはならない!!」とハラハラしました。
たけど夫婦は普通にアダちゃんを紹介するんですよね。
「アダちゃん、こちらはお父さんの弟よ。ご挨拶なさい」
「あらら〜〜アダちゃん恥ずかしいの?」
とか言って。あそこは思わず笑った。
その後なんやかんやあって結局叔父さんもアダちゃんの可憐さにやられてしまい一緒にソファでスヤァ…って、あのシーンの多幸感と言ったら。
元ミュージシャンだという叔父さんの黒歴史であるミュージックビデオもまた映画本編に劣らぬシュールさでした。