宅建受験から始まった不動産との微妙な関わり(その7:気が重い業者さん回り)
さて7回目は対象地の不動産業者さんを回って、相場や動向をヒアリングする話です。
これを行うかどうかは、鑑定事務所の方針次第のようです。例えば学究肌で業者さんとの付き合いが苦手な先生のところではやらないとか。
うちの先生は前職は某メーカーの販売店舗開発をやっていので、業者さんとの付き合いは普通のことでした。そのせいか我々は業者さん回りは必須でした。
しかし私は当時28歳で、営業職のような対人スキルはありません。まあ初めての飛び込み営業のようなものです。嫌で嫌でしょうがなかったですよ。
■まず店舗を選ぶ
対象地に近い店舗を業者名簿からコピーして持っていきます。
まず入ってはいけないのは、賃貸専門(中心)の店舗です。売買物件を扱っていないので、ヒアリングしてもムダですから。
また開業して日が浅い店舗もあまり期待できません。具体的には免許の更新回数で判断します。
逆に古くからの地元密着の店舗では、有意義な話を聞ける確率が高いです。
大手でも某住み替えに力を入れている店舗では、鑑定士の資格を持っている人もいて、期待ができます。
■どう話を切り出すか
参考になる話を聞けるかどうかは、相手次第です。
私は「このあたりの調査をしているのですが、周辺の相場感を教えて下さい」と住宅地図を出しながら、ストレートに切り出していました。もちろん対象地は伏せます。
しかし相手にしてみれば、いきなり来店して、お金に結びつかない人間を相手にするのです。対応は千差万別でした。
先方が不動産鑑定という仕事をはっきりと認識しているかで違うのですが、「話すことはないから帰れ」ということは、ほとんどありませんでした。
■どう話を膨らませるのか
「んー、まあ坪80万くらいかな」程度は話してくれます。でもそれだけでは根拠がわかりません。
「ほう、最近どこかで売れたのですか」と聞いてみます。うまくいけば、ここがいくらで売れたという話を引き出せることもあります。
担保評価においては「売れる価格」を把握することが説得性を持ちます。さらに売り急ぎだったか等の詳細も聞き出せたら上出来です。
それが難しいようでしたら、例えばある地域と隣の地域を示して、「どっちが高いですか?」というようにもっていき、徐々に話を展開していくやり方もしました。
それでも有意義な話が聞けないようでしたら、早々に切り上げて他の店舗に向かいました。
まあコミュニケーション能力が高い人の方が有利な作業です。
いい話が聞けた店舗には粗品を渡しました。この先もお世話になりますからね。
■ほかの補助者はどうしていたか?
ある補助者は、サラリーマンぽくない雰囲気を生かし、相手によっては競馬などの話をしながら徐々に警戒心を解いて、話を聞き出すテクニックを使っていたようです。
また試験合格者である補助者は若さを生かし、「教えてくれるまで帰りません」と宣言して、相手が根負けするまで粘る手を使っていたとか。ガッツがありますね。
私もオジサン化した今なら、もっといろんな話を聞き出せたと思うのですが…
■どうしても話が聞けなかったら
最低限、参考資料として売買物件のチラシを持ち帰りました。まああくまで売り希望価格ですが、何もないよりマシです。
とりあえず訪問して名刺を置いてくるだけでも意味があります。あとで先生が電話で確認するときに役立ちますからね。なぜか先生は電話で情報を聞き出すのが上手かった。
■こぼれ話
中にはまれにとても恐い人がいる店舗があります。後悔しかないですね。少しだけ話して、協力のお礼の粗品を渡して早々に退散しました。
業者さんはこちらも不動産関係者という安心感からか、この辺りは水が出やすいとか、このマンションは排水が悪いとか平気で話すことが多いですね。お客さんには絶対言えないでしょうけど。
この業者さん回りの経験は、のちの人生にものすごく役立ちました。そもそも長年携わった情報システム開発は、知らない人達の寄せ集め的側面がありますが、誰に対しても臆せずに口をきけるのは、このときの経験が大です。たぶん。