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琉球新報・落ち穂 第10回掲載エッセー

「影」

 紅型を染めていて、好きな工程はどこですか?と、よく聞かれることがある。どの工程も好きなのだが「隈取り」は特に好きかもしれない。色差し筆と隈取り筆の2本を使い染めていくのだが、元々染めていた色よりも濃い色を差し、ぼかしながら陰翳をつけ立体感を出すように擦り染めていく。隈を差す色には決まりがあり、桃色系は赤隈、青系は藍隈など。その決まりに沿って染めていくため、統一感が生まれると共に、リズミカルに、布が歌を奏でているような印象を与える。
 工房にいた頃、色差しは女性のお化粧でいえばファンデーション、隈取りは口紅やアイラインなどポイントメイクにあたるから、怖い顔にならないよう、笑顔に染めなさいと教わった。また花だったら花弁の柔らかさを、石垣だったらその硬さを隈の差し方で表現するようにとも。隈によって大きく変わる染めの表情に、緊張しつつも、魅了されたことをよく覚えている。隈は濃い色のため、入れすぎるとベースで差した色を食べてしまうし、かといって足りないと、ぼんやりとした印象になってしまう。一発勝負なのだ。難しいながらも、これぞ紅型らしさ、でもある。この工程をとても愛している。
 紅型は沖縄の風景を布に映したようだとよく表されるがその中で隈取りは、影の部分に当たる。照りつける陽射しの元、影は深く落ちる。くっきりと強く。その陰翳をよく見つめながら、染めにも活かすようにしている。
 影があるからこそ、物は形を成して存在を強くする。それは人生とも重なるような気がする。影…失敗や、哀しみあってこそ、日々の何気ないことに喜びや奇跡を見出すことができる。わたしも若かりし頃は失敗も多く、人も自分も傷付けて、痛いばかりだった。併しながらそれらをバネとし、前を向き歩む原動力になっているところがある。今でも変わらない残念な所も多々あるが、恥ずかしながら致し方なく。せめて謙虚でありたいと常に思う。
 縁あってたどり着いた紅型染めの道はわたしにとって光と影。色の強さに滲む深みを表現できるようになりたい。



昨日最後のエッセー書き終えまして
ぼんやりしていたらきっと 
前回のnoteも更新が遅れたままになると思い
いそいそとUPしてる次第です。

沖縄の冬は雨と風と。
今宵も嵐のような夜です。
膝に猫のかぼちゃ。型彫り途中。

エッセーの振り返りは
次回のお楽しみとして取っておきます。


では、また。