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archive③編集後記の想い出~音楽誌編集部時代の出来事(2007.12,cocolog +)

今回は、かなりゆるい話しです。

今(2007年)から遡ること、20年(1986年)。20代まっただなかのわたくしは、とある出版社に勤務しておりました。その会社では、月刊誌や隔週週刊誌などを10誌ほど発行していました。

わたくしの同期入社は7人。入社時は、皆が憧れる雑誌編集部への配属は一人もいなく、全員がいつか雑誌に異動したいと切に望んでおりました。それはもちろん、雑誌編集がやりたかったからですが、同時に雑誌に異動すると「編集後記」が書ける! というのも大きかった。

「編集後記」はインターネットのない時代の発信ツール

なんじゃそりゃ? と思う方もいらっしゃると思います。そもそも「編集後記」が分からない方もいるかも…。雑誌のたいてい後ろのほうにある、編集部員が短い字数で雑感を書くコーナーです。

今でこそ、こんなふうに誰でも書きたいことを書いて世の中に発信できるような時代になりました。でも今から20年前の1980年代は、インターネットなんてものはなかった。何かを人に伝えるにはマスコミを、何かを読んでもらうにはその中の新聞・雑誌を通すしかなかったのです。

とはいえ、署名原稿を書けるような著者・執筆者になるには長い道のりが必要。そんななか、手っ取り早く自分の日常や思ったことを綴るには、雑誌編集者になってこの「編集後記」を書く、というのが最も速い手段でした。

さて入社2、3年が経つと、同期のうち、一人、二人と雑誌編集部へ異動する者が出てきました。わたくしも3年目の夏、7人中3番目に隔週週刊誌への異動が決まりました。
やった! 編集後記が書ける!! それは大きな楽しみでした。

今でこそ、そんなものを隔週で書かなければならないとなったら、かなり面倒な話しです。が、当時はこれが嬉しくてたまらなかった。毎隔週、次に何を書くか、前もってずいぶんと考えた。わずか100字程度のなかに、どれだけの自分のエッセンスを盛り込むか。。なにしろ、読者は多い号で15万人もいるのだし、下手なことは書けない! と自意識過剰の極みな感じでした(笑)。

当時よくオープンの撮影で使った神宮の絵画館前

雑誌リニューアルで「編集後記」のピンチ!

さて、何回か編集後記を書いているうちに秋になり、その雑誌は大リニューアルをすることになりました。同期で同じ編集部にいて、やはり編集後記に燃えていた友人Sと二人、心配がつのります。編集長は、編集後記のことをどう考えているのだろうか。

ただでさえ、編集者が誌面に出ていく当時流行りの現象をひどく嫌っていた編集長。「ギョーカイ」という当時トレンディ(笑)な言葉も大嫌いだった編集長。何度も続いたリニューアル編集会議も終盤。いっこうに編集後記の話しが出ないのにしびれを切らした友人Sが、おずおずと発言しました。

「あの~編集長、編集後記はどうするんですか?」

編集長は、そんなことは全くどうでもよかったのだと思います。想定外の質問に一瞬間をあけながらも、こう答えた。

「ん。。まあ、いらないんじゃないか」

友人Sとわたくしは、気色ばんで真っ正面から抗議した。

「いや、読者は編集後記を楽しみにしています」
「読者は業界関係者の様子を知りたがっています!」

すると編集長は、開き直った。

「今回のリニューアルはとにかく情報量を追及する! どんな小さいスペースでもとにかく情報優先だ!」

そして苦笑いして言った。

「俺の目の黒いうちは編集後記は載せん。まあ、俺が編集長から下ろされたら次の編集長のときは載せるように頼もう」

ああ、若いって知恵がない!

実はどうでもよかったことを、まともに会議の議題にして、まともに抗議してしまったがために、こうして編集後記の廃止はオフィシャルに決定してしまった。

あれから20年。もしあの時の自分が今の自分だったら、会議の席では話題にのぼらないように友人Sと打ち合わせ、リニューアル号のレイアウト時にこっそりデザイナーに指示して、編集後記のスペースをとってしまっただろう。ああ若いって知恵がない!

それから3年半、発行部数がじりじりと下がるなか編集長は異動になり、本当に編集後記が復活しました。しかし、なんと友人Sは、そのタイミングで編集後記のない月刊誌に異動になってしまいました(笑)。また自分はようやく再び編集後記を書けるようになったものの、その雑誌はその後1年で休刊してしまったのです。

あれから時代も変わったし、自分も変わりました。でも、何か書いていたい欲求は変わらないので、こうしてブログを書いたり日記や小説を書いたり、仕事でも原稿を書いたりしています。

なんとなく想い出したので、こんな話しを書いてみました。しかし、20年前のこんなどうでもいい話しをよく克明に覚えているものだなあ。
お付き合いいただき、恐縮でございました。

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