第172榮寶丸釈放帰国
宗谷海峡東方海上でロシアに拿捕されていた日本漁船第172榮寶丸が釈放されて、本日2021年6月11日午前6時ごろに稚内港に帰国しました。罰金約900万円を支払って釈放されたと報じられています。
これは国際法通りの手続きです。国連海洋法条約を見てみます。
国連海洋法条約
第5部 排他的経済水域
第73条 沿岸国の法令の執行
1 沿岸国は、排他的経済水域において生物資源を探査し、開発し、保存し及び管理するための主権的権利を行使するに当たり、この条約に従って制定する法令の遵守を確保するために必要な措置(乗船、検査、掌捕及び司法上の手続を含む。)をとることができる。
2 拿捕された船舶及びその乗組員は、合理的な保証金の支払又は合理的な他の保証の提供の後に速やかに釈放される。
3 排他的経済水域における漁業に関する法令に対する違反について沿岸国が科する罰には、関係国の別段の合意がない限り拘禁を含めてはならず、また、その他のいかなる形態の身体刑も含めてはならない。
4 沿岸国は、外国船舶を拿捕し又は抑留した場合には、とられた措置及びその後科した罰について、適当な経路を通じて旗国に速やかに通報する。
日本もロシアも国連海洋法条約の批准国ですから、ロシアが自国EEZ(排他的経済水域)で自国法令に違反したと判断した漁船を拿捕したこと、保証金の支払いが実施されたので速やかに釈放したこと、乗組員を拘禁したり身体刑を科したりしなかったこと、そしてそれらを旗国である日本政府に遅滞なく通報したこと、全てが国際法通りと言えます。
日本側、特に漁船や漁協が主張している「日本EEZ」内での漁労でありその証拠(船位記録など)もあるとの論点は、全く別の話です。前回「宗谷海峡漁船拿捕事件に思う」でも書きましたが、問題は日露間に海洋境界が画定されていないことです。
日本が主張するEEZの中で操業していた証拠をいくら示そうが、ロシアはロシアEEZの中で操業していた証拠を示してくるだけです。主張重複海域です。逆に言えば、日本は主張重複海域内で操業するロシア漁船を拿捕して補償金支払いと引き換えに釈放するわけです。
主張重複海域を放置している限りお互い何も進展しません。
日露間で海洋境界を画定できない理由は、領土問題を解決できていないからに他ならず、千島列島・歯舞色丹諸島・樺太をめぐる領土問題を解決するしかありません。
曖昧政策はもうやめましょう。しわ寄せと実害を受けるのは現場の漁業者であり、一般国民です。現実を見て、領土問題を解決し、海洋境界を画定させましょう。日露、日韓、日中、日台、そして日朝全ての間において。
実務海技士が海を取り巻く社会科学分野の研究を行う先駆けとなれるよう励みます。