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KAZU I 海難 2

 一昨日(2022年12月15日)、運輸安全委員会が「KAZU I 海難」に関する事故調査の経過報告書を公表しました。
 2022年4月26日の拙note記事「KAZU I 海難」で申し上げた事故原因に関する私の考えは外れていました。
 私は「浸水発生個所は船首外板(船底や上甲板を含む)。右舷船首外板の古傷が荒天の波浪衝撃で破られて破孔となり右舷船体内に浸水、機関室と主機が水没、電源喪失、操船不能、船首・右舷に傾斜しながら漂流、沈没に至ったものと思われる」と書きました。
 船舶事故調査官によると、「浸水発生個所は船首上甲板の倉庫ハッチ。船首上甲板の不良ハッチ蓋が荒天で暴れで吹き飛び船首船体内に浸水、船内隔壁開口部を通じて機関室と主機が水没、電源喪失、操船不能、船首・右舷に傾斜しながら漂流、沈没に至った」ということです。
 ハッチは蓋が閉鎖できない(ロック機構の不具合が放置されていた)不良状態であり、荒天航海の風浪と船体動揺によって蓋が暴れ、アルミ合金製のヒンジ部が脆性破壊に至り、蓋はちぎれ飛んですぐ後ろにあった客室前部窓を粉砕して行方不明となりました(乗客の皆さんは驚いたでしょうし、怖かったでしょうね。目の前で蓋がバタバタし始めた段階で、乗客のどなたかが操縦室に伝えなかったのか、が気になります)。
 船首上甲板にポッカリと穴が開いたわけです。そこから波浪の打ち込みで浸水が始まりました。船首に溜まった水は隔壁の開口を通って船尾区画へ進んでいきました。この開口は本来はないはずでしたが、なぜか隔壁に穴が開けられていたのです。こうして、船尾に向かって徐々に浸水区画が増えていき、主機が水没しました。主機内部や燃料配管内部には浸水の痕跡がなかったことから、主機に付属して主機を制御している電気電子系統の水没と電源喪失が主機を永久に止めたわけです。浸水が船首区画だけに留まっていれば沈没には至らなかったと試算されています。

 浸水破孔が違っただけで、大筋ではほぼ考え通りだったという見方もできますが、運輸安全委員会の経過報告で明らかにされた「船首ハッチの不良とヒンジの脆性破壊」「操縦室から船首甲板や客室前窓は見えない(死角)」「船首右舷外板には破孔なし」という物理的事実は重いです。私の考えは外れたというべきです。
 やはり軽々に事故原因の推測を公言することには慎重でなければならないと、自戒を込めて改めて思った次第です。物証が全てきちんと揃ったうえでの推定や議論でなければならず、特にコメンテーターやメディアには責任ある自重をお願いするところです。

 天災ではなく人災であったということがはっきりと示された、と理解してよいと考えます。
 海難減少の実現に向かって、海運関係者は自らをより律していかなければならないのです。

 さて、、、

運輸安全委員会は事故原因を明らかにすることが仕事で、再発防止の意見や勧告を出せます。

船員懲戒は海難審判所の仕事です。そのために事故原因を独自調査で明らかにします。運輸安全委員会の結果と異なることもあります。

刑事司法は海上保安庁と検察と裁判所の仕事です。そのために事故原因を明らかにします。運輸安全委員会や海難審判所の結果を用いることもありますし、独自調査で独自の結果を導くこともあります。

民事司法は保険会社や被害者(家族等を含む)と裁判所の仕事です。そのために事故原因を明らかにします。運輸安全委員会や海難審判所や刑事司法の結果を用いることもありますし、独自調査で独自の結果を導くこともあります。

 このあたりの分担の理解が不十分な自称専門家コメンテーターやメディアがはしゃがない、はしゃげない、そんな社会が本当の海洋国家なのだろうと思います。まだまだ遠い未来の話です。

実務海技士が海を取り巻く社会科学分野の研究を行う先駆けとなれるよう励みます。