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南シナ海島嶼領有権問題       ー多極化戦略で覇権戦略の抑止へー

東京海洋大学OACIS 2016年3月
https://oacis.repo.nii.ac.jp/records/1317

要旨

 国家間関係は相互の国家戦略によって描かれるのであるから、国家間問題の原因と解決策を探るには、其々の国家戦略を比較・検討する必要がある。アジアにおいては覇権主義的な強大国として中国の存在が指摘されている。中国と周辺諸国の間で摩擦が絶えない現状からは、中国が周辺諸国に脅威を与えて不信感を持たれている事実が浮かび上がる。更に南シナ海では、島嶼領有権をめぐって中国と周辺諸国の対立が顕著である。関係諸国間で国家戦略の妥協点が見つけられないままに、其々の政策実行が積み重なって、さらに妥協点が遠のく悪循環を生んでいる。本論文の目的は、南シナ海島嶼領有権問題を事例として、領有権主張諸国の言動から海洋戦略を明らかにして比較と考察を行い、悪循環から抜け出す方策を検討することにある。そこで、バランス・オブ・パワー戦略に基づいて中国に対抗するバランス極を南シナ海沿岸諸国で形成し、我が国が制限的な関与をするべきであると指摘した。
 本論前半部では、アジアの安定を脅かす海洋の問題点として、南シナ海における島嶼領有権問題の存在とそれが及ぼす影響を指摘すると共に、戦略を一般的視点から俯瞰し、海洋戦略とは何を源泉として実効性を持つのかを明らかにしている。
 本論後半部ではまず、南シナ海島嶼領有権問題の全体像を概観し、領有権の沿革とこれまでの平和的解決への取り組みを述べている。さらにアメリカを含む関係各国の行動から戦略を順次論じ、それら諸国の海洋 戦略や国際法解釈を検討し比較した。中国は言動の振れ幅が大きいため、国家戦略の中心線を見出すために伝統的な思想背景から検討した。そして、対中バランス極形成をめぐる問題点と課題を検討すると共に、我が国に期待されている役割を考察している。南シナ海島嶼領有権問題への関与が我が国にもたらすメリットとデメリットを検討すると、軍事分野において国益を毀損する可能性が見通せるため、我が国の関与程度は限定的でなければならない。
 最終章では、中立機関による南シナ海島嶼の科学的調査の実施と地理的事実の証明が国際的に共有されることが協議前提として必要であると指摘した。また、我が国がバランス・オブ・パワー戦略を明確に採用し、東南アジア諸国を中心とする対中バランス極の形成に非軍事分野に限定した関与を行
うならば、中国の覇権戦略はバランスされ、国際司法機関を活用しての解決に向けた協議に道が開かれ、海洋アジアの安定と、さらにはアジア全体の安定をもたらすと結論づけている。

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海洋政策・船舶科学 吉野研究室
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