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(33)2024年秋、近況。おじさんの章
若者
週のはじめに出社すると、20代の社員が2人同時に休んでいた。体調不良らしい。
季節の変わり目で気温差も大きく、その日は気圧もやたら低くて、僕も調子が悪かった。
中年社員が「若者は体調が悪い」と言った。
別の中年社員が「あいつはザコだから休みだと」と言った。
2人は笑っていた。
聞いていた僕は面白くない。
まず、体調不良で休んだ人をとやかく言うのが面白くないし、休んだ2人の年齢が近かったからといって、若者と括るのも面白くない。
「若者は未熟だから自己管理が行き届いていない」というニュアンスで、体調を崩したことと年齢に因果関係を見出しているのも面白くない。
「あいつはザコだから」呼ばわりは論外だが、その発言の主は休んだ彼の直属の上司で、付き合いも長く、仕事以外でもかなり仲が良い(ように見える)関係性。休んだ彼もいじられキャラなので、冗談でそういう茶化し方をされていることは理解できる(許容はできない)。
中年ふたりは、始業時間まで何人かに同じことを言っていた。遠巻きに聞いていてモヤモヤしていたが、僕にも番が回ってきてしまった。「若者は休みだって」「あいつはザコだから休み」
つまんね~と思いつつ、角が立たないように「季節の変わり目ですからねぇ」とニコニコしながら言ってみた。その自分の笑顔の醜さといったら。
「不愉快です」と言えずに、おもんないノリに合わせてしまったことを後から客観視し、時間差ダメージ。
そして、「若者」と括られたことを不快に思った僕もまた、彼らを「中年」とカテゴライズしていることにも気づいた。自分から遠い個を、個として観察せず、大括りにして理解した気になっている。同罪だ。あーやだやだ。
2週間前のことなのにまだ引きずっており、こうして書き出すことで、脳のメモリから追い出す。
「プロレス興味無いです」
入社したての頃に自分が発したひと言を後悔している。
社内に、プロレスをこよなく愛するおじさんがいるが、彼が若手を集めて、皆に何かをしゃべる会(内容は忘れた)があった。
彼は何か(1ミリも覚えてない)をプロレスに例えて、その後「若い子はプロレスわかんないか」と自嘲的に付け加えた。
僕は社会人になってから、常に明るくひょうきんで、おしゃべりな奴でいようと心がけている。最近自覚したが、僕は結構陽キャかもしれない。
おじさんの演説一辺倒だったので、その場の会話の空気を塗り替えてやろうと意気込み、若い子を代表して、僕は「プロレス興味ないです」と発言した。
その一言はうまく決まって、ひとウケしたと思う。
ちらと彼の顔を見たら、表情は笑っていたが、どこか悲しそうだった。
若い子Aが趣味を否定し、若い子B,C,D,E,Fも笑う光景。「プロレスの面白さが分からない」と共感したからこそ起きた笑い。さぞ悲しかろう。
彼の寂しい笑顔を見てしまった途端、自分のデリカシーの無さを自覚した。自分がおじさんになった時、20以上も歳下の子達に同じことをされたら、「自分今、おじさんすぎる!」と思って、どっと老いると思う。
この記憶がしばらく頭の中にこびり付いていたが、反芻する度に自分最悪じゃんという反省が強くなる。
趣味を笑ってしまったこと、ちゃんと謝りたい。
しばらくして、そのチャンスは訪れた。
彼がまた若手を集めて何か言う会(覚えてない)が開催されたのだ。
またプロレスの例えをしていたので、前に茶化してしまってすみませんでしたと伝えた。
意を決してみたものの、そんなことあったっけ?と拍子抜けされることも期待していた。大人はいちいちそんなことを気にしないだろう、と。
しかし実際はしっかり覚えられていて、なんなら「僕に言わせれば、プロレスを面白がれないとは人生損しているよ」と軽く仕返しをされた。
しっかり根に持ってるじゃん。ごめんて。
プロレスという趣味をおじさん扱いして笑ったばっかりに、おじさんというレッテルの向こうにある人格を、普通に傷つけてしまった。
若者が若者扱いされるのが嫌なように、おじさんはおじさん扱いされたくない。
そして、みな等しく、体の末端からゆっくりおじさんになっていき、気がついた時にはおじさんが完成しているのだ。
当たり前すぎる教訓が得られた。
わざわざ書かなくていい事を書いた。