鷺巣詩郎×天野正道の交響するパトス~『シン・エヴァ』サウンド・トラック
映画『シン・エヴァ』の鑑賞に続いて、そのサウンド・トラックとなる『Shiro SAGISU Music from“SHIN EVANGELION"』を入手したので、
通して聴いてみたそのファースト・インプレッションについて整理しておきたい。
Amazon商品ページ=『Shiro SAGISU Music from“SHIN EVANGELION"』
最後の“福音”のための音楽
『エヴァンゲリオン』シリーズを締めくくることとなるであろう『シン・エヴァ』において、
その音楽性は過去作に無い試みを付加することでさらに“シン化”を遂げている。
今作における音作りのテーゼや手法については、作曲者自身によって
付属のライナーノーツでこれでもかと披瀝されているので、野暮な口出しは不要だろう。
単に最後の物語を彩るうえで白眉となる“福音”の数々を以下にまとめてみたい。
タイトルバック伴奏を飾る「tema principale」(天野正道指揮/ワルシャワ響)は、
映画4部作の“終楽章”にあたる『シン・エヴァ』の、最後のメインテーマとして据えられており、
弦楽を前面に出したフルオケによる重厚な交響曲をもって物語世界の結末を表現している。
三拍子によるアダージョとマイナー進行が、フェデリコ・フェリーニ映画あるいはニーノ・ロータを想起させ、
映像作品として常に“新世紀”を歩んできた『エヴァ』が、過去の銀幕世界の一枚に帰化しようとしているかのような印象を与えている。
「yearning for your love」「hand of fate」等の幾つかのヴォーカル楽曲は、
本作での“日常と平和”を象徴する重要な働きを担う。
コード進行とコーラスワークからは、ビートルズのトラディショナル・ロックや、
エリック・クラプトンあるいはサイモン&ガーファンクルのアコースティック・サウンドを感じさせ、
傷ついた主人公たちを優しく包み癒すイメージと重なっているといえるだろう。
もともとヴォーカル曲として制作された「what if?」は壮大なオーケストラ(合唱付)となり、
“エヴァンゲリオン=福音”の訪れによるカタルシス、多幸感をもって、物語のクライマックスに相応しい。歌謡曲のブラスバンド等へのオーケストレーション・アレンジを得意とする天野正道の編曲によると思われ、ホルンのグリッサンドが吠えるまさにけれん味たっぷりだが、フィナーレには過剰な位がちょうどいい。
そして、今作のタイトルに付される音楽符号「:ll」をタイトルにする楽曲をラストトラックに配して、
本アルバム一曲目「paris」の主題をミニマル・ミュージック(=短いフレーズの反復と展開)形式を用い、リフレインの効果によって締めくくる。(主題のシークエンスには、マイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」等をモチーフにしたと明言されている。映画『エクソシスト』で有名。)
あたかも、終わることのない円環の中に物語が閉じられるという、
洒脱なアルバム作りとしてだけでなく、
『エヴァ』シリーズ繰り返しの仄めかしとして、邪推せざるを得ない。
すべてのSF作品への感謝
鷺巣詩郎作曲作品ばかりでなく、既存曲の大胆な使い方も『エヴァ』音楽における大きな特徴だ。
たとえば映画『惑星大戦争』(1977)から引用されている「激突!轟天対大魔艦」は、
エイトビート・ドラムとギター・ワウが冴えわたる古きよき´70sロボットアニメへのノスタルジィをもたらす。
あからさまな讃美歌「joy to the world(もろびとこぞりて)」編曲版には、
「主は来ませり」のフレーズで有名な日本語詩が採用されている。
同様に「ave verum corpus」は、モーツアルトの《K.618ニ短調》が引用される。
神の再誕の福音であると同時に、『エヴァ』シリーズが産声を上げた20世紀末=終末思想への回帰を思わせる。
「VOYAGER~日付のない墓標」(歌・林原めぐみ)は、小松左京らの映画、
『さよならジュピター』(1984)で使用された楽曲(原曲・松任谷由実)のアレンジだ。
(庵野作品の原点というべき『風の谷のナウシカ』とほぼ同時期の上映で、興行的には不発に終わっている。)
庵野監督の先達SF作品群に対する敬意と賛美と見ることができよう。
以上、これらクラッシック、エレクトロ、ロック、ポップスとあらゆる角度から語られる本作品群が、
『エヴァ』の物語の多元性そのものを表している、といえるかもしれない。
※引用画像=『Shiro SAGISU Music from“SHIN EVANGELION"』アルバム・ジャケットより
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