なんで?
嫌われ松子の一生 (2006/日本)
監督:中島哲也
出演:中谷美紀 瑛太 伊勢谷友介 武田真治
中谷美紀が女優をやめようと思ったとか、いやいや、撮影中はガンガン食べてすごいパワーだったとか、まあそういった裏話が流れるほど、これは彼女にとって特別な作品だったようで、なるほど、監督の過酷な要求に耐え、ハイテンションで力いっぱい演じ切っているのだが、できれば「大変だった」というエピソードを知らない状態で見たかったと思う。
だって「そんなギリギリのところでやった結果がこれかあ」なんて思いながら、見たくないよ。実際ギリギリでやってるし。
めくるめく色彩とテンポのいい演出。漫画を読む感覚で鑑賞できる映画である。そりゃ面白くないわけがない。「話は不幸の連続なのにミュージカル」という設定が成功の秘訣だろう。役者も脇役にいたるまで個性派ぞろいだ。
でも私はつくづく思った。
中谷美紀って、何をやってもなんて色気がない女だろう。だからソープ嬢をしても「堕ちた」という感じが全然しないし、場末的なファッションも板につかない。何だか哀愁や深みに乏しいのである。
晩年の太った汚れメイクだって、かなりムリがあるでしょう。だって目元を見たら、美人なんだもの。
これ、中谷美紀のコスプレ映画?
そのリアリティのなさがいいんだろうね。もし寺島しのぶタイプの女優が演じていたら、深刻になって全く別の映画になってしまうもん。
ところで私は、あの「松子が緊張するとやってしまう」というタコ顔に違和感あり。しつこかったし、正統派美人である中谷美紀の顔が極端に崩れるのが痛々しくて、「そこまでしなくても…」と引いてしまった。
とはいえ、父親を笑わせるために身についてしまったという哀しくも可笑しいこのクセは、見る者を戸惑わせる効果はあったと思う。
何よりも嬉しかったのは、出番が少ないのにインパクト大のヒモ男武田真治である。
乱れたリーゼントヘアに、日焼けサロンで不健康な褐色になったチンピラ風ジゴロ。はだけた胸元とお腹周りの筋肉がさすがだ。
松子の親友を演じた黒沢あすかも、とってもよかった。私はこの人の鼻にかかったような色っぽい声が大好きで、腹の据わり方といい、たたずまいに迫力と説得力があるので、AV女優で成り上がった姐さんにピッタリだ。
出演者の中で唯一「いいものを見せてもらった」という満足感があったのが、この武田真治と黒沢あすか。この2人を見るために、もう一度見たい。