矯正不可能な患者もいる
クイルズ(2000/アメリカ)
監督:フィリップ・カウフマン
出演:ジェフリー・ラッシュ ケイト・ウィンスレット ホアキン・フェニックス
18世紀フランス革命後、わいせつ文書頒布罪で逮捕され、精神病院に収容されたサド侯爵。彼の執筆への情熱と、その情熱に触発された人々の運命を描いたこの映画。
実はあまり期待していなかったんだけど、思わぬ拾い物だった。こういうことがあるから、映画を見るのはやめられない。
何しろサドは、「書かずにはいられない」という業を背負っているものだから、弾圧されればされるほど執念を燃やし、書く内容はわいせつ度を増してゆく。
精神病院でも、彼は小説を書き続ける。紙とペンを取り上げられたら、そこらへんのものを使って書き、そこらへんのものを取り上げられたら、自分が着ている服に血を使って書くのだ。
そうこうしているうちに、サドはとうとう、何にもない部屋でスッポンポンにされてしまう。
しかし、それでも書くサド。
でも、どこにどうやって?
あっぱれ!サド。もう、どうしようもない奴だ。
「クイルズ(羽ペン)」というタイトルが表す通り、サドは権力にペンで立ち向かったテロリスト。ただのエロオヤジではないのである。
サドが執拗に書き続けているのは、「人間なんて、お金があってもいばっていても、しょせんこんなものさ」ということ。挑発的でナルシストで孤独なサド。しかし、これほど強い反骨心に満ちている彼が、書けない状況に追いやられると、急にしゅんとしぼんで動揺してしまうのが、カワイイ。
この映画では、サドを取り巻く人たちの心の奥も、丁寧に描かれている。
悩める神父。偽善に満ちた権力者。そして、哀しい運命をたどる洗濯娘。
この3人を演じているのは主役級の実力俳優だが、彼らがうまい具合いに役にはまり、存在感が相殺してしまうことなく、物語に味わいを与えていて見ごたえあり。
要するにサドは、人間の心に何かを呼び起こす強烈な触媒の役割を果たしているのかもしれないね。
今まで考えたこともなかったけど、サドはフランス人だったのか。何となく納得。サドの最期は映画では憎らしいほど絶妙な演出になっていて、笑いながらも泣けてくる。死に方、最高!
サドの役をジェフリー・ラッシュがやってくれて、ありがとう。滑稽なほど破天荒なサドを、嫌味なく、そして哀しく演じられる俳優は他にいないだろう。
スッポンポンにされ、しかしカツラだけは被った姿で、面会に来た神父の耳元で悪魔のささやきをしているシーンが忘れられない。
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