ハックル!ハックル!
ハックル(2002/ハンガリー)
監督:パールフィ・ジョルジ
出演:バンディ・フェレンツ ミセス・ラーツ
ハックル!ハックル!
ハンガリー人がしゃっくりをすると、そういう音がするらしい。いや、ハンガリー語で、しゃっくりの音をそう言うらしい。かわいいね。
しゃっくりの音なんて人間誰でもそんなに変わらないだろうに、動物の鳴き声と同じで、聞こえ方が違うのが面白い。例えば、オケ(フランス語)。ヒカップ(英語)。シュルックアウフ(ドイツ語)。イポ(スペイン語)。イコータ(ロシア語)。
ということで、この映画はタイトル通り、しゃっくりで始まり、しゃっくりで終わる。
あるおじいちゃんが、朝起きて牛乳を飲んだあと、しゃっくりが出てとまらなくなる。外に出てぼんやりベンチに座っている間も、とまらない。
ハックル、ハックル…ハ、ハックル!
くしゃみをし続けるおじいちゃんのそばを、アリがウロウロ。トラックがでこぼこ道を走り去り、虫がブンブン飛びかい、遠く離れた工場では、ミシンがガタガタ動いている。若い女性のウォークマンからこぼれるシャカシャカした音。おばあちゃんが持つ鍬が土とぶつかりあうザックザックという音。
日常にあるそれらの音が、心地よいリズムとなって混ざり合い、そしてふと気がつくと、見慣れた世界がひっくりかえっている。
でもおじいちゃんは、そんなことには気がつかない。ハックル。ハックル。ただしゃっくりをしているだけだ。
セリフがない映画はそんなにめずらしくないが、この作品はそれに加えて、映像の斬新さに度肝を抜かれてしまう。
だって最初「なんだ?」と思っていたら、それが布を縫っているミシンのアップだったり、土の中をはいまわるモグラだったり、コップについた水滴だったりするのだ。
見たこともないミクロな世界に口あんぐり。でもそれが面白くて、つい笑ってしまう。
この映画には、映像にもリズムがある。
一見平和なハンガリーの田舎町で、何かが起こっている。なんだかよくわからないけど、すごいことが起こっているという不吉な予感がして、「目にするものを、すべてよく見ておかなきゃ」とナゾ解きに身構えていたら、いきなり飛行機が橋の下をくぐりぬけ、パイロットが「よっしゃっ!」とガッツポーズ。
はあ?なんだ、この人。これをただ、やってみたかっただけなのか?
こういう本筋とは全然関係のない遊びが入るのも、緊張と緩和というリズム感あってのことだと思う。センスいい。
現実ってこんなにシュールだっけ。頭がフラフラする。でも思い出すたびに頬が緩んでしまうシーンの数々。アキ・カウリスマキにも通じるユーモアが、クセになる。
最近はどこかで見たことのあるような映画が多いんだけど、この映画は嬉しいショックだった。だって、こんな映画見たことない。
それにしてもあのおじいちゃん。もうしゃっくり止まったかなあ。