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他の国と何が違う?
ボウリング・フォー・コロンバイン(2002/アメリカ)
監督:マイケル・ムーア
出演:チャールトン・ヘストン ジョージ・W・ブッシュ
「09年1月20日」「ブッシュ最後の日」と書かれたTシャツや帽子などのグッズが人気を集めているというアメリカ。中には任期終了までの時間をカウントダウンする時計まであるそうで、歴代の大統領でここまで退陣を待ち望まれている人は、今までにいなかったらしい。
で、当然ですが、この映画にも出ていますブッシュ。今見ると苦笑を誘うほど、脳内マッチョになっている強気のブッシュが。
ホントに「おさるのジョージ」に顔が似てるなあ。名前も同じだし。
いや、ブッシュでなく映画の話だった。
これは、コロンバイン高校で起きた拳銃発砲事件をきっかけに、なぜアメリカで銃犯罪がこれほど起きるのかを独自の取材方法で切ったドキュメンタリーで、初めてシネコンで上映された。地味なドキュメンタリーとしては異例の大ヒットである。
これほどまでの探究心と確信犯的な無邪気さで、アポなし突撃取材をしまくる監督など、今までいなかった。とうとうホワイトハウスから「危険人物」に公認されたというが、それこそ彼の思うツボかもしれない。
ま、ブッシュの本性など今やとっくにバレているわけだけど、この作品はそのきっかけの一つにもなったほどインパクトが大きかった。
でもよく考えてみると、攻撃される側からすれば、この人は本当に嫌な奴である。こちらが理論武装するヒマを与えないスピードで次々とぶしつけな質問を投げかけてくるし、初対面でも遠慮ゼロ。言うことなすこと嫌味ったらしい。またそれをわかってやってるわけから、始末に負えない。
なので、マイクを向けられた関係者たちの表情がすごいよ。サッと変わる顔色。引きつる頬。俳優の演技ではお目にかかれないこのリアルなリアクションこそが実はエンタメ。うーん、日本では考えられない攻防戦だ。
ところで監督の急所を突くツッコミは、取材される側に同情を抱きかねないほど容赦がないのだが、それを見ていて不愉快にならないのは、彼のあの巨体が大きく影響しているのではないかと私は思う。
つまり、あの熊のようなでかい体が緊張感を和らげ、皮肉を笑いへ、過激な言動をユーモアへと転換しているのでは?
野球帽をかぶり、あの巨体を揺すりながらガシガシ突進するからいいのだ。
これがもし「いかにも知識人です」「ジャーナリストです」という風体の男だったら、「そこまでやらなくても」「しつこい」という感じに映ってしまい、観客の共感は得られなかったかもしれない。
あの体こそ監督の最大の武器。この映画が娯楽作品になっているのも、彼の体が肥満だから。
というわけで、映画には監督自身が出なきゃダメ!そして痩せちゃダメ!
ところでドキュメンタリー映画は、監督の恣意が反映されていることを差し引いて鑑賞しなければいけないが、銃の犯罪が多すぎる原因として「アメリカ人は怖がっている」「マスコミが恐怖をあおっている」という展開には、説得力があるなあ。
何だかブッシュとアメリカがますます嫌いになってしまう映画だけど、こんな映画を作るアメリカは、やっぱりすごい。
監督は次作「華氏911」でアカデミー賞を受賞し、スピーチで「恥を知れ!ブッシュ!」と叫んだ。最新作は医療がテーマだって。関係者は、さぞかし戦々恐々としていることだろう。公開が楽しみだ。