猫になるって快感
バットマン・リターンズ(1992/アメリカ)
監督:ティム・バートン
出演:マイケル・キートン ダニー・デヴィート
田中邦衛が出ている。どう見ても田中邦衛。サーカスギャング団の一味で、帽子かぶって肩に子ザルを乗せていた奴。すごいなあ。邦衛。
それにしても、今までマイケル・キートンのバットマンが、カッコよくないし陰気だし、眉間のシワとパンチパーマぽい髪型がイヤだと思っていた。
なのにその後歴代のバットマンを知った今、改めてマイケル版を見ると、「バットマンは彼しかいない!」と確信してしまうのだから、映画(に限らないけど)って、最低2回は見直した方がよさそうだ。
心を閉ざしている雰囲気がいい。感情がよくわからない顔つきがいい。地味な存在感がいい。そういう昔は欠点だと思っていたことが、今は美点に見える。
要するに、それがわかる年頃に私がなったということだろう。
変身ヒーローは、間違ってもジョージ・クルーニーのようや「マスクをはずして助けに来て~」と言いたくなるような色男ではいかん。
スーパーマンしかり。スパイダーマンしかり。
変身した時の方が、頼もしくてカッコよく見えないとね。マイケル・キートンは、素顔よりもマスク顔の方がステキなので合格だ。
過酷な過去のせいで年齢のわりに老成している面と、城で執事と2人きりで暮らしてきたせいで、ウブな面もあるバットマン。つくづく屈折した男だよ。不器用で孤独な男だよ。本当は、そんなに強くないんだと思う。
そんなバットマンが、自分を殺した男に恨みを爆発させ、今まさに復讐しようとするキャットウーマンに、「一緒に帰ろう。君と俺は似た者同士なんだ」と言う。
ひゃ~っ。もしかしてプロポーズ?心に鎧を着ている女には、たまらない殺し文句だ。
ところがキャットウーマンは、「あなたと一緒に、お城に住めたらステキね」と涙ぐみつつも、バットマンを拒み、復讐を遂げる。女には女の意地がある。命を賭けても、やらねばならぬことがあるのだ。そのすさまじさと痛ましさが、何だか泣けてくる。
何よりも、ミッシェル・ファイファーがうまいんですよ。高い競争率を勝ち抜いただけのことはある!ハル・ベリーじゃ、最初からダメ!黒づくめのピチピチ衣装が似合う抜群のスタイルはもちろん、顔つきや頭の形がネコっぽく、マスクからのぞく鋭い目がいいよね。
このキャットウーマンは哀しい女だけど、コケティッシュな魅力あふれるオモロイ女でもある。
街角で襲われた女性を助けた後、「あなたに隙があるからよ!」って説教したり、バットマンに殴られて、急に「ひどい。私は女よ」と、か弱いふり。ムチでマネキン人形の首を落としまくった後、そのムチでピョンピョン縄跳びしたりしてさ~。かわいいの。だって猫なんだもん。
一方、奇形に生まれて親に捨てられ、「いつか地上に出たい。なんで自分を捨てたのか、親に聞きたい」と思って生きてきたペンギン男も、悪玉だけど憎めない哀れさがある。
ペンギンたち(←本物)に水葬されるシーンには、ジーンときます。
他のバットマン・シリーズの悪役は、ハイテンションなキャラがわざとらしいが、この映画の悪役2人にはそれがない。普通にしていても派手で変わっているし、ある種の寂しさがある。特にキャットウーマンにまつわる物語は、大人のドラマとして鑑賞可。
なので、シリーズの中でこれが一番レベルが高いと思う。他のやつは見直す気にはなれんが、これは別格。大好き。
そうそう。キャットウーマンの恨みを一身に受けるワルを演じているのが、クリストファー・ウォーケンなんだけど、この最期がすごいんだよなあ。今まで何度も、映画の中で殺されてきたと思うウォーケン。でも、こんな姿になっちゃうのは、初めてではなかろうか。ファンとしては、ちょっと複雑(マンガなので)。