理解できないけど愛している
たかが世界の終わり(2016/カナダ・フランス)
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:ギャスパー・ウリエル ヴァンサン・カッセル マリオン・コティヤール ナタリー・バイ
自分の死期を伝えるため12年ぶりに帰省した主人公と、突然の再会に戸惑う家族たちの様子が、スリリングな会話によって描かれている。
家族の葛藤を兄嫁だけが知らない。だから彼女は傍観者として、孤独な主人公と心を通わせることができるのだろう。マリオン・コティヤールの愁いを帯びた美しい瞳が、彼の気持ちを汲み取ろうとじっと見つめている。
ひょっとすると一番興味深い存在は、何かと主人公に突っかかってくる兄かもしれない。彼の攻撃性は恐怖の裏返し。弟の帰省目的なんか知りたくない。だから先回りして、弟の言葉を封じ込めようとする。
母と息子が2人きりになるシーンが好きだ。自分に香水をふりかけ、それを理由に息子を抱き寄せるしかないその寂しさ。
「理解できないけど愛している」ときっぱり言い切れる強い母性。派手なイメージとは裏腹に子供たちのことをよく観察している彼女は、やっぱりお母さんなんだ。
表情の小さな揺らぎまで映し出されてしまうから、私たちは顕微鏡で彼らの心の奥まで覗いているような気分になる。残された家族は、どこにも飛び立てずに死んだ小鳥を見つけるだろうか。