僕は2人を撮りたいんだと思います
FAKE(2016/日本)
監督:森達也
出演:佐村河内守 佐村河内香 新垣隆
本人は作曲をしていない。それに実は耳が聞こえるのではないか?
聴覚障害をもちながら『交響曲第1番《HIROSHIMA》』などを作曲し、“現代のベートーヴェン”ともてはやされた佐村河内守にゴーストライター疑惑が浮上。一転してマスコミからバッシングを受けた騒動から数ヶ月後に、この撮影は始まった。
これは、その真偽を確かめるために彼の自宅を訪れたテレビ関係者や海外のジャーナリスト、そして佐村河内本人とその妻の姿を追った貴重なドキュメンタリーである。
そこに映し出されているのは、世間から攻撃されて傷つき、疲労し、人間不信に陥っている繊細な彼と、自分の家族と疎遠になってでも夫を信じ、支えようとする妻。
約束と違う形で番組を流したテレビ関係者。監督の取材申し込みから逃げ回っているように見える新垣隆と神山典士。
監督によれば、彼は聴覚が不安定な感音性難聴なので「聞こえる/聞こえない」と結論づけるのはナンセンスだという。
つまり問題は、彼は本当に作曲ができるのか、著作権的にどこまでをゴーストライターと呼ぶのかというところに突き当たるようだ。
どんな物事にもグレーゾーンがあるはずなのに、情報を操作して善か悪かの二元論で報道するメディア。高く持ち上げ、何かあればすぐに叩いて落とすという単純な構図と、それを鵜呑みにして攻撃的になる大衆心理。その罪深さに改めてゾッとする。
佐村河内はオモチャにされてしまったのか?
下世話な好奇心で見てもよし。メディア批判としても見る価値あり。
それにしても、この神々しいまでの夫婦の絆は何だろう。息を飲むようなラストはスリリングで、しかも尊い光が体の中に沁みとおってくるような…久々に心の底から感動した。
もちろん、このドキュメンタリーに明確な答えがあるわけではない。何を信じ、何を信じないか。それは見る者に委ねられている。
CDを出せばいいのにね。
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