5年ぶりのR-1グランプリ
2021年のR-1グランプリ1回戦当日。
AM:10:00起床。
アラーム音は「ビー!ビー!ビー!」ってiPhoneの最初っから入ってるなんかすげー起きれるやつ。
なのに、ほんとは9:00に起きてネタ詰めようと思ってたけど寝坊した。
入りはAブロックで11:00だったので、かなりギリ。
エグいぐらいスヌーズ鳴ってたのに部屋が寒すぎて布団の中で25度寝ぐらいしちゃった。
急いで支度を済ませる。
陰陽師の格好をカバンに無理矢理押し込んで家を出た。
5年ぶりに出場するR-1グランプリ。
5年前のR-1はまだNSC生の頃。
当時やったネタはキャッチボールをテーマにした1人コントで、新宿のシアターモリエールでガタガタ震えながらやった。
そして、それはもう、想像を絶するほどにすべっていた。
6割ほどお客様が入った会場で、全員が呼吸を一斉に止めているのではないかと思うほどの静寂。
高校の入学式で最初の、全員誰とも喋ったことない状態で聞く校長先生の話のときぐらい静かだった。
あの時のちょっとうっすらボケる校長先生よりすべってた。やばいよまじで。
帰り道に同期と会って「めっちゃすべったわ…」と何度も何度も嗚咽するのを我慢しながら話していたのを覚えている。
今じゃすべっても「あそこが悪かったんだな」となんとなく理解できるけれど、当時はすべったショックと「いったい全体、俺は、なにをして、なにが起こったんだ…?」と帰り道の記憶が曖昧になるほどの大ダメージを受けていた。
あれから5年。
沼津の劇場で大騒ぎする高齢者60人が誰一人として喋らなくなるぐらいすべったり、500人以上いる神奈川のショッピングモールの営業で10分間ひと盛り上がりもしなかったり、ふつうに合コンですべりすぎて1時間で帰られたりなど、さまざまな「真・スベリラッシュ」を経験した僕は、100回りぐらい大きくなって帰ってきた。
R-1の当日に寝坊するぐらいには気持ちに余裕ができていた。
眠くなってしまうほどにあったかい車内の温度にウトウトしながら電車で会場へ向かう。
携帯のメモになんとなく書いたネタを見ながらどうしよう、これでいいかな、あれでいいかな、ちょっとだけ目瞑るか、を繰り返しながら。
頭の中で練習して、途中イヤホンから流れてくる曲に引っ張られて頭の中で歌っちゃって「あーだめだだめだ」とまた最初からやってを幾度となく続けていると、あっという間に会場へ到着した。
渋谷のシダックスカルチャーホール。
M-1の一回戦以来のこの会場。
前回は無観客な上に、M-1という一年に一回の人生を賭けた大勝負であったことから、夏ということもあってかダラダラ汗が止まらなかった。
「うわぁ、緊張してきた」
一人で、はっきりと声に出して会場の前で呟いた。
エレベーターで最上階に上がり、受付でエントリーフィーの2000円を払った。
「(知ってる人いるかなー?…あ!いた!)」
他事務所のアントワネットの山口さんがいた。
山口さん「R-1グランプリだからって気を抜くなよっ!」
僕のディープの真似をしながらそんなことを言っていた気がする。
一気に緊張が解けた。
山口さんは僕の3つ後ぐらいなので、出番は僕の方が先だった。
山口さん「めっちゃすべって欲しいなぁ」と冗談混じりで僕に言ってきたので、すかさず、
「ごめんなさい、イチウケ取っちゃいます」
と、持ち前の「かまし」をお見舞いした。
山口さんはニコニコしていた。
どうせ「かまし」たなら爆笑取りたかったけれど、たぶん顔がひきつりながらかましちゃったもんだから、山口さんの心を射抜くことができなかったっぽい。
「エントリーナンバー1440番の方ー!」
エントリーナンバーたしか1440だったっけな?あんま覚えてないけど、とりあえずスタッフさんに呼ばれた。
山口さんに「いってきます」とグッと眉間に皺を寄せながらアゴを引いて言った。
長い廊下で、陰陽師の格好をしながら、両手にカバンと洋服を持って順番を待つ。
MCのはりけ〜んずさんが会場を温めている声が聞こえる。
「やべぇはじまる」
周りに聞こえない程度にこっそり呟いた。
「それではAブロックですどうぞ!」
はじまる。
ふぅー、と細く長めの息を吐いた。
僕は16番目ぐらいだったので、15人の芸人たちのネタは全て聞こえてくる。
そのどれもが結構ウケていた。
どんどん近づいてくる出番と、ウケて終わっていく芸人たち。
怖すぎるって。
これでウケなかったらまじで終わりじゃんか。
持っている荷物がガタガタ震え始めた。
出番まで残り1人。
「どうぞー!」
気付いたら一個前の人の出番が終わり、スタッフさんからの合図が出ていた。
「こうなったらやり切るしかねぇ」
そう意気込んで、板についた。
音楽がフェードアウトし、僕の5年ぶりのR-1グランプリがいよいよ始まる。
一言目で噛んだ。
会場全体に「こいつ噛んだ」っていうあの絶妙な空気が流れ始めた。
耐えろ笹本。
耐えるんだ、、、!!!!
そして2分間という短いようで永遠のように感じるネタ時間が、バーンという音と共に強制終了で幕を閉じた。
「ありがとうございました」
そう言って強制終了の照明で真っ赤っかになった舞台から足早にはけていった。
あれ?結構ウケたぞ??????
5年前の僕では味わうことのできなかった、笑い声に包まれた1人コント。
それまでの15人の人たちと比べても結構ウケた方だった。
緊張からの解放と、ウケた安心感でふらふらで荷物をまとめていると、
「すいませんR-1のスタッフなんですけど、お話し伺ってよろしいですか?」
スタッフさんから声をかけられた。
目がうつろな状態の陰陽師は「あ、あ、あ、はい!」と「あ」を3回ぐらい繰り返したので、「こいつやばい」みたいな顔された。
写真を撮られて見せてもらったときに、初めて自分の黒目がグレーになっていることに気付いて撮り直してもらった。
ほのかに残るグレーの香りを必死に表情を作ることで隠した。
「なにかTwitterに載せたいコメントはありますか?」
と聞かれ、なんか5分ぐらい話したけど、何言ってるか自分でもよくわかんなすぎて、スタッフさんがずっと絡みづらそうな顔をしていた。
「ま、まぁ、なんか今のところからどこか使わせていただきます…!」
「いっちゃってください!」
最後まで上手く喋れなくて本当に申し訳ないことをした。
着替え終わり、会場を後にする。
すると9番街レトロなかむらから電話が来た。
「どこおんのー?」
「いまR-1終わって帰ってるところ」
「どやった?」
「うーん、まぁ悪くなかったかなぁって感じ」
「あ、まじ?俺今からいってくるわ!」
「いってらっしゃい、頑張って!」
ほんとは結構手応えあったけど、結果でるまではちょっと謙虚めに報告した。
その夜。
5年ぶりのR-1グランプリ1回戦を合格していた。
山口さんも、なかむらも通っていた。
なんだかすごくいい日になった。
なかむらも安心したのか、結果速報を見た後にすぐ僕に電話をしてきて、お互いに喜びを分かち合い、そして「まじでこっから本気でやろう」と1時間ぐらい高めあった。
M-1が終わって年明けの番組も終わり、燃え尽きたヒエヒエの身体をまた熱くさせてくれている。
やっぱり賞レースは楽しい。
5年前は、ただガタガタ震えることしか出来なかったこの大会をいまはワクワクすることができている。
たかが、一回戦と思うかもしれないけれど、あの校長先生ぐらいすべって胃もたれした過去を思い出すと大きな進歩だ。
まだまだR-1は始まったばかりだけれど、手を抜かず、勝っても負けても本気で悔しがれるぐらい頑張ろうと思う。
次の2回戦でいきなり、膝が震える音が聞こえるぐらいすべったりしないでくれよな、俺よ。
2021年も、真っ直ぐ一歩ずつ進むぞー!
おー!!!たますぃー!!!!!
先輩を呼び捨てにしちゃってる大ちゃんのツイートやばー!