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高いフィラメントは待っていればいずれは安くなるのか
フィラメントは安価なものもあれば高価なものもあります。中には100gあたり1万円を超えるようなものもあり、なぜそんなにするのかと思いたくもなります。
「普及の段階なので、今は高くてもいずれは安くなっていくのでは…」たしかにそういう考えもあります。世界中でその材の普及が進み、世界中であまねく使われるようになればその通りです。
一例がPLAでしょう。PLAフィラメントは3Dプリンタが普及し始めた2013年ごろは、500gで5000円くらいが一般的でした。PLA樹脂は、環境素材として欧米が主導して樹脂を世界中に普及させたために、結果として今の価格にまで下がってきています。3Dプリンタの世界にいると、3Dプリンタの普及によってPLA樹脂が安くなったようにも見えますが、樹脂全体からみたフィラメント用途はごくわずかであり、決してそうではないということです。
PLAは、時期的に樹脂の普及と3Dプリンタの普及が重なったため、幸運にも価格は大幅に下がりましたが、たとえば国内で開発され、ほとんど国内でのみ流通しているような樹脂は、流通量が増える見込みがありません。残念ながら今後日本の製造業はよくて横ばいで、成長していく可能性は大きくありません。世界を目指さない材料は、価格が下がるラインには乗らないということになります。
それでも「技術革新で安く作れるようになる可能性もあるのでは?」とも思いたくなりますが、樹脂なり樹脂コンパウンドは、製造業の中でも融通が利きにくい世界に立脚しています。工程はあらかじめ決まっていて、レシピを容易に変えることすらできないという世界です。IT産業のようにイノベーションが簡単に起きる分野でもありません。
逆にこの手の材料は、長期的には原料高の逆風を受ける可能性の方が高いです。日本は今後貿易赤字の拡大が見込まれており、円安進行は構造的なものとして定着していく可能性があります。樹脂や添加剤など原料の他にも、人不足から加工賃が上がっていきます。こういうコストもすべて材料に反映されます。海外製の特殊フィラメントも高額ですが、海外の方がインフレは高いこと、日本のようにコスト増を製造業の中で吸収するという認識が薄く為替の影響をストレートに受けやすいことから、特殊品は海外製の方が価格上昇のスピードは速いと考えられます。
悲観的なことをあおるわけではありませんが、今の国内外の状況から考えると、もともと高い材料はさらに高くなる可能性はあれ、安くなる可能性は極めて低いというになります。受け入れにくいことではありますが、これは基礎知識として知っておく必要があると思います。