日本お米ばなし vol.38 歴史編「雷はどうして稲妻というの?」
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日本では、雷のことを「稲妻」とも呼びますが、これは一体なぜでしょう?今回はこのちょっとした疑問を解説していきたいと思います。
雷という漢字
雷は「雨」と「田」に分解できる会意文字です。
雨と田んぼを連想させますが、雷という漢字の成り立ちをたどると元々は田ではなかったことがわかります。
現在の雷という漢字に使われる「田」は1つですが、旧字体では3つになっています。さらに遡り、甲骨文字では「雷」という文字の中央の湾曲した弧は稲光を表し、稲光の周りの円は稲光の後の巨大な爆発音響を示していると推察されています。
その後、金文では雷が雨のときに発生することから、雨の記号が上に付いています。
このように稲光の形やゴロゴロという音を形にした文字が時代とともに簡略化され、現代の「雷」という文字になったと言われています。
なぜ、稲妻と言われるのか
農業において、作物の成長に重要な役割を果たす養分のひとつに「窒素」があります。
窒素は空気の成分の約8割を占めますが、植物は空気中の窒素を直接取り込むことはできません。これを科学の力を使って、空気中の窒素からアンモニアを合成する方法を発明したのがフリッツ・ハーバー、そして大量に合成する方法を開発したのがカール・ボッシュです。こうして空中の窒素からアンモニアをつくる「ハーバー=ボッシュ法」が完成したことで、化学肥料が誕生し農業は飛躍的に生産量を高めることになりました。
では、化学肥料が登場する前はどうしていたのでしょうか?
日本では山地の草を灰にしたり(今でいう草木灰ですね)、人糞尿を使ったりしていました。江戸時代からは干鰯(ほしかと読む。イワシを乾燥させて製造した有機質肥料の一種)やニシン粕、菜種粕なども使用されていました。このあたりは札幌市にある「北海道博物館」で展示を見学することができます。
ヨーロッパでは牛糞や馬糞を木屑やわらとともに発酵させる「堆肥」が使われていましたが、日本では家畜の糞尿はそれほど重要な肥料ではなかったらしいのです。
それでは、ほかに植物が窒素を得る方法はあったのでしょうか。
植物は空気中の窒素を直接取り込むことができないと前述しましたが、なんと、土壌中の微生物には空気中の窒素を植物が吸収できるかたちに変えてくれる者たちが存在します。
代表格は「根粒菌(こんりゅうきん)」です。根粒菌は空気中の窒素を固定してアンモニアにします。
皆さんは「れんげ米」をみかけたことはあるでしょうか。れんげの根には根粒菌が共生しています。春先に田おこしするとき、田んぼにすき込むことで根粒菌がつくったアンモニアを稲が利用することができるのです。
雷も同じ力を持っています。雷は放電によって空気中の窒素をアンモニアに変え、雨とともに土壌にもたらすことができるのです。雷は稲を成長させる大切な存在であるため、「稲の妻」=「稲妻」と呼ばれるようになったという説があります。
昔の人は、雷が鳴るたびに今年は豊作になりそうだと喜んだとも言われています。
おわりに
昔の人の知恵や言い伝えは、現代に活かしたいことがたくさんあります。
ちなみに、「雷の多い年は豊作になる」という言い伝えは、島根県松江市の高校生がカイワレ大根を用いた実験で科学的に証明しています。
今回は「稲妻」の語源から窒素のお話も出てきましたが、この辺りはまた別でご紹介できたらと思います。