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深夜の駐車場で眠るヨッパライ

10年前にあった出来事を話しても、当時すでに自分自身が社会人であることに、俺ってトシ取ったなぁと思ってしまう。

今はもうなくなってしまったんだけれども、当時たくさんの飲み屋がたくさんある繁華街の中に、古い食堂があって、そこの至って普通のカレーが好きだった。仕事が長引いた後の深夜なんかに、1人で食べに行くことがよくあった。
当時は今よりもカネがなく、「どうやって生活していたの?」なレベルの稼ぎだったので、1000円未満のカレーをたった1杯だけ食べて帰ってくる。ただそれだけが日々の楽しみだったりしました。

あれは7月の暑い日の夜だったと思います。いつものように、仕事が長引いて、職場を出たのは日付が変わった深夜0時過ぎ。腹が減ったので車で真っ直ぐ繁華街へ。向かう先はもちろん、例のカレーが食べられる食堂であります。いつも利用する駐車場に車を停めて、歩いて食堂へ。「おばちゃん、いつもの!」・・・なぁ〜んてことを言えるほどの常連ってわけではないのですが、普通に「カレーお願いします。」と、カレーを注文し、こんな時間だってのに暖かいカレーが食べられることに感謝しながら、いつもと変わらず美味しいカレーを食べて、代金を払って食堂を出ました。

そのままもう1件・・・なんてことをするほどカネなんかなかったし、そもそも俺は車でこの場所に来ているので酒を飲みに行くわけにもいかない。約30分前に車を停めた駐車場に行き、愛車に乗り込もうとしたのですが・・・来たときと明らかに違う光景が広がっていた。
俺の車が当て逃げされたとか、イタズラでペイントされたとか、そういうわけではない。

なんと、俺の愛車の前に、人が倒れている!!!
これは大変だ!病気で倒れた?怪我をした?
路上で人が倒れているなんて、この国ではなかなか見られない光景だ。
しかも、俺の車の前でだ。
まさか俺が駐車する時に轢いてしまった?
いやいや、そんなわけない。車で人を轢いたら衝撃でわかるだろう。
しかも、こんな場所で倒れていたら降車した時にわかるだろう。

とりあえず、この人をどうにかしないと。
救急車を呼ばないといけない事態なのかも知れない。ウダウダしている場合じゃない。

恐る恐る近づいて、まずはこの人が息をしているかどうかの確認。
「あのぉ〜、大丈夫ですか?」
生きているか死んでいるかで言うと、多分生きている。
俺と同世代か、少し上くらいの世代の男性の方だった。
いや、「人の死体」を見慣れているわけではないので、「死んでいる」の基準がわからない。
なんとなくの感覚だけれども、身体が硬直しているとか、そう言う雰囲気はない。
「すみませ〜ん、大丈夫ですか?」
勇気を振り絞って、今度は身体をさすってみた。
相手の身体にはじめて手が触れた瞬間だった。

その瞬間、わかった。
めちゃくちゃ酒臭い!!!
なんと、この人、酔い潰れてこの場で寝てしまったようだ。
そこそこに広い駐車場だ。他にも空間がある。
外で寝るのはどうなんだって話だけれども、安全に横になれる場所は他にもいくらでもある。
なのに、なぜよりによって、俺の愛車の前で!?!?

気になるのは、酔っ払った人が「どう寝たか」と言うことである。
歩いて帰ろうとしていて、力尽きて、その場でゆっくりと横になったのか。
それとも、勢いよくドカーンとコケて、その場に倒れ込んでそのまま寝てしまったか。
もしもそうだったら怪我をしているかも知れない。
擦り傷とかだったらいいけれども、頭を打ちつけて裂傷なんかしていたら大問題だ。
今こうして寝ている間に、頭からトクトクと血が流れているかも知れない。

それがないかどうかを確認させてもらった。
熟睡して何も返事をしない彼に「ちょっとすみませんね〜。」と言って、頭部を見させてもらった。
どうやら、頭部からの出血はなさそうだ。
というか、というかだ。
なんで俺が「すみません」って言わないといけないのだ。
こいつは勝手に酔っ払って、勝手に俺の車の前で寝ている人だ。
迷惑なのはこっちだ。なんで俺が「すみません」なんだ?
だんだん腹たってきたけれども、どうにかこの人をどかさないと、俺は帰ることができない。

警察を呼ぶか?それは救急車?
今から通報したとしても、通報から到着まで俺はここで待たないといけない。
その分、俺の帰宅時間が遅れてしまう。
あとはよくわからないけれども、警察や救急隊員を呼んだあと、第一発見者は俺なわけですから、事情聴取みたいなのを受ける可能性もある。
どのくらいの時間がかかるかはわからないけれども、それを受けた時間分、俺の帰宅時間が遅れるわけだ。
どこの誰だかわからない酔っぱらい相手に、俺は俺の時間を奪われるのか?
なんだかなぁ〜・・・って思っていると、そこになんとタイミングよく赤灯をつけたパトカーがやってきた。

「すみません、オマワリさん、こっち来てくださ〜い!!」
と、俺が言う必要がないくらい、まるでこっちに目掛けて来たかのように、オマワリ登場。
同時に、オマワリから俺がどんなふうに見えているかを頭の中でイメージした。
もしかしたら俺が男性を怪我させて昏睡状態にしているように見られるかも知れない。
もしくは車で轢いてしまったか?いや、車を綺麗に駐車しているわけだからそれはないか。
でも、オマワリから俺がどう見えているかが気になる。

「あ・・・いやいや、そうじゃないんですよ。これは・・・!」
まるでアニメのシーンのようにあわわしていると、オマワリは
「酔っぱらいですね。」と、すべてを知っているかのような会話をしてきた。
話を聞くと、どうやら少し前に「駐車場で酔っ払いが寝ている。」と通報があったらしい。
パトカーからもう1人のオマワリが登場。
「通報した人ですか?」「いやいや、違うんです。この車の持ち主なだけです。」「ああ、今帰ろうとしていたんだね。邪魔になっちゃうね。今移動させるからね。」
そう言って、オマワリ2人は酔っ払いを起こそうとするけれどもなかなか起きず、それぞれ脚と肩を持って酔っ払いを安全な場所に移動。
「はい、これで大丈夫。もう帰っていいよ!」
あとはオマワリに任せるカタチで、俺はやっと帰宅することができました。

時刻は深夜1時過ぎ。大人が活動する時間には、こんなことがあるんだな、なんてことを大人になったばかりの俺が思ったりもしたのでした。
年度末のこのクソ忙しい時期に「昔残業の後にカレーを食べに行ったな。」と言うことを思い出し、同時にこの日のことを思い出したので今日のテキストのネタにさせていただきました。

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