大正ロマンの世界がYou Tubeに降臨〜再生産される高畠華宵

愛媛県松山市、のお隣の東温市にある美術館「高畠華宵大正ロマン館」をご存知でしょうか。久しぶりにHPを覗いてみましたところ、You Tubeチャンネルが出来ていて、大変驚きました。

この美術館はその名に冠されている画家「高畠華宵」(たかばたけかしょう)を顕彰するために作られました。たかばたけかしょう、ご存知でしょうか。大正ロマン、昭和モダンの代表的アーティストです。

また、当時の人気は言うに及ばず、現代の我々の目に入りやすいところにも影響を及ぼしています。丸尾末広氏の漫画に引用されていたり、唐十郎氏の公演ポスターに使われていたりしており、現代カルチャーとの繋がりは度々話題に上がります。ちなみに高畠華宵大正ロマン館では丸尾末広氏とのコラボ展覧会が行われています。

華宵は1888年(明治21年)に愛媛県宇和島に生まれました。当時の宇和島は非常に栄えており、華宵は裕福な商家の次男として育ちます。青年になり、京都・東京で画家修行を行いました。華宵は日本画や広告画も描きますが、彼を押しも押されもせぬ存在にしたのは、大正から昭和初期にかけての挿絵画家としての成功といって差し支えないと思います。

大変な人気者だったという華宵。今の感覚でいうと、どういう感じでしょう。超人気漫画家とかアイドルとか、そういう感じじゃないのかな、とか思ったりします。当時の雑誌は、人々の心性や生活に深く深く入り込んでいました。特に少年少女たちにとっては、夢や憧れが詰まっているメディアでした。華宵さんに会うために家出して、華宵邸に押しかける少年少女が沢山いたといいます。

高畠華宵大正ロマン館は、開館以来、この華宵を中心に大正文化、またそこから影響を受けた現代の文化を様々な視点から紹介しておられます。長きにわたり、ひとつのテーマを軸としながらも実に多様な視点でそれを分析し続けている稀有な美術館だと言えます。

そして、話は冒頭に戻りまして。「高畠華宵大正ロマン館You Tubeチャンネル」について。

動画は「WEBで楽しむ華宵作品と大正サブカルチャー」と「華宵が描いた絵本の読み聞かせシリーズ」の2種類に大きく分かれているようです。前者もめちゃくちゃ面白いコンテンツなんですが、今回は後者の絵本の方をご紹介します。

昭和初期、雑誌の挿絵画家として一世を風靡した華宵の、戦後で特筆すべき仕事は、絵本の挿絵シリーズです。講談社や小学館などから出版されました。You Tubeではいずれも講談社から出版された6作が取り上げられています。昭和28年から33年頃の出版でしょうか。

(1) しあわせの王子
(2) 白鳥の王子
(3) 雪の女王
(4) ヘンゼルとグレーテル
(5) 小公女
(6) 星の子

絢爛豪華な色彩溢るこれらの絵本をWEBで、しかもページがきちんと見開いた状態で見ることができるなんて幸せなことです。『雪の女王』の「百合の花のベッド」は可愛すぎするし、『少公女』のむせるぐらいの女子色全開もAKB48の「ヘビーローテション」MVか?っていうぐらい、ポップです。どれもオススメできます。

ふたりの王子

そんな中で特に取り上げたい「ふたりの王子」。『しあわせの王子』と『星の子』。いずれも作者はオスカー・ワイルドです。ワイルドには2人の息子がおり、息子に向けて童話を作ったと言われています。ワイルドの童話は偽善者を許さないシニカルなものでありながら、同時にまた、優しく思いやりに溢れ、胸を締め付けられるようなものが多いです。「しあわせの王子」と「星の子」も、どちらも優しい。『しあわせの王子』は比較的よく知られているので、ここでは『星の子』を特におススメしておきます。

「しあわせの王子」は当然のことながら最初から〈王子であります〉。でも最後には王子としてではなく、ひとりの人間として温かさや真の友情を手に入れます。

一方、「星の子」は〈王子になる〉物語。実際は生まれながらに王子であった「星の子」も生まれだけでは王子になれない。生まれたあとの生き方により改めて王子の称号が与えられるという点がとても興味深いところです。

あくまで個人的見解なんですが、『星の子』の表紙はあんまり可愛くない・・・かもしれないのですが、ぜひ再生してみていただきたいです!ページをめくると、あらビックリ。

華宵の絵本、色っぽすぎる問題

また、別の意味で華宵の絵本って、可愛くない絵が結構あるんですよ・・・。元々華宵は色っぽい絵を描くので、戦後の子ども向けにおいてもそれがどうやっても隠しきれていない!

特に『星の子』なんて後半はズタズタボロボロギッタギタの服になっちゃって、本当だったら「かわいそう」ってならないといけないのでしょうけど・・・エロいんですよ。ポーズとか肉感とかね。食うにも困っているはずなので、むちむちなんだもん。足の描き方とかもさあーっ!

えーっと、暴走気味にずれてしまいましたが、気を取り直して、これだけ言わせてください。

華宵の絵本原画はめちゃくちゃに美しいです!!宝石みたいです。

展覧会内容次第で高畠華宵大正ロマン館で展示されることも今後あると思いますので、ぜひ見ていただきたいです!

複製可能なメディアと華宵の連鎖は続く

最初にYou Tubeに「高畠華宵大正ロマン館チャンネル」が出来たことに大変驚いたと書きましたが、よくよく考えてみると、実は親和性の高いものなのかもしれません。華宵は肉筆画も発表していますが、熱狂的に世に受け入れられたのは、雑誌に代表される複製可能な印刷物を通してでした。

複製可能な印刷物は受容者の枠を広げ、人々の生活に、人生に入り込み、共に歩んでいくことが出来る。

華宵の絵は再生産され、人々の中に入っていく。そんな当時行われたことが100年近く経った今、You Tubeというメディアを通して再び行われていることにワクワクします。




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