「博士」は続くよ
「ま、始まりや。今からが。」
とは、K教授が私に投げかけた言葉。博士論文の公開発表会後、講評の終わりかけの時のことです。
「いやいやいやいや、終わりやし・・・!」(心の叫び)
博士号取得後に研究者になるという将来構想は全くなかった私にとって博士論文の提出は、すごろくでいうと「あがり」といいますか、20代の時間とお金の多くを割いた研究との美しき決別であり、また、研究者になれないこんな私を長年にわたってサポートしてくれた先生をはじめとする周囲の方に対するけじめみたいなものだったので、完全に博士号取得はひとつの終わりのはずでした。
しかし、その後、このK教授の言葉が本当であったことを思い知るタイミングが何度かやってきます。博士号取得の後、なぜかカルチャーセンターでお話させていただくことになったり、博士学生のキャリアサポートのお仕事を振っていただいたり。「あれ・・・?研究者じゃないのに、博士をとったことで何か期待されるようになってる・・・?」有り難いと思うと同時にその度に責任みたいなものも感じるようになってきました。博士号を持つことは期せずして何か果たすべき責任を持つことになるのかと。そして、その何度目かが今。
私は現在、大学生のキャリア形成支援にささやかながら関わらせていただいており、何年か前には博士課程に在籍する学生さんをサポートする機会を得ていました。しかしそれも諸事情により継続的には行われず、その後その立場から外れていました。
先日、数年ぶりに博士対象の就職セミナーを見学しました。以前関わらせていた時に比べると、全国的なサポート体制が整備されていて素晴らしいなと思う一方で、あの頃と変わらない課題もあることが分かりました。いくつかある課題のひとつが、「アカデミックな世界以外で生きている文系博士を探すのが大変」ということです。つまり、実例が提示できなさすぎて、研究者以外のイメージを持ちづらいということです。
私自身が立派なロールモデルになれると思っているわけでは全くありません。ただ、私が考える博士課程学生さんのキャリア形成の肝は「視野を広げること」。これに尽きると思っています。多様性の一葉になる希望を抱え、文系博士の息づかいをこの世にすこーしだけ残す試みを始めました。
「ま、始まりや。今からが。」とニコリともせずに言い放ったK教授。何もかもお見通しだったのでしょうか。