五つの短編(ショートケーキ/終電/ネヌサッタ/トナリビト/灰色の球根)

ショートケーキ

まるで、スポンジやクリームと同化(どうか)しているように、いちごはスポンジの上に乗っている。だが、スポンジとクリームといちごは全く違うものなのに、「ショートケーキ」と一体化して呼ぶことのほうが、狂人よりどうかしている。

終電

このままだと終電に間に合わない。
あるサラリーマンは息を切らしていた。
やっと駅についたところだったが、足取りでキセルと間違われ、かばんとポケットの中を、長々とチェックされた。
駅の階段で酔った中年男に絡まれ、やっと階段にたどり着いたときには終電はもう過ぎ去っていた。
電車に乗ることができなく、携帯を失くし、おまけに電車に轢かれる自殺もできない。
彼は運命を絶望した。殺人犯とよく似た己の顔によって、手錠をかけられることになるのだから。

ネヌサッタ

ネヌサッタは神だ。だが、神に神と認められていない、いわば非公認の神だ。
なぜかというと、神がネヌサッタその人を知らないからだ。

トナリビト

アメリカのブリデンフォーク街に住むオットーと、痛みを感じると発作を起こすラッソー。
オットーがラッソーの家に立ち寄ると、近くのシャチャリー診療所の窓が割れ、二人はそこへ行った。扉を開けると、そこは死体の山。
医者はいたが、よく見るとしゃれこうべの上に、乱暴に白衣とズボンが被せてあるだけだった。
オットーはびっくりして飛び上がった。その頭がラッソーにぶつかり、彼はわめき出した。
「医者がいてくれれば、診てもらいたいもんだ。」
オットーは言った。
それを不審に思った警官たちが、オットーとラッソーを追いかけた。
なんとか家へ戻れたが、その日から警察の
「速やかに出てきなさい!」
という声が街中に響き、ブリデンフォークの誰も彼もが眠れなくなったという。

灰色の球根

ある日、少年は灰になった球根を発見した。
火を燃やすために火の中に投げ込んだのだろう。
それぐらい少年の家は貧乏なのだ。
貧乏で死ぬという最もみじめな死に方から逃れるには、この球根を犠牲にしないといけないのだ。

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