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気づき

マスダとクリタは自転車で、いつもの街を自転車で駆け抜けている。
小学校からの幼馴染の彼らも、なんだかんだで安定した職に就き、土日の休暇を楽しんでいた。
信号を通り抜け、マンションの横を通り過ぎようとした時、マスダは並走しているクリタにこう言った。
『自転車、降りて』
『えっ?』クリタは困惑した。
『降りてッ!』先程より少し強い口調でマスダが言った。
クリタはきょとんとしながら自転車を降りた。
マスダも降りて、しゃがんで低木の影に隠れた。
『どうしたんだ?』とクリタが尋ねる。
『静かにして』
『いるんだな?…何か』
そう。マスダは真っ当に生きている人を殺す集団、「レイズィーギャグ」に狙われているのだ。

生きていると、たまに気づきがある。
それは空から降ってくるというよりも、今自分が見ているものや想像しているもの、あるいは両方の点が線となって枠を作るというイメージ。
例えば、自転車で走っていると、無意識に風を受けながら感じている風景が脳の中で像を結んで、新しいイメージが湧いていく。
本を読みながら、音楽を聞きながら、テレビを見ながらアイデアが湧くことはあるが、私の場合、それを活用するには一旦本を閉じたり、音楽やテレビを止めたりして脳の中で像を結ぶ時間を作らなければならない。
そして、書き留められるうちに書き留めておく。

二人は低木に隠れ、「そいつ」が来るのを待っていた。
息を潜め、隙を見て攻撃しようという寸法だ。
マスダはサバイバルナイフを取り出して、膝より下に構えた。
クリタは嫌な汗をかき始め、『帰りたい』と思っていた。
だが、この男を見捨てることを選べば、友情どころか、人としての尊厳を失ってしまうと考えたクリタは、
護身用の銃を取り出した。あと3発。
自転車が風に煽られて倒れる。ガシャン!
と同時に、交差点の向こうに異様な気配。二人は身震いした。
『全方位を警戒しろ。あいつは囮で、本命はマンションで身を潜めているのかも』マスダは囁いた。
二人はじっと身を寄せ合う。
………
『おかしい。何も感じなくなった。
…はっ!』
とてつもなく大きな気配!いつの間に移動していたのか分からないが、思わずマスダは声を出してしまった。
来る…来てしまう………
来た!

感情を切り替えたり、いつもと違うことをやってみるのも気づきを与えてくれる行動のひとつだ。
例えば、いつもと違う絵を描いてみたり、靴下を履き替えてみたり。
自分で行動することで、創作につながるかもしれない(そうではないかもしれない)気づきを得るような冒険をすることができる。

しかし、マスダは気づいた。
『あれ?これ気のせいじゃね?』
そう思ってあっさり低木から顔を出すと、大きな気配はただの選挙カーで、交差点の向こうにいたのは、喧嘩がめちゃくちゃ強い親友のツヤマだった。
『ごめん、気のせいだった』マスダはなんともあっさり言った。
『お前………』クリタは寒さで震えているのか怒りで震えているのか分からなくなった。とにかく猛烈にダッシュして逃げるマスダを追いかける。
そしてその後、我に返った二人は、自転車を置いてきたのも忘れて何事もなく家に帰った。

随筆の中に同題の小説を入れてみる、という試みをしてみた。
まあまあうまくいったと自負している。
いつもと違うことをしてみるのも、気づきのための冒険のひとつだ。

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pnatu³「非随筆随筆を書いている人」
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