歯的な詩

私は矯正をしている。
上の歯と下の歯のかみ合わせが悪く、矯正器具をつけなくてはいけないらしい。
だが、私は自分の見た目をあまり気にしないタイプなので矯正にはあまり興味がなかった。ただ、自分の舌足らずな声が少しでも改善されるのを願って矯正をすることを選んだのだ。
しかし予想できたはずの思春期と声変わりが訪れ、矯正に頼らずとも声が変わってきているので、『ア、アレ?』と思いつつ、まぁそれは悪いことではないのであまり考えないようにしている。

矯正をするにあたって、上の歯を二本抜いた。あまり深く考えていないので抜歯の理由はよくわからない。
空洞となった歯茎の隣に生えている歯が、矯正器具をつけてから痛い。
これは当分栄養ゼリー生活になるだろう。
また、一番奥の器具が口中と擦れて痛いので、矯正用ワックスでカバーした。
説明すると、矯正用ワックスというのは種類がいろいろあるが、私が受け取ったのは細長い棒状のもので、手で割ってサイズを調節できる。
食事中や歯磨き中には外さないといけないが、飲み込んでも害はないので寝るときは外さないでいる。

矯正器具というのは見るからに痛そうな形をしている。自転車のペダルの横と同じで、もっと角を少なくできただろ、というデザインだ。
せっかくなら、この器具に歯を矯正する以外の機能が欲しい。
真っ先に思い浮かぶのは器具の一つ一つからビームが出る、という案だ。だが、これは好ましくない。
私が想像しているのは射程距離無限の壁貫通型ビームだが、世界を滅ぼしかねない。暴発でもしたら大変だ。
ではシンプルに、痛みを和らげたり、ご飯を美味しくするという機能はどうだろう。平和的でしかも実用的だ。
器具はあまりに無骨で痛々しい。見栄えを気にして、器具が透明になるとか。あるいは、女の子ならカワイくデコれたり、男の子ならカッコよく変身できたり…いや、矯正器具が変身ベルトなのはあまりにもシュールだ。
時代は発展している。器具にプロジェクションマッピングを施して、「推し」の顔が浮かび上がるようにする。私の場合、カービィシリーズのメタナイトが渋い藍色とともに浮かび上がる。ボイス付きでもいいかもしれない。
こうした様々な案が生み出された結果、選出されたのは「痛み和らげ型」だ。シンプルでユニークでユースフルだ。
ところで、「歯医者」で「痛みを和らげる」といえば、「麻酔」だが…ゲッ!あの麻酔が効いている最中の、想像を絶する気持ち悪い感覚が、器具をつけている間ずっと続くということか!?
やめておくことにした。やはり、考えすぎは良くない。

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pnatu³「非随筆随筆を書いている人」
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