雨の日の景色。
ささやかな雨の日は、傘をささずに歩くのが好きだ。みずみずしい空気が絡みついて気持ちいい。
歩きながら「雨の隙間」を探すけれどうまくいかず、身体がじんわりと濡れていく。「雨と雨の隙間を歩けば濡れないんだよ」なんて聞いたことないけれど(大体、雨と雨の隙間なんて見つけられた試しはない)。とにかくささやかな雨ならば傘なしがいい。
だからその日も、傘をささずに駅へと向かった。
小田急線がホームにとまり扉が開くと、倦怠感をまとった男性やイヤホンをした女性が降りてくる。入れかわりに乾燥ひじきのようなまつげの女性や厚底靴の熟女、腕にアートが描かれた男性が乗り込んだ。みんな適当なイスに腰をおろしスマホを広げだす。空間は分離され、彼らの世界は彼らの目の前だけで広がっていく。どのような景色を見ているのだろう。
そうこうしているうちに目的地についた。
雨は「ささやかではない雨」に進化していた。仕事関係者の前で、ずぶ濡れ姿を見せるわけにはいかない。
カバンから折りたたみ傘をとりだして、空に咲かせる。
こうすると電車の中でスマホを見ていた人たちみたいに自分だけの空間がふわりとつくれるのだ。
雨にあたるのも良し、傘をさして自分だけの移動基地をつくるのも良し。雨の日の在り方は、選択しだいで変わっていく。
あなたはどんな雨景色のなかにいたい?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?