夫の歯
夫の歯の治療が、もうじき一件落着する。だからこそ、ここで私の気持ちをぶつけておきたい。
歯医者へ行ったほうがいいよ!
2年前のある日、夫の歯がぽろりと抜けた。以前から「歯がかゆいかも」とつぶやいていたので、「歯医者へ行ったほうがいいよ!」と、さんざん言っていたのに…。しかも、わりと目立つ部分が抜けたわね!
本人もショックだったようで、すぐに歯医者へ行ってくれた。抜けた歯は「隣の歯と無理やりくっつけました!」感を否めないほど不器用な姿になって帰ってきた。
このまま継続して歯医者へ通院し、なんらかの状態に落ち着くんだろう…と思っていたが違った。その日以降からはパッタリと、夫は歯医者へ行かなくなった。
歯医者へ行ってよ!!
私「ちゃんと治療したほうがいいから、歯医者に行ってよ!」、夫「わかってるよ!」の会話を飽きずに続けること約1年、別の歯が抜けた。それもまたけっこう目立つ場所の歯が抜けたな!
どう考えても、夫の口腔環境が悪すぎる。本当に心配していることも伝えつつ、改めて歯医者へ行くように言った。夫は確かに「わかった、行くよ」と言った。でも、なかなか行かなかった。
「なぜ歯医者へ行かないの?」と聞くと、いつも返ってくるのは「忙しくて時間がなかった」。
夫が勤める会社内には病院がある。費用をおさえられることもあり、そこでの治療を考えていたようだった。そのせいなのかどうかは定かではないけれど、「社内だからいつでも行ける」「あ、仕事で今日も行けなかった〜」というサイクルがくるくると繰り返されていた。
歯医者へ行け!!!!
歯医者へ行かないまま、月日はどんどん過ぎていった。いつ聞いても、返事は「仕事でバタバタして行けなかった」。
私の口調もだんだん強くなっていく。「いい加減にちゃんと通院して!」「歯医者へ行け!!!!」…それでも歯医者に足を向けない夫。おいおいおいおいおいおいおいおいおい。
このフェーズでは、私が「夫の健康が心配すぎてイライラしている」のか、「歯が抜けている状態の夫が許せなくてイライラしている」のか、もはやよくわからなくなっていた。とにかく毎日、夫の顔を見ては病院へ行ってくれない状態が続いていることを思い出し、腹を立てていた。夫の口腔環境とともに悪化する、私の精神衛生。
「歯医者に行く日と、行けなかった場合の対応をLINEで共有してください」
はて、どうしたものか。そこでふと、自分が原稿確認などのやりとりで似たような事態に陥ったときにどうしているかを思い返してみた。
「期限を設定し、進捗を逐一確認してるわ…!」
そこで、夫の歯の治療を徹底的に管理してみることにした。
思い立ったが吉日。まずは夫に「歯医者に行く日と、行けなかった場合の対応を私にLINEで共有してください」と伝えた。当初、夫は「???」という感じだったが、とりあえず言われるままに動いてくれた。
それ以降、夫との歯医者に関するやりとりはすべてLINE上で進めた。
(LINEでのやりとり)
夫「次の歯医者の予約を金曜日16時〜にしました」
夫「行けませんでしたので、また予約しますm(_ _)m」
私「次の予約はいつごろ入れる予定ですか? 決まったら連絡ください」
夫「さっき入れた。来週金曜日の同じ時間だよ」
私「では来週金曜日も行けなかった場合、社外の歯医者を予約してください」
夫「でも費用がかかるから、また社内にするよ」
私「ずっと通院できないようなら『口腔環境は悪化する一方』という意味で、費用がかかる・かからないを選択している場合ではないと思います。来週金曜日がダメなら社外へ通院してください。どうしても費用をかけたくないなら、今週金曜日に必ず通院してください」
夫「承知しました」
結果、上記のやりとりをもう1周したのち、夫は社外の歯医者へ行った。通院当日は、Alexaでもリマインドをかけた。
やりとりで意識したのは「機械的にやること」。基本的にLINE上のやりとりに集約したのも「さっさと歯医者行け!!!」と言ってしまいそうな気持ちを出さないためだ。「行けなかった」と連絡がきても、その原因よりも次のアクションをどうするかのみ追及した。
このやりとりをしてよかったことは、夫が歯医者へ行ってくれたことはもちろんだけれど、なにより「LINEのみで話す」と切り分けたおかげで無駄にイライラしなくなったことだった。
そして先日、夫の口内に新しい歯が登場した。治療は順調に進んでいる。本当によかった。でも、「まだ新しい歯に慣れないなぁ〜」と笑う夫の口元が目に入ると、ほっとする気持ちとともに「その歯を叩き折っていいのは私だけだからな」なんて考えがときどきよぎる。
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