全てあなたの所為です。の楽曲を聴いてみた感想のようなもの

今回は突発的な記事になります。

全てあなたの所為です。


前々から名前というか存在自体は認知していたのですが、実際に聴いたことはなかったので、YouTubeにてアップされているすべての楽曲を聴き、その感想をしたためておきます。ここに。



全てあなたの所為です。の中では最古の楽曲。
意味不明性、あるいは暗号性を示唆する歌詞のみで構成されているが、その奥、つまり音源はあまりにもベタだ。
ところで、言語の拡張性を振り切る、あるいは意図して文字化けのような奇怪な文章を生成する、という発想はなにも珍しいものではないとわたしは思う。その上で、この楽曲の性質は「耳心地」に寄りかかり過ぎている。それ以上のものが見込めないのであれば、これは凡作、習作の域を出ていない。

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チャンネル内で最も再生されていた動画がこれだったので、おそらくはこれが全てあなたの所為です。の代表曲なのだろう。
まず、詩的な言い回しが歌詞にふたつほど含まれている。「たわむれに書いた傘の中、ひとりでに骨が折れ」であるとか、「湧き出た光る水を、飲んでみたくなり、空っぽだったはずなのに、器から溢れてしまいそうで、ひとくち含んでみたら、甘すぎて吐き出したよ。」といったものである。ただ、後者がもしも「甘すぎて吐いたのでした。」というような詩であった場合は、まったくつまらない。絶妙にピントの合っていない表現を選ぶのがいい。
しかしながら、「やむ終えず」「デンチが腐っていた」「全てあなたの所為です」といった詩は、残念ながら絶望的につまらない。いずれもメタファとしての意味合いが浅く、狙いすぎの念が否めない。傾向的で官僚的。

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一つの点が別の一つの点を追い抜きそうになり、それらが結び合ってグルグルと回転する意味ありげな映像から始まる。しかしながら、この楽曲はその何かありそうな雰囲気と裏腹に、光りのないものになっている。
前作「.」に存在していた、混沌とした時間あるいは空間を大胆なスケッチで表現するという試みを諦め、「シアン化合物」だの「テレメトリ信号」だの、非常に明晰かつ、科学的な表現を安易にも用いたことが気に入らない。
また、「手足が痺れはじめ。」という表現は好ましいが、そのあとに続く「からだ中に差し込まれてく、いかにもな理由を添えて、どうして針はこちらを向いて、繰り言を吐くの?」という詩は真っ当に面白くない。文章構造が好みでないし、「〜て」の重複も美しくない。

教育

単純につまらない。誰でも思いつきそうな詩。

アブジェ

これまでの全てあなたの所為です。の楽曲がバントだとしたら、この楽曲は紛れもなくバスターである。
「裏返った蜻蛉の羽が、世を分かつ、考えた事はありますか、おぞましさとは? 美しさとは?」という部分が良い。「裏返った」と表現する事で、非生命的な響きを生み出している。また、「おぞましさ」のくだりは、表題の「アブジェ」(おそらく英単語「abject」から来ているものだろう)に回帰してもいる。
だが、またも「誰が為に花は咲くのでしょう。」という至極つまらない表現が現れる。どうしてそんなベタ的な言い回しをするのだろう。世界の真理に触れているつもりなのかもしれないが、すでに濃く手垢がついてしまっているからもうおしまいだ。

これまでの楽曲の中で、断トツ魅力を感じない。
特に「顰蹙の密売商人が、」という詩。なんだこれ。二日酔いの流行作家が金のためにだけに書いたような文章? そして「全てあなたの所為です。」? なんそれ? その一言に尽きる。

ここにきて、唐突に詩の才知が弾けた。「絡まった電線が解けなくて、屋上に夜明けの晩のチャイムが響く、還り道、ヂリリと左の方へ、ベルの音が聞いて欲しそうに鳴った。」という、日常SF的とも言えるはじまり。良い感じに不穏を感じさせながらの「小さな窓があり、真っ赤な屋根の、電話ボックスが手を招き、出鱈目な抑揚で、声をかけてきたのです。」で、全てあなたの所為です。世界における不条理を湾曲的に示している。それを平易な言葉で表現しているのもまたいい。
そして「ぬめりとした呻き、穏やかな不協和音、ガチャリと折れる腕、箱の中の鵺の鳴く声に、耳を澄ましてはいけません。」という詩で、緊張の中間から一気にグーっと極地までさらわれる。ただし、力が入った感じはするが。
それから少し無感動な詩を挟んだ後、「ガチャリと閉まる喉、三寸五分の煙突の方、目を合わせてはいけません。」と回帰する。

この作者は意味不明性よりも、身の回りにあるモノの具体性をうまく詩にできる傾向があると感じた。

映像凄く頑張ったんだろうなという印象。それ以上でもそれ以下でもない。

名の無い星が空に堕ちたら

これまでとは打って変わって、土着的な印象を受ける。
以前の楽曲との明確な違いは、世界と自分との差異から生じる「圧力の深さ」と、その深さ以上の傷が入った「作者の感受性の歪み」の二点。そういった意味では、この作者が適度に通俗的な感性を持ち合わせていることを示唆してもいる。

エヌ

これまでの映像スタイルを一新したようだが、楽曲そのものはちゃんとベタのままだった。
「夢見心地のビーカーは、妙な感じがすると言う。無痛の地下室では、白夜とは呼べないが。」など中途半端に衒学的なせいで、本質の部分である意味不明性の切れ味が弱まってしまっているという懸念要素を残しつつも、「ゴミ捨て場から飛び降りて、明日が転がった。」や「ぬいぐるみが溺れていた、待ち合わせの音。」という、味わい深い詩を残すことには成功している。

ひねりのない、「ただそれだけ?」という感じの詩が続く。
特に「偽物の美しささえも、愛おしくて。」などというコテコテの美文には強い抵抗を覚えた。むしろ戸惑うまである。
最初から最後まで「コレジャナイ感」が強い。

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