あれはもうなつかしい
5月の風が一番好きなんだ
と、つぶやきつつ、あの日、湖となった水田のほとりで私は窓を全開にした車と新緑を遊ばせていた。6月に入るとすぐに空はくすみ、雨ばかりが降っている。
なので1週間前にもかかわらず、あの風はもう私の中で懐かしいものとなっていた。
時間の流れは絶え間なく、留まることを許してはくれない。その一瞬がどれほど心地のよいものだったとしても。
しかし風の流れと香りは飛翔しながらも私をたぶん待ってくれている。そして定着させた5月の光の痕跡フィルムは、今日も私に5月だった化石の余韻を運び続けてくれている。
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