8月4日/週明け以降の投資戦略
「金利が上がると銀行は儲かると聞いてたのに、利上げで株価が急落したのはどうしてですか?」とツイートした所、現時点で100件超という予想を遥かに超えるコメントを頂いて驚きました。皆様本当にありがとうございます(一部、人をバカにしたような不快なコメントも受けていますが…)。
ただ、私自身「どうして利上げで銀行株が急落したのか全く意味が分からない!誰か助けて!」と困惑している訳ではありません。というかメンバーシップの方ならご存じかと思いますが、私は銀行株を1株たりとも保有していません。
もちろん、銀行株急落の理由として個人的に思っている所はあります。今回ツイッターで質問してみたのは、実際の銀行株ホルダーが今回の件をどのように捉えているかという事を聞いてみたかったからです。
頂いた意見の中には、「利上げによる材料出尽くしで下げた」というものも結構ありました。が、私の認識ではそれは全く違います(あくまで私の認識ですよ)。そもそも今回、銀行株は日銀が利上げを決定した時点(31日午後)では大きく上昇していました。しかしその日の引け後に植田総裁が更なる追加の利上げの可能性を示唆する発言といった「新材料」がきっかけとなり下落に転じています。もし「材料出尽くし」が原因だというのなら、これらの株価の動きは逆でなければおかしい筈です。つまり日銀が利上げを決定した時点で「材料出尽くし」で株価が下がり、その後の会見で新たな材料が出て株価が上がる…とならなければ話が矛盾しています。というかそもそも、植田総裁は今回の会合で市場予想に反する形でタカ派化しており、しかも今後どれだけ利上げするか分からないというような恐ろしい事を言っているのですから、材料など全く出尽くしていません。むしろ今後の利上げ材料が一気に増えたと言った方がいいぐらいです。
ではなぜ利上げという「いかにも銀行に有利なりそうな」事象に対して株価が強烈に下げたのか。それはいろんな理由があるでしょうけど、私から言わせれば要は「今回の利上げによって景気後退懸念が強烈に印象付けられた」に尽きると思います。
銀行株は指標上は低PBRで配当利回りも結構高く、特に投資歴の浅い個人投資家に人気のセクターです。しかもここ2~3年は金利上昇局面とあって、株関連の記事などでも「利上げ局面でのオススメは銀行株!」というような台詞が本当によく見られました。しかし私は以前のブログでも「金利上昇が銀行にとって本当に良い事なのかどうか考えるべきだ」という事を一貫して述べてきました。確かに金利上昇によって銀行は利ザヤで稼ぐ余地が大きくなります。実際今まさに、各銀行は預金金利はほんの僅かしか引き上げていないのに企業への貸出金利は大きく引き上げ始めています。
ただし、銀行が商売相手にしているのは結局は民間企業です。利上げは民間企業の経営を大いに痛めつけます。具体的には民間企業は利上げによって借り入れを抑制するようになり、それは銀行の経営に直撃します。あるいは最悪の場合、民間企業が高い金利(支払利息)に耐えられず倒産してしまうかもしれません。そうなったら銀行としては貸し倒れとなってしまい、一気に損失が膨らみます。結局のところ、銀行も利上げのデメリットは大きいのです。その利上げが急速かつ大規模なものである場合は特に。
とまあ銀行の話を長々としてきましたが、今回私が言いたいのは銀行の経営についてではありません。要は私が思うのは、これまでなら「利上げ歓迎!」とばかりに銀行株が上がりそうな局面で、むしろ全業種の先頭を走るように銀行株が下落した…これは相場転換のサインなのではないかと思う、という事です。
利上げで銀行株が潤うなんていうのは、所詮は景気が良い時の「健全な」利上げ限定の話です。景気を強烈に痛めつけるような利上げに対しては話は全く異なります。今回は、政策金利0.25%の利上げ決定までは市場にある程度織り込まれていた「正常」な利上げの範囲内だったけれども、その後に植田総裁から今後の無制限利上げを示唆するような発言がでて、「このオッサン何を言うとんねん。そんな事したら景気そのものがめちゃくちゃ悪くなって銀行の業績もアカンようになるやろ…」と捉えれれたと見るのが妥当…というのが私の認識です。
例えば、日本の現況をちょっと俯瞰的に見てみます。
日本は長年のデフレに苦しんできました。しかし近年、(コストプッシュとはいえ)ついにそこそこのインフレが到来しています。日本社会は(嫌々ながらも)インフレを受け入れ始め、企業もついに賃上げを始めました。この調子でいけば、そう遠くない将来に賃金上昇と物価上昇の好循環(というか世界的には当たり前の)サイクルが到来しそうな雰囲気は確かにあります。日銀が総裁が植田に代わって以降YCC撤廃やマイナス金利解除などの動きを見せているのは気になりますが、本格的な金融引き締めはまだまだ先になるだろう。これなら日本経済の将来は明るそうだ……
と思った途端に、予想より早いタイミングでの政策金利の利上げと国債買い入れ減額のダブルパンチ、さらには直後の会見で今後無制限の利上げ示唆という強烈な金融引き締め示唆です。もし私が外国人なら、この日銀の動きを以下のように評価するでしょう。
「ああ、日本はたかが3%程度の微インフレを受け入れずに、また円高デフレに戻る道を選択したんだな…」
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?