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「琵琶学コンクール」攻略法をドシロウトが考えてみた


応募数は減少傾向か

先日行われた「第60回琵琶学コンクール」は25名の演奏者が出場しましたが、応募者は28名だったそうです。 
ほぼ水準であれば、本選に出られたようです。

前回の第59回では40名弱の応募だったそうで。
 
ちなみにコロナ禍前は50人以上だったということですから、この応募者減少は、コロナ禍後の不景気によるものではないかと思います。

応募に伴う審査料金(〜50,000円)や、出場にかかる交通・宿泊費、特訓の礼金などを考えると、応募を控える動きは続くのではないでしょうか。

地方在住の実力者が出場を見送るのであれば、
顎足枕の観点で、関東在住者は有利です。

発声と発音を徹底訓練する


「受賞者を含めて、出場者全員、裏声がきちんと出せていない」
という鶴賀若狭掾先生の昨年の講評には驚いたのですが、
今年もほぼ同じ講評で、発声と発音の弱さが目立つと指摘されていました。
さらに今年は
「審査員席まで声が届かない方もいらっしゃいました」
という厳しい指摘も他の先生からありました。

「口を大きく開けて発声すること、すぐに裏声に移行せず、まずは地の声で音域を拡げることを、必ず師匠について稽古してください」
と、双方向の訓練の大切さを、去年に引き続き言われる鶴賀若狭掾先生。

去年、今年と同じ課題を出されているということは、ここを克服すれば、勝利に近づくということでは? 

しかしながら、なぜ出場者のほぼ全員が
発声と発音について、弱さを指摘されるのでしょうか?
 
おそらく、琵琶はマイナー、かつお金のかかる
趣味なので、
ある程度の年齢を重ねてから始める方が多く、
腹式呼吸による発声、口を大きく開ける発音が
オートマチックに出来るほどには
身についていないのではないかと推察します。
 
日本語は口をほとんど開けず、浅い胸式呼吸で話す超省エネ言語です。
口を開けることは意識できても、同時に腹式呼吸も意識するのは至難の技でしょう。
日本語が母語の方は生まれつき腹式呼吸に慣れてないし、習ってもホメオスタシスが働いて、元に戻ってしまいがちです。
 
しかし、声は40歳頃に完成されて、さらに成長させられるとも言いますし、喉を鍛えておくと、高齢になっても誤嚥をせず、肺炎による死亡を避けられるとも聞きます。
訓練する甲斐はありそうです。
 
ガッチリと発声、発音を鍛えて、加点をいただきましょう。
25人ほぼ全員が出来てないなら、出来ただけで相当なアドバンテージですよね。
 
師匠レベルだと幼い頃、若い頃から琵琶を弾いている方がほとんどでしょうから、発声発音は身体に染み付いていて、大人になってから発声発音を身につける指導方法がわからないという事例も
ありそうです。
 
ボイストレーニングに通ってみるとか、
専門的なアプローチも試してみるといいかも
しれないですね。
 
民謡や声楽などを若い頃から学ばれ、発音と発声をガッチリ訓練されてきた方は、チャンスですよ!
琵琶を始められてはいかがですか?
琵琶人口は1,000人にも満たないので
希少価値が出てくるでしょうし、
日本最古の語り芸術としての歴史があるので
各方面から大事にされていますから
やり甲斐もありそうですよ。
 
(久々の琵琶姐さん発動)


琵琶はソロの総合芸術 楽曲の選定、顔や声色のお芝居など、全てが重要


琵琶コンクールの審査員は5名で構成されていて、
西洋音楽邦楽の女性研究者が2名、新内節鶴賀流11代目家元である人間国宝 鶴賀若狭掾先生、国立劇場の伝統芸能担当ディレクター、NHKの邦楽部門のプロデューサーです。

今年は5名ともに、去年と同じ方々でした。
 
全員が講評をされますが、今年はその中でも
「自分の声と相性の良い楽曲を選ぶ」
「声と演奏の融合、バランスを考える」
「最初の音、声で世界観を創って、
すぐに引き込んで欲しい」
というアドバイスが印象に残りました。
 
自己プロデュースという行為について、考えさせられる講評でした。
 
また、幕が上がったときに、目に入るのは、姿勢や衣装ですから、演奏より大事なわけではないにせよ、やはりこれらも重要な要素だと思います。
 
琵琶奏者は自作自演家ならぬ、他作自演家でなければならないのでしょう。


私もドシロウトながら、琵琶コンクールを聴いていて
「この曲で、この柄、色の和服は世界観に合ってないのでは?
審査の点数に関係なくても、心象に反映するんじゃないかしら。先生だって人間だもの」
「琵琶曲ってキー変えれないのかな? 低過ぎて声が出てないのか、ほぼ聴こえないんですけど」
「楽器ほとんど弾いてなくない? 他の弦使い技師に比べて圧倒的に弱いカンジ。でも、唄に自信があるなら、この曲選びは正解なのかな?」
「顔芸上手い人は加点かもなぁ。臨場感がマシマシだもんね」
などなど、いろんな感想を持ちましたが、
審査員の先生方も、一観客としては私と同じく「楽しませて欲しい」というシンプルなお気持ちを持ってらっしゃるのよね、と思いました。

そういう意味では、今年は去年に比べて、楽しめる演奏が少なかったなぁと残念に思いました。
 


コンクールで勝ちやすい流派、そしてその先には…


「コンクールで勝ちやすい流派は、あります」
と講評ではっきり言われていた先生がいらっしゃいました。
ごまかさない審査の姿勢が気持ちいいですね。

「楽器の構造も、楽曲もこれだけ違うのに、
同じ琵琶ってだけで括ってコンクールやってるけど、どうやって順位をつけるんだろう?」
という疑問に対して、答えを出してくださっています。
 
勝ちやすい流派はある。
けれど、発声や発音など唄の基本が出来ていること、楽曲を理解して、それに沿った演奏をしていること、そして何よりも
「語りの芸術としての完成度」
を示せているかどうかで、平等に優劣を付ける。
ということでしょうね。
 
それを考えると、創始者が表現としての琵琶を「楽器」「楽曲」ともに、現代人にも受け入れられるようにと進化させた鶴田流がもっとも勝ちやすいのではないかと思います。
 
優勝者は一年間、琵琶界の顔として活動するそうです。

その活動の評判が良ければ、海外からも招聘が増えるでしょう。
海外の琵琶とははっきりと違う、日本の琵琶としての姿形の特徴をわかりやすく持っている鶴田流は、この点でも有利かと思います。

鶴田流は創始者が海外でもっとも名を知られている日本人琵琶師の鶴田錦史氏であるということも、海外の招聘者には嬉しいことでしょう。
 
あと、これを言ってはおしまいなんでしょうが(苦笑)、
男性よりは女性の方が衣装や髪型、メイクなどのスタイリングの幅がある分だけ、世界観創りにおいては有利かと思われます。
若さ、美貌、圧倒的な個性などが付いてくれば、さらに有利でしょうね。
 
これらはもちろん私個人が「オトナの事情」を勝手に考えた上で「有利」だと思っているだけで、皆目見当違いかもしれません。
 
今回の第60回の優勝者は筑前琵琶の演奏者でしたし、2位は錦心流の男性演奏者でした。

なので、鶴田流ではない流派や男性が勝ちにくいというわけではないです。

筑前琵琶は楽曲がメロディアスですし、女性向きの楽曲も多いようなので、女性奏者には勝ちやすい流派のひとつと言えると思います。
 
なんといっても、琵琶奏者唯一の人間国宝は筑前琵琶師の方ですしね。

しかし、これから琵琶を始めて、コンクールで勝って箔をつけて、琵琶師として立っていきたいと長い目で考えるのであれば、先ほど挙げたさまざまな点から見て、鶴田流が有利かと私は考えます。


勝ちやすい楽曲選びとは


コンクールでは
・古典の難曲でテクニックを発揮
・複数の登場人物を演じ分ける
・臨場感で盛り上げる
・最後に余韻たっぷりめで印象づける
・情緒で酔わせる
などの点を発揮することを考えて、選曲する方が多いようです。
 
しかし、審査員の先生から指摘があったように、
声質や声域と合っていない選曲をすれば、
どう頑張っても勝てる演奏には仕上がらない
でしょう。
 
今回の第60回コンクールの曲目を記録しておきます。
①〜③は受賞者、⭐︎は入選

⭐︎「西郷隆盛」3名
「本能寺」2名
「白虎隊」2名
「熊谷と敦盛」
「八甲田山」
③「玉藻の前」
「那須与一」
「雪晴れ」
「東日本大震災」
「巴の前」
「新曲白虎隊」
「湖水渡」
「淀君」
①「若き敦盛」
「夕顔」
⭐︎「石堂丸」
「彰義隊」
②「巌流島」
「月下の陣」
「新撰組」
「大楠公」
以上
※公式サイトの更新がまだないので確認ができず、誤りがあるかもしれません

前回第59回は
⭐︎「白虎隊」3名
「西郷隆盛」3名
「八甲田山」2名
「城山」
⭐︎「羅生門」
「東日本大震災」
①「那須与一」
⭐︎「花吹雪」
「船弁慶」
⭐︎「義士の本懐」
「本能寺」
「扇の的」
「巴御前」
「三方が原」
⭐︎「義経」
「北の庄」
②「若き敦盛」
「新曲 白虎隊」
「次郎法師直虎」
③「玉藻の前」

でした。

「西郷隆盛」「白虎隊」「八甲田山」「本能寺」は、コンクール以外でもよく耳にします。
 
 この4曲の中であれば「本能寺」を推します。
武将・織田信長の凄絶な最期は、そのへんのギャルでも聞いたことのあるであろう有名な歴史的事件ですし、語りがいのある楽曲です。
 この曲で優勝できれば、新聞やネットニュースなどのインタビューでも、映えるでしょうね。
織田信長大好きな人、多いですし。
 
「八甲田山」は悲惨過ぎるし、
「白虎隊」はかわいそう過ぎて、
どちらもあまり好きではないです(苦笑)

でも、どちらも有名な話でわかりやすいので、
演者聴衆双方がとっつきやすいでしょうし、
「八甲田山」の吹雪の表現などは、
うまく出来れば臨場感を作れて
加点も多そうで、コンクールに向いているような気はします。
 
 

まとめ

 
以上、琵琶コンクールを観て、見聞きしたことや
思うところなどを、攻略法ということで
まとめてみました。
 
1. 応募者が減っているので、本選出場チャンスは拡がっている。
 
2.発声と発音を鍛え上げる。
場合によっては、ボイストレーニングの専門家による指導も取り入れると良いかもしれない。

3.他作自演家として、楽曲を理解し世界観を創作し、全身全霊で表現する。

4.勝ちやすい流派はあると審査員が明言している。
筆者は、オトナの事情で勝たせたい流派、演奏者の属性もあると推測する上で、薩摩系の鶴田流が有利であると考える。
 
5.勝ちやすい楽曲というよりは、自分の声質や
声域と合っている曲を選べるかどうかが肝。
審査員席に声が届かないとか、
違和感を持たせるような選曲は失敗。
その上で、その曲が世界観を創りやすいか、
加点要素をどれだけ持っているかなど、
研究して選ぶと良さげである。





 

 

 


 


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